トヨタ自動車、日本企業初の売上高30兆円に到達


トヨタ連結売上高。政府国家予算の3割に達するレベルとなったのだが、持ち前の企業存続の懸念あらわ。トヨタらしらを失わず

トヨタ自動車株式会社(本社:愛知県豊田市、代表取締役社長:豊田 章男)は5月8日、千代田区の同社東京本社にて2019年3月期決算を発表した。それによると同期の連結売上高は、前期比2.9%増の30兆2256億円に到達し、日本国内企業で初めて30兆円の大台に乗った。(坂上 賢治)

この30兆円という数値規模は、日本国内の一般企業としては極めて巨額だ。例えば、昨年末の政府による2019年度予算案で、一般会計の歳出総額は101兆4564億円であったことから、その数字自体が年間の国家予算の3割に達していることが判る。

併せて2020年3月期の連結営業利益予想では、19年3月期比3%増の2兆5500億円になる見通し。売上高自体は、今期から1%減の30兆円(前期比0.7%減)。営業利益は同3.3%増の2兆5500億円。税引前純利益は同19.0%増の2兆7200億円。純利益は同19.5%増の2兆2500億円を見込む。

同社としては以降も30兆円の連結売上高を維持を目標に「投資に1兆円」「開発に1兆円」「株主還元に1兆円」を継続していく意志を示した。

上記動画は2019年3月期 決算説明会 Ⅰ部(決算報告の場面)

ちなみにこのうちの「開発予算1兆円」という内容は、国際企業の予算計上レベルでは、序列を組んだとしても10位以下に位置するに過ぎない数字であり、近年のGAFAなどのIT企業たちが計上する研究開発予算は、2兆円超または同額面に迫る数字を計上している。

つまり今後、代表取締役社長の豊田章男氏を筆頭に、トヨタの経営陣が考える企業存亡の危機を踏まえると、それら先行する企業の先行開発投資に対して、「自社も遅れを取りたくない」という意志の表れなのだろう。

その他の数字や概要については、同文字列にリンクした決算報告に係るプレゼンテーション資料(以下およそのサイズ2MB)を参照されたい。

さらに項目別数字をここで幾つか挙げると、営業利益が同2.8%増の2兆4675億円。税引前純利益は持ち合いを行っている証券評価損益の影響で同12.8%減の2兆2854億円。純利益は、決して芳しい数値ではなく同24.5%減の1兆8828億円となっている。

車販実績では、2019年3月期の国内外の連結販売台数が前比0.1%増の897万7000台。国内の販売台数は同じく1.3%減の222万6000台。

トヨタ・レクサスの販売シェアは45.9%。軽自動車並びに貨物車を含む販売シェアは43.6%となった。車販で大きく伸びたのは、関税低減でレクサス販売に注力した中国を含む、アジアと欧州の台数増で同0.6%増の675万1000台となっている。

なお同社の決算会見の構成は、ここのところ慣例になりつつある2部制を採っている。

その進捗は、まず13時15分からの第1部で小林耕士副社長が決算数値を中心とした数値に関わる決算説明を行い、14時10分からの第2部で豊田章男社長が出席。

今回は、在任10年の振り返りと将来に於ける経営上の抱負を語った。いずれも動画で内容を公開した。

2部の会見で豊田社長は、自社の売上高が初めて30兆円を超えたことについて「お客や販売店、仕入れ先に支えられ、従業員を含むステークホルダーが会社創業以来の延べ80年間でコツコツと積み上げてきた結果です。今後もトヨタを支えて頂けるよう努力を重ねていきたい」話した。

また今期の取り組みについては「あえて一言で表すと未来に向けてトヨタのフルモデルチェンジに取り組んだ1年でした。

これにより未来への積極投資を行い、原価を造り込む活動を重ねてきましたが、平時の風土改革は難しく、まだ道半ばです」と振り返っている。

10年間の経営の感想については「経営10年目を迎えて、現在の立ち位置など色々訊ねられることも出てきましたが、そもそも就任早々は赤字経営でありましたし、車両のリコールに伴って米国の公聴会に出席するなど、自身の社長在位は1年もたないと思っていた程です。

従って日々全力で経営に取り組んできたというのが本音です。今も今後永く経営していくことが目的ではなく、毎日必死に生き抜いて今日に至っています」と語っている。

加えて今後の経営上の脅威については「トヨタは大丈夫と思う気持ちが危機につながると思います」と結んで質疑応答を終えている。

2019年3月期 決算説明会 Ⅱ部に於ける社長メッセージの場面

第2部の豊田章男社長による冒頭のスピーチは以下の通り。

お待たせいたしました。豊田でございます。本日はお忙しい中、ご足労いただき、誠にありがとうございます。

まず、本年も、私どものクルマをご愛顧頂きました世界中のお客様、そして、一人ひとりのお客様へ笑顔をお届けするためにご尽力いただきました、販売店、仕入先の皆様に、深く感謝申し上げます。

