グループPSA(本社:フランス・パリ、CEO:カルロス・タバレス)は仏時間の12月3日から、カーシェア「Free2Mover(フリー2ムーブ)」を介し、パリ市内でEV専用の利活用サービスを開始する。( 坂上 賢治 )
https://youtu.be/-8-f76I5Jy4
この「Free2Mover」は、複数のカーシェアリング事業者と、一般の車両利用者達を結ぶモビリティサービスだ。
グループPSA自身が、欧州地域の経済圏を担う自動車製造メーカーでありながら、自らの車両販売・利活用の範囲を広げていくという旧来からの考え方や枠を打ち破るという試み。
これを踏まえて他のベンチャー企業に倣って、ソフトウエア開発を介してプラットフォーマー事業として名乗りを上げた。そうした意味で「自動車製造メーカー発」としてはなかなかの革新的なサービスである。
今回追加された新たなサービスは、「Free2Move」のスマートフォンアプリを介して、日本の三菱自動車工業からOEM供給(i-MiEV)を受けている「プジョーi0n」「シトロエンC0」の550台を提供するというもの。
利用者は、既に流通している「Free2Move」のアプリで最寄りの空き車両を検索。そのまま予約して車両を利用。利用終了時にこれを返却するという手順だ。
利用料金は、先の7月に廃止が決まったEVシェアリングサービス「オートリブ(Autolib’)」の専用スペース含む市内駐車利用料と車両利用上のアクシデントの補填に使われる保険料もサービスに含まれる。
額面は、気軽に利用する場合の分単位課金(0.39ユーロ/分)が基本。また別途、月額9.90ユーロを支払うことで分単位課金が0.32ユーロ/分と若干リーズナブルになる別コースでの利用も可能だ。なお充電に係る手間に関しては、専用スタッフが常設され、車両は定期的に充電される。
同事業のサービスインにあたり、「Free2Move社」のブリジット・クールテウォクスCEOは「当サービス開始2年を迎えた今日、世界12カ国でおよそ6万5000台の車両を所有に至り、これを世界150万人以上の皆様にご利用頂き、とても嬉しく思います。
今回のEVによるサービスは、当面パリ市内での展開となりますが、追ってご提供エリアを首都圏周辺へと積極的に拡大させていく意向を持っております」と話している。
ちなみに「Free2Move」全体のサービス内容は、「Car2Go」「Zipcar」「TravelCar」などのカーシェアリングを提供している複数企業のサービスを一括して利活用できる点が強みだ。
具体的には、自分が持っている各社のアカウントを登録すると、全てのサービス利用可能な車両。またその車両までの徒歩で行ける距離。利用する燃料の種類。料金などの複数の要素を比較検討した上で予約することができる。
フィルタリングサービスも実装されているから、これを利用すれば、自身が利用したいサービス内容のみを限定して表示することも出来る。肝心の利用料金も、サービス提供会社に直接支払う仕組みで利用上の障害を感じさせ難い仕様となっている。
システム開発はIBMが担い、携帯電話から引き出すデータの他、コネクティッドカーである車両から送られてくる室内外温度、ライト、ワイパーからの信号などの大量のデータを蓄積・分析して価値あるソリューションを導き出す仕組みになっている。
同社のサービスは、先のブリジット・クールテウォクスCEOの言葉にある通り、フランス国内のみならず、欧州地域ではドイツ、スペイン、イタリア、英国の他、北欧のスウェーデン、オーストリア、さらに米国など世界12か国で利用できる。
このなかでも米国・シアトルで「Free2Mover」のサービスインを宣言したのは丁度1年ほど前の2017年の10月。
グループPSAとしては、米国当地に於ける車両販売の低迷を理由に、シトロエンブランドが1974年。続いてプジョーブランドが1991年に撤退。グループPSAが自ら米国内で新車流通を開始させるという意味では最後のプジョーブランドの撤退から数えても実に27年振りのことである。
今後、米国では車両を消費者に販売するというビジネスモデルから、新たな可能性を模索しての動きとなっている。
なお最後に、記事面に挙げた「オートリブ(Autolib’)」についてだが、この手のEVシェアリングサービスでは、世界レベルで大きく先行していたのが同サービスだった。
そもそもはパリ行政当局の発案により、パリ周辺47市を巻き込んで「オートリブ・ヴェリブ・メトロポール組合(SAVM)」が設立された。ここに企業の競争入札を介して運輸・エネルギー大手ボロレグループがこれに応募・落札。2011年12月にサービスインした。
その後、参加自治体は103市に拡大。利用者も15万人に達した。しかしわが国日本での「親方日の丸」というべきか、行政運用によるその投資額は、1100カ所の充電設備・駐車場・情報通信システム・ピニンファリーナ出資のオリジナル車「ブルーカー」などの3952台の電気自動車の調達などを含め、約2億ユーロに到達。
しかし肝心のボロレグループによる事業運用の累積赤字が2億9360万ユーロとなった時点で敢えなく廃止となり、わずか7年間という短命で終わることになった。
以来パリ市当局は、既に血税から投資した責任があることから、代わりとなる新サービス模索に懸命だった。そしてこの度、年も押し迫った12月になってようやく「Free2Move」が本格参入した。
今後当地では、BMWやスタートアップ企業参入の可能性もあるとされており、当面、パリを舞台にEVシェアリングの自由競争の幕が切って落とされたと言っていい状況になっている。