トヨタ自動車と仏PSA、欧州での協業関係を加速


PSA製造の「小型バン」を、トヨタ自動車の欧州統括会社(TME)にOEM供給する

トヨタ自動車(本社:愛知県豊田市、社長:豊田章男)とグループPSA(本社:フランス・パリ、CEO:カルロス・タバレス)は日本時間の11月30日、欧州に於ける小型商用車のOEM供給体制の変更。そして2002年に設立した小型車生産の合弁会社トヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル・チェコ(TPCA)の運営を介して、新たな企業間協力の姿を模索し始めたようだ。( 坂上 賢治 )

PSA製造の小型バンをTMEにOEM供給し、これを欧州でトヨタブランド車として販売する

そもそもトヨタ自動車の欧州統括会社である「トヨタ・モーター・ヨーロッパ(TME<Toyota Motor Europe S.A./N.V.>/トヨタ欧州NV/SA)」と、シトロエン・プジョー・DSを配する「グループPSA」は、今から8年前の2012年頃から欧州地域で互いの小型商用車の生産領域で協力を重ねてきた。

具体的には、グループPSAはプジョーブランドの「エキスパート/トラベラー」及びシトロエンブランドの「ジャンピー/スペースツアラー」をベースにした小型商用車「プロエース(PROACE)」を自社が1992年設立したオルデン工場(フランス)で生産。これをTME(トヨタ欧州NV/SA)に向けにOEM供給している。

その生産実績は、2017年で約13万5,000台を誇る。なお同記事では、以降の話を判り易くするため、このオルデン工場を「第1の拠点」としたい。

そんな両社は、来る2019年末より、今度はグループPSAがスペインに設けているもうひとつの車両製造拠点(第2の拠点)「ビーゴ工場」での生産車(小型バン)も新たにTME(トヨタ欧州NV/SA)へ供給する予定であることを打ち出した。

チェコの小型車生産の合弁会社をTMEは完全子会社化する。しかし現在の車両生産体制は維持していく

今記事で「第2の拠点」にあたるこのビーゴ工場は、1958年にグループPSAが設立した拠点だ。

同工場の2017年時点の生産実績は、プジョーブランドの「パートナー/リフター」「301」の他、シトロエンブランドの「ベルランゴ」、「C4」「スペースツアラー」「C-エリーゼ」に加え、オペル/ヴォグゾールブランドの「コンボ」などを足し合わせると約43万4,000台に達する規模だ。

この第2拠点からTME(トヨタ欧州NV/SA)へ向けて、商用車のOEM供給を行っていくということは、今後、欧州の消費市場でTME車のブランド浸透力がより強まっていく流れになることを意味している。

そんな上記TME・PSAの関係強化策が意味するものは、欧州地域で両社の強みを活かしつつ、互いが持つ「事業上の強み」と「得られる恩恵」を互いに最大限にまで拡張・享受することにある。

それを見据えてTME(トヨタ欧州NV/SA)は、このビーゴ工場で製造する小型バンの車両開発費用や、生産設備の投資について、応分のコスト負担に応えていく構えだ。

写真はトヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル・チェコ(TPCA)工場の全景
写真はトヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル・チェコ(TPCA)工場の全景

加えて今回のストーリーで「第3拠点」にあたるチェコ所在の生産工場の話が浮上する。

このチェコ拠点は「トヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル・チェコ(TPCA)」で、現時点では「グループPSA」も株式を保有しているが、TME(トヨタ欧州NV/SA)がTPCA株式の全株式を取得し、来る2021年1月からTPCAはTME(トヨタ欧州NV/SA)の完全子会社になる。

なおこの話は今回突然、降って湧いた話ではなく、トヨタとグループPSAが2002年に締結した「小型車共同生産の合弁契約」時に含まれていた「持ち株比率の見直し」に係る条項の実行に過ぎない。

TMEが買収するチェコ工場は、トヨタにとって欧州での8拠点目の生産拠点となる

とは言うもののトヨタ自動車側から見た場合、双方の合弁という格好ゆえに、ここまでの相手先ブランド車の販売状況を鑑み、協業体制に一区切りを付けたいとする意味合いもありそうだ。

なお元来、中欧のチェコという国家は、永らく社会主義経済下にあったことで先進工業国に水を開けられていたが、そもそも伝統的な工業国であるから働き手の機械工学に係る素養が高い。また労働コストが安いことも魅力だ。

ただ西欧の先進市場とは異なり、中欧地域ではトヨタ単独の市場占拠率は低く、当初トヨタの単独進出は困難だった。そこでグループPSAとの対等比率(トヨタが50%、グループPSAが50%)で同国コリーン市(Kolin)にTPCAを設立した経緯がある。

ちなみに対等比率によるTPCA開設のお陰で、傘下の系列部品メーカーだけで構築してきた垂直統合型のトヨタ生産方式(TPS)は大きく進化している。

トヨタグループからの部品調達という慣習を崩し、中継ぎ商社を介した水平分業体制により、当地で新ジャスト・イン・タイム(JIT)方式を構築。コンチネンタルを筆頭に既存系列外企業との連携が育まれた。またこれを契機に日系企業のチェコ進出が加速するなど、当地へも社会的恩恵をもたらした。

このTPCAの現場では現在、欧州市場向けとして純粋に開発されたエントリーレベルの小型乗用車「トヨタアイゴ(Aygo)」「プジョー108」「シトロエンC1」を生産しているが、今後、同拠点の全株式を保有することになるTME(トヨタ欧州NV/SA)は、今後もこれらのモデルの生産を継続。当地に於ける生産人口と雇用確保のレベルを維持していく予定だ。