また、日頃よりトヨタを支えていただいております、株主の皆様やビジネスパートナーの皆様をはじめとする、全てのステークホルダーの皆様に、厚く御礼申し上げます。

平成が終わり、令和の時代が始まりました。私が社長に就任したのが平成21年6月ですので、平成の最後の10年間を、社長として、トヨタの経営の舵取りをさせて頂いたことになります。

最初の3年間は、リーマン・ショック後の赤字転落、米国に端を発した大規模リコール問題、東日本大震災、タイの大洪水など危機対応に明け暮れた期間だったと思います。

大変辛い時期ではありましたが、多くの危機に直面して、会社としての一体感、求心力が高まった時期でもあったと思います。

私自身で言えば、「急成長しても急降下すれば、多くのステークホルダーの方々にご迷惑をおかけする」ということを痛感致しました。

どんなに経営環境が悪化したとしても、むしろ、悪化した時ほど、年輪を刻むように着実に「成長し続ける会社」にならなければならない。そのためには、とにかく競争力をつけなければならない。

「持続的成長」と「競争力強化」。この2つを心に誓い、脳裏に刻み込んだのが、この時期でした。

次の3年間は「意志ある踊り場」と表現した期間です。一旦立ち止まってでも、トヨタ生産方式、TPSに根付いた競争力のある生産現場を実現する。TNGAをベースに競争力のある「もっといいクルマづくり」を実現する。

未来に飛躍するために、トヨタがもともと持っていた強み、「トヨタらしさ」に磨きをかける期間にしたかったのですが、充分にはできなかったというのが、私の自己評価です。この3年間で痛感したことは「平時における改革」の難しさです。

直近の4年間は、「トヨタらしさ」を取り戻すことと未来に向けてトヨタをモデルチェンジすることの両方に同時に取り組んだ期間と言えると思います。

トヨタの真骨頂である「TPS」と「原価の作り込み」の再強化を掲げ、生産現場のみならず、事務職場や技術職場でも「ムダ、ムラ、ムリ」の徹底的な排除に取り組んでおります。

いつも申し上げていることですが、「100年に一度」と言われる大変革の時代、変化することが求められる時代だからこそ、ブレない軸、変えてはいけないことを明確にしておくことが必要だと思っております。

そして、そのブレない軸こそが、「TPS」と「原価を作り込む力」だと思うのです。

この10年間、トヨタの経営の舵取りをしていく中で、また、大変革期に突入したとの認識を持つ中で、トヨタを「モビリティカンパニー」にフルモデルチェンジすることこそが、私の使命であるとの想いに至りました。

「モビリティカンパニー」とは、モノづくりを中心に、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社です。

これまでの自動車産業は、確立されたビジネスモデルの中で、成長を続けてまいりました。「たくさんの自動車会社がありますが、各ブランドは差別化されていて、それぞれのお客様がいらっしゃる。」

「魅力的な新型車を出せば、お客様が買い替えてくださる。」
「買い替えられたクルマは中古車となり、そこでも市場が存在する。」「クルマを買っていただいた後も、保険やメンテナンスなどのバリューチェーンが確立している。」これらは非常に良くできたビジネスモデルだと思います。

しかし、今、「CASE」と呼ばれる技術革新によって、クルマの概念そのものが変わろうとしております。これからのクルマは、情報によって、町とつながり、人々の暮らしを支えるあらゆるサービスと繋がることによって、社会システムの一部になります。

それは、これまでのビジネスモデルそのものが壊れる可能性があるということを意味しているのです。「CASE」によって、クルマの概念が変われば、私たちのビジネスモデルも変えていかなければなりません。

しかし、変えてはいけないもの、むしろ磨き続けていくべきものもあると思います。まずは、磨き続けていくものについて申し上げます。

私は、これから先、どんなにクルマが進化したとしても決して変わらないものがあると思っております。それは、クルマは「リアルの世界」で使われるということです。

私たちは、1台のコンセプトカーをつくってきたのではありません。100万台規模で量産し、一度、世に送り出した製品は、10年後も、20年後も、安全で、安心して使い続けていただける「リアルの世界」を作ってまいりました。これは、決して、簡単なことではありません。

