独VW、ハンブルク市で自動運転車の走行テストを実施


フォルクスワーゲンAG(本社:ドイツ・ニーダーザクセン州ヴォルフスブルク、グループCEO:ヘルベルト・ディース)の自動運車の研究部門は現地時間の4月3日、ハンブルクの市街地で自動運転車両(レベル4)の実走テストを実施した。(坂上 賢治)

同社は、ドイツ国内のリアルな都市環境でレベル4の自動運転実証を行うのは今回が初の試みだとしている。

実証ではレーザースキャナー、カメラ、超音波センサー、レーダー装置を搭載した5台の「e-ゴルフ(e-Golf)」を用い、同社とハンブルク市で検討・設計した自動運転機能/コネクテッド機能搭載車専用のテスト区間(3km/TAVF)で実走テストを繰り返す方針である。

このTAVFというのは、ドイツ連邦の交通デジタルインフラ省(BMVI)によって規定された自動運転車の実証テストコースのことを指す。

実証車両はレベル4対応の特別仕様車を用意

フォルクスワーゲンは、同規定コースに対して専用設計のe-ゴルフを用意した。車両には11基のレーザースキャナーに7基のレーダー、そして14台のカメラを搭載。

センサーから入力される1分あたりのデータ通信容量が最大5ギガバイトに達するため、同車のトランクルームには一般的なノートパソコン約15台分相当の処理能力を持つ車載コンピューターを積んでいる。

これらのセンサーと高度な計算能力を駆使して、歩行者や自転車のみならず、他の走行車両、駐車車両、交差点などの周辺環境を的確に認識。

車両運行上の優先権などへの配慮も理解しながら、移動中の車線変更を行う等の走行判断を繰り返し、瞬時にミリ秒単位での移動行動をこなす。

この際、車載コンピューター上のソフトウェアは、周囲の全てのオブジェクトを認識し、ミスなく粛々と判断して走行を続けなければならない。

そのため、車両自らがディープラーニングやニューラルネットワーク、パターン認識を介して、人工知能の成熟を重ねていく。

もちろん今回のハンブルクの走行実験では、安全上の観点から特別なトレーニングを受けた専任のテストドライバーが常に運転席に座り、あらゆる運転機能を常に監視しつつ、緊急時には、いつでも自動走行に介入できるようにしている。

都市のリアルな走行環境下で実証テストを開始

併せて同社は、今実証テストのためI2V(Infrastructure to Vehicle)技術を用いてインフラ環境から対象車両へ。また反対にV2I(Vehicle to Infrastructure)を用いて車両からインフラ環境への情報通信を活用出来るよう、車両の通信機能を整備した。

このI2V並びにV2Iというのは、車内外のセンサーが収集した情報に、あらかじめクラウド上に設けられたAIや地図情報を組み合わせることで、周囲の状況を車両自身が把握するだけでなく、進行方向先の前方状況がどうなっているかをあらかじめ予測するもの。

例えば建物の裏側や、先が見えないブラインドカーブの状況をあらかじめ映し出したりすることが出来る技術だ。

ケースによっては車両乗員に対して、こうした情報を単なる数値として差し示すだけでなく、人間が理解し易いアバターなどを介して、より直感的に情報を提供するためのヒューマンインターフェースを用意することもある。

なお今回は、ハンブルグ市が同実証環境の整備に率先的に協力。あらかじめ最新の通信環境が組み込まれた走行区間が整備された。これにより公道上で新たな運転支援システムを検証していく先進的な環境が実現した。

実証テストを行った結果は、走行テストを繰り返すことで継続的に評価・検証され、フォルクスワーゲングループの自動運転研究に係るビッグデータとして、未来の顧客サービスやパーソナルモビリティの開発研究に資される。

都市下のテスト走行は自動運転の進化を促す

同実証の開始にあたり、フォルクスワーゲンAGでの研究開発を主導するアクセル・ハインリッヒ氏は「今回のテストは、技術的な可能性を追求することに加えて、未来の都市インフラ整備をどのようにしていくかにも重点を置いて取り組んでいます。

将来の自動運転をより安全で快適なものにするためには、車両がインテリジェントな存在になるだけでなく、信号機や交通管制システムもインテリジェントな存在になるべきです。

または車両同士でも相互通信を行うこで、貴重な走行データを互いの知見を共有していくデジタルエコシステムも整備する必要があります」と話している。

そもそもこうした取り組みは、フォルクスワーゲンの努力だけで完成に至ることはない。そこでハンブルク市もこの実証テストを受け付ける行政機関として、未来に向けたインフラ環境に最適化していくべく信号機を筆頭に通信機能の改善・実装を行う。

ちなみに同社とハンブルグ市は、さらに高度な自動運転環境を構築していくべく、当地のテスト区間を9kmにまで延伸中で、最終的な自動走行の環境< https://tavf.hamburg/en/ >を、来る2020年中に完成させるべく努力を重ねている。

ハンザ同盟を背景とした戦略的プロジェクト

このような取り組みを行う行政側の考え方について、ハンザ同盟の一翼を担うハンブルク市の経済・運輸に係るイノベーション担当上院議員のミヒャエル・ヴェストハー ゲマン氏は「ハンブルクでは、2年半後の2021年にITS世界会議が開催される予定で、現在の我々の取り組みが自動運転の進展かに重要な役割を果たすことが出来ると考えています。

そうした意味で市行政としての未来設計に係り、互いに手を携えていく戦略的パートナーのフォルクスワーゲン社との現在の関係を我々は歓迎しています。

私たちはハンブルクを、未来のインテリジェントモビリティのモデル都市として定着させていき、来る2021年に世界中の人々に革新的なプロジェクトの数々を紹介できればと願っています」と語っている。

ちなみにミヒャエル上院議員が語った「ハンザ同盟」というのは、中世後期の北ドイツの都市による都市同盟である。

北ヨーロッパに位置し、ヨーロッパ大陸とスカンディナビア半島に囲まれた地中海沿岸地域では、当地域の貿易を掌握し、ヨーロッパ北部の経済圏を永らく支配した。結果、同盟の慣習法は健在の海事法のもとになっている。

最後にフォルクスワーゲングループでは、走行時に用いる周辺データを完全に保護する配慮を重ねつつ、実公道上の自動運転機能をレベル5に至るまで高めていくと話している。

また今プロ ジェクトで得られた結果を基に、法的な枠組みやインフラの整備の進展を待ちつつ、近い将来に於いて公道上でモノやヒトを自動輸送するための製品を市場に提供していく構えだと結んでいる。