結果、TME(トヨタ欧州NV/SA)によるTPCAの完全子会社化で同拠点はトヨタの欧州に於ける8拠点目の生産工場に加わる。トヨタ自動車のディディエ・ルロワ副社長は、「この度の新たな協力関係は、グループPSAとトヨタ自動車の両社間に於ける良好な信頼関係に基づくものです。

この合意を通して、我々両社は技術と開発費を分担しながら、それぞれが強みを活かすことができます。またTPCAの完全子会社化は、当社の基本的な考え方である『販売するところで生産する』こと。そして長期にわたる我々の欧州でのプレゼンスを象徴する存在でもあります」と話している。

対してグループPSAのカルロス・タバレス会長は、「今回の発表は、両社の良好でかつ、互いに有益なパートナーシップの新しい幕開けです。これは、お客様や両社にとって最善となる信頼関係に基づくものです」と結んでいる。

写真はトヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル・チェコ(TPCA)工場の全景
写真はトヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル・チェコ(TPCA)工場の全景

TMEの戦略が欧州に於ける自動車製造地域のパワーバランスを変化させていく兆しになるか?

現在、フランスを中心とした欧州地域では、既に読者もご承知の通りだが、フランス政府の国策会社として育まれてきたルノーと、日本の日産自動車・三菱自動車工業の3社連合で図らずもモタつきが露呈している。

そうしたなか奇しくも、かつて日産自動車に将来を嘱望され、次世代の経営者候補として自動車ビジネスを学んだものの、最終的にはゴーン氏と袂を分かったカルロス・タバレス氏がグループPSAに電撃移籍。

新たな環境下でタバレス氏は、自らの思うままに辣腕を振るっている。昨年2017年3月には、GMが抱えていたオペル・ヴォグゾールを約2650億円の額面買収で吸収。その後、これらの生産拠点を持つ該当地域との摩擦を作りながらも、さらなる企業規模の拡大機会を伺っている。

ここで翻ってみると今後、自動車産業の未来は、旧来の消費者のようにローンを背負って、自動車を購入する消費行動は確実に衰退すると見られている。

またこれに入れ替わるように相次いで「MaaS」や「CASE」環境が本格化した場合、車両利用の実態は「借りて使用するのが当たり前」になり、もはや過去の「買って・乗る」という消費スタイルに逆戻りすることはない。

自動利用のスタイルが変わる時、自動車産業の規模と収益モデルも大きく様変わりする

しかしだからといって自動車産業の可能性が先細るかと言えば、決してそうではないのだ。未来の世界では、1台あたりの自動車の走行距離はむしろ大きく伸びることになるからだ。

というのは、日本国内という限られた枠内ではなく、世界レベルでの自動車利用環境がどうなるかを考えるとよく判る。今後は途上国の躍進により、現時点で自動車を充分に利用出来ていない消費層が、積極的に自動車を利用することになるからだ。

それは決して夢物語ではなく、今の途上国に於いても高額と考えられるスマートフォンを利用している消費層が、現地で日を追う毎に拡大している。彼らの消費レベルが今後、順当に上がっていけば自動車購入ではなく、自動車の利用自体が可能なレベルになること自体は「自明の理」だからだ。

未来の車両利用がサブスクリプション契約になれば、10年に一度のタイミング毎で個人が200万円の自動車を定期的に買い換えるより、安価な利用料金を都度都度、継続的に獲得していく方が自動車市場としての収益構造は改善・拡大する。

そんな将来に於いて自動車製造は、現状より大量にかつ迅速に製品を供給していく能力が求められ、世界の自動車製造を担う企業は数社のレベルで寡占化するようになる。

結果、多くの自動車メーカーは、今の半導体大手のARM Ltd社や電子デバイスメーカーのApple社のようにファブレス化して設計のみを手掛け、世界に数社だけ残った巨大な自動車製造企業が、それらの受注に応えるようになる。

トヨタは現段階では、そうした希有の国際的な自動車総合企業になることを目指しており、今回のグループPSAとの協業策は、そうした遠い先を踏まえ、互いの強みを活かし・伸ばしていく道の過程にあるのだろう。

TPCAの概要
(2018年1月時点)
会社名:Toyota Peugeot Citroen Automobile Czech
(トヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル・チェコ、TPCA)
工場概要:車両生産工場(プレス、ボデー、塗装、組立工場)
設立時期:2002年3月
生産車種:小型乗用車「トヨタAygo」、「プジョー108」、「シトロエンC1」
生産開始時期:2005年2月
所在地:チェコ共和国コリン市(プラハから東に60km)
社長:青木 是篤(あおき これあつ)
社員数:約2,400名
資本金:5,140,000,000 CZK(約257億円 1 CZK=5円で換算)
株主及び持株比率:TMC 50%、PSA 50%
生産能力(年間):300,000台
生産実績(2017年):約199,000台
累計生産台数:約3,300,000台
累計投資額:非公表

TMEの概要
・正式名称:Toyota Motor Europe N.V./S.A.
・所在地:ベルギー ブリュッセル市内
(Avenue du Bourget 60, 1140 Brussels, Belgium)
・社長:ヨハン ファン ゼイル(Johan van Zyl)
・事業内容:トヨタの欧州事業の統括
(2005年10月1日にTMEM/TMMEを統合)
・資本金:約24億ユーロ
・株主構成:トヨタ 100%
・従業員数:約2700名程度
(数値は2005年10月1日TMEM/TMME統合時)