東京大学大学院、地上で失われつつあるリンの水中回収に目処


prospect-university-of-tokyo-in-the-water-recovery-of-phosphorus-that-is-being-lost-in-the-ground20160518-2

リン資源に依存するバイオ燃料、食料問題にも直結する生物肥料等、多角的な分野発展に寄与

東京大学大学院・新領域創成科学研究科の河野重行教授らの研究グループは5月16日、東京大学オーミクス情報センターの服部教授、株式会社日立ハイテクノロジーズの許斐博士、チェコ科学アカデミー微生物学研究所のザッハレーダー博士らと協力し、クロレラの一種であるパラクロレラが、硫黄を除いて培養するストレス条件でリンの過剰な取り込みが加速され、通常の4.3倍ものリンを急激に細胞内に蓄積することを発見した。

また、エネルギー分散型X線分析法(注1)により、電子密度(注2)の高い部分にポリリン酸(注3)としてリンが蓄積していることも明らかにした。

藻体内で蓄積されたリンは、生物由来のリンとして利用することが可能であり、今後はリンに関するバイオレメディエーションやバイオリファイナリー(注4)に応用され、この分野の発展に寄与することが期待される。

なおこの成果は、2016年5月16日付でオープンアクセス誌「サイエンティフィックリポーツ」オンライン版に掲載されている。

<発表者>
河野 重行氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 教授)
大田 修平氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 特任助教)

prospect-university-of-tokyo-in-the-water-recovery-of-phosphorus-that-is-being-lost-in-the-ground20160518-3

<発表のポイント>
◆クロレラの細胞は硫黄源欠乏ストレスを受けると、細胞内にリンが加速的に蓄積されることを明らかになった。
◆取り込んだリン酸はポリリン酸として液胞の中に蓄積されることを発見した。
◆藻類を使った生物肥料やリンのバイオリファイナリーに応用され、この分野の発展に寄与することが期待される。

<背景>
リンは地球上の全ての生命にとって不可欠な元素である。リンは、さまざまな局面で人間の生活と環境に密接に関連する元素の一つで、リン鉱石の枯渇による化学肥料の高騰やリンによる湖沼の富栄養化など大きな問題になっている。

再生可能資源と目されるバイオ燃料も、リン資源に依存しており、実際にリンがなければ生産できない。

リンの枯渇問題は食料問題にも直結することから、環境中のリンを生物学的に回収する研究を加速させる必要があった。

主に水圏に生息する単細胞の光合成生物を微細藻類と呼んでいる。微細藻類のなかでも緑色のものが緑藻類で、その中にはトレボウクシア藻類(注5)と呼ばれるグループがある。

健康食品で知られるクロレラなどはトレボウクシア藻類の仲間である。クロレラなどの微細藻類には、細胞内にリンを蓄積できるものがいることが知られていたが、その蓄積の動態や場所についてもよくわかっていなかった。

これを踏まえて、東京大学の河野教授らのグループとチェコ科学アカデミー微生物学研究所のザッハレーダー博士らのグループは永年、パラクロレラ(Parachlorella kessleri)と呼ばれるクロレラの一種に着目して、オイルやデンプンの蓄積を研究してきた。

パラクロレラは、硫黄飢餓にするとデンプンやオイルの蓄積が加速されることが明らかになっている。最近はパラクロレラの全ゲノム配列の解読も成功している< http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry452/ >。

また現在は、下水汚泥やバイオマス焼却灰等、リン含有未利用資源からリンを回収し再利用する技術(リファイナリー)の開発が進んでいる。

生物学的リン除去は、実際に下水処理施設等で使われている方法だが、これまでは多くの場合、バクテリア(リン蓄積細菌)が用いられてきた。

しかし、クロレラを含む真核生物はバクテリアと比べると、細胞の体積が格段に大きく、そのためバイオマス収穫量も大きいことから、将来的に光合成をする光を安価に供給できるようになるなどの条件が揃えば、バイオレメディエーションに使われる可能性がある。

また、藻類を飼料や肥料として使おうとするバイオリファイナリーも盛んに研究されている。

そうしたクロレラなどの微細藻類が、リンを蓄積することが知られていたが、ストレス応答としてリンの蓄積動態がどのように変化するか、また細胞のどこに蓄積するかはよくわかっていなかった。そこで同研究では、硫黄欠乏ストレス条件に着目して、リンの蓄積動態や蓄積場所に関する研究を実施した。

prospect-university-of-tokyo-in-the-water-recovery-of-phosphorus-that-is-being-lost-in-the-ground20160518-4
(A)は細胞に蓄積された全リン量の経時的変化、(B)は細胞に蓄積したポリリン酸量の経時的変化を示します。硫黄飢餓ストレス条件(赤)では、栄養飢餓を与えていない条件(栄養塩ストレス無し)と比べて、細胞当たりのリンの蓄積量が2日目で4.3倍に達した。硫黄飢餓ストレスでは、培養の前半(1−3日目)にポリリン酸としてリンが蓄えられていることがわかった。

