日立と東北大学、金属用3Dプリンターを用いた合金積層造形技術を開発


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株式会社日立製作所(執行役社長兼COO:東原 敏昭/以下、日立製作所)および、国立大学法人東北大学(所在地:宮城県仙台市、総長:里見 進/以下、東北大)は、金属用3Dプリンターを用いた、強度と耐食性に優れたハイエントロピー合金(※1)(HiPEACE※2)の積層造形技術を開発した。

図1: 鋳造法と3Dプリンターを用いて製造した部品の組織と特性の比較hitachi-and-tohoku-university-developed-an-alloy-additive-fabrication-technology-using-a-3d-printer-for-metal20160217-1

図2:試作造形に成功した複雑な形状を有する羽根車hitachi-and-tohoku-university-developed-an-alloy-additive-fabrication-technology-using-a-3d-printer-for-metal20160217-2

従来比1.2倍の引張強度と1.7倍の孔食電位を備えた、複雑な形状部品の試作に成功

具体的に日立と東北大の両者は、従来手法の金属用3Dプリンターによる部品製造と比較して、1.2倍の引張強度でを持つ1300 MPa(※3)と、耐食性の指標である孔食電位が1.7倍となる0.85 V vs Ag/AgCl(※4)を備え、<図1(B)から(C)>かつ組成ムラ(※5)が無く、均質で複雑な形状の部品を製造試作を可能とした(図2)。

一般に、化学プラントや油井、ガス井掘削設備などの部品は、強い腐食性ガスにさらされる環境下で使用され、安全性を確保するために高い強度と耐食性が求められる。

このような高い強度と腐食耐性が要求される化学プラントなどを製造する際に、設備の長寿命化や稼働率向上に、ハイエントロピー合金の積層造形技術が役立つとしている。

日立と東北大は研究の末、このほど遂にハイエントロピー合金の積層造形技術を実用化へ

元来、日立と東北大は、2014年より高強度・高耐食な部品製造技術の開発を進めてきたのだが、ハイエントロピー合金は、多種類の元素で構成されているため、鋳造(※6)時に組成ムラを生じ易く、高硬度のために加工が難しいという課題があった。

そこで、金属用3Dプリンターを用いる際、製造時に高硬度の金属間化合物(※7)を網目状に析出(※8)させることにより、鋳造時に比べて、引張強度を1.4倍高めることに成功していた。<図1(A)から(B)>

しかし一方で実用化に向けて、さらなる引張強度と耐食性の向上が求められてもいた。そこで日立と東北大は、金属用3Dプリンターを用いた製造工程のうち局所溶融・急冷凝固プロセスを最適化したハイエントロピー合金(HiPEACE)の積層造形技術を新たに開発した。

開発した技術の概要は以下の通り。

金属用3Dプリンターを用いた積層造形技術
3Dプリンターを用いた部品の造形は、平坦に敷き詰められた70µm程度の厚さの金属粉末に、設計図に基づいて電子ビームを照射し、必要な部分だけを溶融・凝固させて層を形成する工程を繰り返し行う。

この時、凝固速度が速くなるほど金属間化合物が微細になって均一に分散し、引張強度や耐食性が改善される事が判った。

そこで、電子ビームのエネルギーと照射時の走査速度(※9)に加えて、ハイエントロピー合金(HiPEACE)の粉末を完全に溶融させる前に、低エネルギーの電子ビームを粉末全体に照射する予熱プロセスに着目。

粉末の予熱温度を必要最低限に制御し、予熱温度と溶融温度の差を大きくすることで、凝固速度が速くなった。

その結果、高耐食性を有するマトリクス相中*10に数10nm程度の高硬度な金属間化合物を均一に分散させることに成功した。<図1(C)>

これにより、ハイエントロピー合金(HiPEACE)を材料として、従来の1.2倍の引張強度と耐食性の指標である孔食電位を1.7倍とすることの両立に成功。<図1(B)から(c)>結果、組成ムラが無く均質で複雑な形状部品の製造が可能となった。

なお本成果は、2月14日から18日に米国テネシー州で開催される国際学会TMS (The Minerals, Metals & Materials Society)2016にて発表する予定。

(※1)それぞれの添加割合がほぼ等しい、5種類以上の金属元素から構成される多元素合金として定義される高いポテンシャルを秘めた新しい合金。

(※2)Hitachi Printable Extreme Alloy for Corrosive Environmentの略で日立製作所が開発したハイエントロピー合金。

(※3)引張試験片に付与した力(N)を試験片の断面積(mm2)で除して求めた応力の単位であり、1 N/mm2= 1 MPa。

(※4)海水環境(3.5 % NaCl), 80℃において、腐食電流密度が0.1 mA/cm2に達する時の電位であり、銀-塩化銀電極を基準にして測定された値。

(※5)組成ムラ: ある合金元素の偏在を意味する。

(※6)鋳造: 溶湯 (溶融金属) を鋳型に注入して所定の形の鋳物をつくる従来の合金製造技術。

(※7)金属間化合物: 2種類以上の金属によって構成される化合物。

(※8)析出: 液体の中から固体が分離して出てくること。

(※9)走査速度: 電子ビームをスキャンさせる速度。

(※10) マトリクス相中: 合金の体積の大部分を占める組織構成要素をマトリックスといい,マトリックスを構成している相をマトリック相と呼ぶ。