国際法に基づく国際秩序へ強いコミットメントを示す
EU首脳の来日に伴い7月23日、東京で日EU首脳会議が開催された。両首脳は、安全保障と多国間主義の連携を前提に、協力関係を更に強化することで合意した。また日EU間の共同競争力を強化するべく、新たに競争力同盟を立ち上げた。
より具体的には同日の午前、欧州理事会議長のアントニオ・コスタ氏、欧州委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏、日本の石破茂首相が東京に於いて会談し、今回、第30回となった日本と欧州連合の首脳会談に臨んだ。その後、両首脳らは共同声明を採択した上で共同記者会見を実施した。
会見のテーマは、安全保障と防衛、経済と競争力、多国間主義と国際ルールに基づく秩序への支持、ロシアのウクライナに対する戦争、中東紛争、インド太平洋地域の安全保障状況の他、現在の地政学的課題についても協議を重ねたとしている。
そもそもEUと日本の関係は、インド太平洋地域を隔てた物理的な距離があるなかでも緊密な戦略的パートナー関係にある。それは先の英国・イタリアと進めている時期戦闘機の共同開発で、日EU間が連携していく背景が高まっていることも、ひとつの背景となっている。
加えて両地域の関係は、経済面に於いても2019年から発効している戦略的パートナーシップ協定(SPA)と自由貿易協定 (経済連携協定)に基づいており、日本とEUの経済規模は世界のGDPの約4分の1を占め、商品とサービスの貿易でも世界の20%を占めている。
またそんな両地域では、昨今、孤立主義が高まりつつある米国とは異なり、一貫した価値観と優先事項を共有しているという共通項がある。
その一方で日本は米国との連携も欠くことができない重要な国際連携ではあるものの、EUともアジア太平洋地域を挟んで、世界規模での安全と繁栄の進歩を実現するために協力してきた。
実際、2024年11月以降、EUと日本は安全保障・防衛パートナーシップを締結。より緊密な協力と情報交換に努めており、このパートナーシップは両地域の閣僚レベルでの定期的な対話を介して支えられている。
経済の安全保障と強靭性を高める取り組みも強化していく
そうしたなかで、今回来日したアントニオ・コスタ大統領は首脳協議後の記者会見で、「まず初めに、第30回首脳会合を東京で開催してくださった石破総理に感謝申し上げます。日本を訪れるのはいつも喜びです。
昨日は、イノベーション、文化、持続可能性、そして国際協力が出会う場所である大阪万博の精神に深く感銘を受けました。それは多くの点で、EUと日本を結びつける価値観を反映しています。
日本はインド太平洋地域に於けるEUの最も緊密なパートナーです。日本とのパートナーシップは単なる戦略的なものではなく、共通の原則とビジョンに基づいています。
それは、民主主義、人権、ルールに基づく国際秩序、そして多国間主義への尊重に根ざしています。今日の複雑な地政学的環境において、EUと日本のパートナーシップは、原則に基づいた信頼できる協力の模範となっています。
本日のサミットは、具体的な行動を通じてこのパートナーシップを強化することを目指しており、特に安全保障と防衛、多国間主義、そして貿易と経済安全保障という3つの主要分野に焦点を当てています。
安全保障と防衛は、今やEUの国際的関与の中核を成しています。ヨーロッパの安全保障はインド太平洋地域の安全保障と密接に結びついています。
日本は、この地域で初めてEUと戦略防衛パートナーシップを締結した国であり、このパートナーシップを深化させることを決意しています。
情報保護協定の交渉開始を歓迎すると共に、本日、海洋安全保障、サイバー、宇宙、ハイブリッド脅威、不拡散、そして防衛産業における協力の強化についても共に表明しました。
また私たちは多国間主義への共通のコミットメントを再確認します。国連と、80周年を迎えた国連憲章は、依然として平和と国際協力の不可欠な柱です。
これには、ウクライナ、中東、ここインド太平洋地域、そして世界のあらゆる場所に於ける主権と領土保全の擁護が含まれます。
それには気候変動といった地球規模の課題への取り組みも含まれます。私たちは、来たるCOP30において、成功裏かつ野心的な成果を達成できるよう、共に取り組んでいきます。
最後に、経済面では、私たちの経済連携協定はEUが締結した協定の中で最大規模のものです。この協定は双方の企業と消費者に実質的な利益をもたらしました。二国間の貿易量は、協定発効以来20%増加しました。
私たちは、WTOを中核とする、予測可能でルールに基づく経済秩序を守るために団結しています。
そして、不確実性が高まる世界において、経済の安全保障と強靭性を高めるための共同の取り組みも強化しています。本日発足する新たな競争力同盟は、重要な前進です」と述べた。
同日発足した競争力同盟を介した資源開発でも密接に連携
更に共同声明では、ロシアによるウクライナ侵略戦争、自由で開かれたインド太平洋への深刻な挑戦、その他の地域的及び国際的な課題といった変化し複雑化する世界的な地政学的状況を背景に、双方の緊密な協力が、これまで以上に重要となっていることを指摘した。
これに係る安全保障・防衛協力に於いて、欧州とインド太平洋の安全保障は相互に関連しており、双方の防衛能力強化に向け、それぞれに努力を評価すると共に、安全保障・防衛分野に於ける日本とEUの更なる協力を探求することに合意したと共同声明には記されている。
その経済安全保障面では、双方で重要鉱物サプライチェーンの強化・多様化を含む、サプライチェーンの強靱性向上と戦略的依存の削減に関する協力を強化して、経済的強制及び、非市場的な政策・慣行に対抗するとしている。
この文脈に於いて、双方は戦略的に共同の競争力を更に強化し共に成長するため、「日EU競争力同盟」を立ち上げ、戦略物資に関する透明性、強靱性、持続可能なサプライチェーンの構築に向けた共同の取組を加速させていく。
具体的には、戦略物資及びセクターを特定し、透明性、多様化、安全性、持続可能性、信頼性に関するG7強靱かつ信頼できるサプライチェーンに係る共同作業を行う。
より詳細には、特定の国による重要鉱物・素材、低炭素エネルギー製造サプライチェーンの支配が、日本も、EUにとっても、経済安全保障上のリスクとなる認識を共有している。
特に永久磁石などの重要鉱物及び派生製品に関する輸出管理措置が、世界的なサプライチェーンの重大な混乱に繫がる可能性については共に懸念を表明。
これに係る投資・ビジネス・産業協力では、安全で持続可能な低炭素エネルギー製造、並びに共同での重要原材料の資源開発の共同研究などを含む戦略的な物品及びセクターの特定など、サプライチェーンの強靱性と競争力に関する事項について、拡大されたハイレベル経済対話を通じて経済協力を、これまで以上に一層強化していくと語った。