<結果>
パラクロレラが硫黄欠乏ストレスを受けるとオイルを高蓄積すると同時に、リンの過剰な取り込みが加速されることを発見した。

さらに細胞に取り込まれたリンはポリリン酸として蓄積されることが明らかにした(図1)。

同研究ではリンの蓄積場所も調べた。透過型電子顕微鏡(走査透過像観察機能付き)に搭載したエネルギー分散型X線分析法により、液胞(注6)内の電子密度の高い部分にポリリン酸として蓄積していることを明らかにしている(図2、3)。

prospect-university-of-tokyo-in-the-water-recovery-of-phosphorus-that-is-being-lost-in-the-ground20160518-5
2次元の透過型電子顕微鏡画像を断層写真のように積み上げ、細胞全体の3次元立体構築をした。(A—C)は、細胞にストレスがかからない状態で培養した細胞、(D—F)は細胞にストレスをかけ、デンプンが蓄積した細胞、(G—I)はオイルが蓄積した細胞を示している。A, D, Gの数値は電顕3Dデータから計算した葉緑体の体積(立方マイクロメートル)を示し、さらにカッコの中に細胞に占める葉緑体の体積をパーセントで示す。同様に、B, E, Hの数値はオイルボディーの体積、C, F, Iは高電子密度顆粒の体積を示す。コントロール期では、細胞にオイルは蓄積せず、リンを含む高電子密度顆粒も細胞全体積あたり1.1%ですが、ストレスを与え、デンプンが蓄積し始めると、リンを含む高電子密度顆粒の体積が増し(8.1%)、さらにオイルが細胞の約半分まで蓄積する段階になると、リンを含む高電子密度顆粒の体積は12.4%に達した。スケールバーは5マイクロメートル(0.005ミリメートル)を示す。

さらに、透過型電子顕微鏡の結果を詳しく検討した結果、ポリリン酸の量によって高電子密度顆粒の微細構造に変化が生じることがわかった。

加えてパラクロレラのゲノムとトランスクリプトームデータ(注7)を解析することで、ポリリン酸を合成する酵素としてアクチン様タンパク質(Arp、注8)が用いられていることもわかっている。

このことは、クロレラには陸上植物やトレボウクシア藻類以外の緑藻類が使っているポリリン酸合成酵素(ポリリン酸キナーゼ:PPK)とは別のポリリン酸合成経路をもつことを意味しており、進化的にも興味深い点である。

prospect-university-of-tokyo-in-the-water-recovery-of-phosphorus-that-is-being-lost-in-the-ground20160518-6
リンを含む高電子密度顆粒(濃い灰色)がよく見える位置で、立体構築した細胞を割ってリンの蓄積順に示した。(A)コントロール期の細胞、(B)デンプン蓄積期の細胞、(C)オイル蓄積期の細胞を示す。培養齢が進むにつれリンを含む高電子密度顆粒(濃い灰色)部分が多くなっていることがわかる。

<今後と社会的意義>
クロレラを含むトレボウクシア藻類はリンの代謝に関して陸上植物を含む系統とは異なっており、緑色葉緑体をもったグループの中では独自に進化したことを裏付けている可能性がある。

今後はこのポリリン酸代謝経路がトレボウクシア藻類全体に共通しているか調べ、高効率でリンを蓄積するクロレラの探索に努める必要がある。クロレラを用いたリンのバイオレメディエーションやバイオリファイナリーには、地上から失われつつあるリンの水中での回収に役立つことが期待されている。

発表媒体
雑誌名:サイエンティフィックリポーツ(Scientific Reports)
出版日:2016年5月16日
論文タイトル:Deciphering the relationship among phosphate dynamics, electron-dense body and lipid accumulation in the green alga Parachlorella kessleri
著者:大田修平、吉原真衣、山﨑誠和、竹下毅、平田愛子、許斐麻美、大島健志朗、服部正平、カテリーナ・ビィソバ、ヴィレム・ザッハレーダー、河野重行*(*責任著者)
DOI番号:doi: 10.1038/srep25731