独検察、VWのヴィンターコーン元CEOを排ガス不正で起訴


2015年に自動車業界を揺るがした「ディーゼルゲート」、その行方でドイツ時間の4月15日に大きな動きがあった。同国ニーダーザクセン州ブラウンシュヴァイク市の検察当局が、フォルクスワーゲングループ(VW)元CEOのマルティン・ヴィンターコーン氏(71)を詐欺罪で起訴した。(坂上 賢治)

訴状は、今から4年前の2015年9月に露呈したディーゼル車の排ガス不正スキャンダルで、同氏が深く関わっていたとされるもの。

その経緯は、2006年11月15日から2015年9月22日までの延べ6年の間、独VWが米国内で販売していたクリーン・ディーゼルモデルが、米EPAの排出ガス規制を意図的に回避していたとするニュースが世界を駆け巡ったことに遡る。

この騒ぎが発端となって、2007年からVWグループCEOの地位にあったヴィンターコーン氏が、米国内で流通していたディーゼル車両全域にあたる48万2000台のリコールを発表。今回、ブラウンシュヴァイクの検察当局は、先の6年間に亘って複数の違法行為があったと指摘した。

当時VWは、米国の排出ガス規制から免れるために車両規定の試験実施時にだけ、有害物質の排出量を抑える違法なソフトウエアを搭載してこれをクリアした。その後グループ傘下を含み、欧米で延べ905万台の車両販売を消化。

2014年5月の時点で、社内の不正行為が逃れようのない事実であると認識されて以降も、世界中で約1100万台のディーゼル車を販売して各国の消費者や当局を欺き、経営トップとして責任ある行動を怠った罪は重いと述べている。

なお同起訴発動に伴い、名前自体が明らかにされてはいないが、当時の同社幹部4人も併せて起訴したと発表している。

ヴィンターコーン氏は社内不正が発覚した直後に、企業の混乱をもたらした責任を取るかたちで辞任。しかし今も排出ガス不正事件に関して、不正が明るみになる直前に至るまで、これらの事実をまったく把握していなかったと主張している。

これを契機にVWブランドに対する信頼感は地に落ち、同社は通算280億ユーロ(約3兆5千億円)超の罰金刑並びに賠償刑を自らでたぐり寄せてしまった。

また複数の自社経営幹部が、刑事罰の容疑者になるという深刻な状況をも作り出した。

結果、ヴィンターコーン氏は、不正発覚の震源地となった2018年の米国で、排ガス規制逃れを認識しながらも証券を発行し続けて、米国の投資家を欺いたとして米証券取引委員会(SEC)から陰謀や詐欺などの重罪で起訴された。

しかし米国司法省が訴追して以降、米国側と直に接触する機会が得られず、未だ米当地で逮捕されるには至っていない。

一方で2007年以前、フォルクスワーゲングループ会長の要職にあったフェルディナント・ピエヒ氏をサポートする職責に就き、2018年6月18日時点でアウディAGの取締役会会長職であったルパート シュタートラー氏は、ミュンヘン検察庁に身柄を拘束された。

なお現行のVW・CEOであるディース氏は、今回の検察の起訴対象となっている名前に、自身は該当していないと回答している。

この経緯の後始末でドイツ国内では、同国の連立政権が広範囲に亘るディーゼル車両協定に関する交渉過程を発表。

独政府は旧ディーゼル車両の所有者を救うべく、VWが国の大気汚染問題に真摯に対処してくれることに期待して行ってきた事であるのだが、独国内でこうした諸問題が完全に解決した訳ではない。

そもそも2017年時点で、ドイツ主要都市を含む60以上の地域でNOx(窒素酸化物)値がEU限界を超えており、今も深刻な社会問題となって横たわる。

実際、未だユーロ5基準のディーゼル車が500万台規模、ユーロ4基準のディーゼル車の300万台規模が今も市中を走行しており、ディーゼル車の将来に関する不確実性は未だ解消していない。大気汚染問題に伴う自動車利用で、同国民ならびに連立政権は今も政治的に激しく揺さぶられている。

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