この「リアルの世界」で培ってきた私たちの競争力は、大きくまとめると3つあると考えております。

一つ目は、「TPSに基づくモノづくりの力」です。先ほども申し上げましたとおり、これこそが、トヨタグループのすべての競争力のベースであり、今後も磨き続けていくべき、ブレない軸といえます。

TPSには「改善後は改善前」という言葉があります。常に「今よりも、もっと良いやり方がある」と考え、どんどんやり方を変えていく。当然、失敗することもたくさんありますが、失敗の中から学び、さらに良いやり方につなげていく。

私は、イノベーションはどこからか突然訪れるものではなく、インプルーブメントが呼び込むものだと考えております。この改善の力こそが、これまでも、そして、これからも私たちの持続的成長を支える競争力の源泉だと思うのです。

そして、この「モノづくりの力」を、グループの視点で強化していく取り組みが「ホーム&アウェイ」という戦略になります。
TPSという共通言語をもつグループ企業だからこそ実現できる「モノづくりの力」があると思っております。

二つ目は、世界中に張り巡らされた「ネットワークの力」です。トヨタ車およびレクサス車の販売拠点数は、レンタリース店もあわせると日本国内に6000拠点、全世界では約1万6000拠点にのぼります。また、私たちには、グループ会社や仕入先などの巨大なサプライチェーンもあります。

これらのネットワークが、自動車の製造・販売だけでなく、新たなサービスにも活用していくことができれば、私たちの未来は大きく広がります。

これからは、お客様との接点となる「ラストワンマイル」が勝負を分ける時代です。クルマだけでなく、住宅やコネクティッド事業を自前で持っていることも私たちの大きなアドバンテージになると思っております。

三つ目が「保有の力」です。トヨタ車とレクサス車の全世界の年間販売台数は950万台ですが、全世界の保有台数は1億台以上にのぼります。

そこには、トヨタという企業に対する信頼があると思います。
豊田喜一郎による創業から80年以上、お客様に向き合い続け、お客様と築き上げてきた信頼関係があるからこそ、実現できる世界があると思っております。

これから新しいモビリティやサービスを提供していく上で、トヨタを信頼してくださるお客様が世界中にいらっしゃることこそが、何にも替えがたい私たちの財産です。

こうした3つの力は、モノづくりの世界で闘ってきた私たちが持つ、一朝一夕ではつくれない、「リアルの力」です。この「リアルの力」を磨き続けることが、トヨタオリジナルの競争力を高めることにもなると考えております。

次に、「CASE」の時代にあわせて変えていくべきものについて、特に「CASE」の中の「E」、「電動化」を例に、ビジネスモデルの転換について、説明させていただきます。

これまでの私たちは、燃料電池自動車(FCV)でも、電気自動車(EV)でも、ガソリン車と同じように完成車として販売店に卸し、販売店を通じて、個人のお客様にお届けするという形にとらわれていたように思います。

確かに、ハイブリッドカーまでは、このビジネスモデルは有効だったと思いますが、新たなインフラを必要とするFCVやEVでは通用しないかもしれません。

FCVやEVの導入を進めるにあたり、改めて、「私たちがやらなければならないことは何なのか」ということを自問自答いたしました。そして、原点に立ち戻って、出した答えが「普及」です。

環境技術は普及しなければ地球環境改善に役立つことはできません。そう考えた時に、これまでとは違う発想が必要になります。乗用車や個人向けにこだわらず、商用車や官公庁、法人から広げていく。

単独開発にこだわらず、仲間と共同で開発する。特許を囲い込むのではなく、開放して仲間を増やす。クルマだけではなく、使い方とセットでシステムを売る。

つまり、これまでの発想を転換し、より幅広く、よりオープンに、より良い社会への貢献を追求することが、新しいビジネスモデルにつながるのではないかと考えているのです。

これから先は、人々の暮らしを支える全てのモノ、サービスが情報でつながっていく時代に入ってまいります。

私たちのビジネスを考える上でも、クルマ単体ではなく、クルマを含めた町全体、社会全体という大きな視野で考えること、すなわち、「コネクティッド・シティ」という発想が必要となります。

「コネクティッド・シティ」においては、「競争と協調」、特に「協調」の精神が重要になってくると思います。

世の中に目を向けますと、保護主義的な考え方が広がっております。資源のない日本が単独では生きていくことができないように、私たち企業も単独では生きていくことはできません。

そのことを身にしみて理解しているのは、日本という国であり、日本で生まれ育ったグローバル企業なのかもしれません。これからは「仲間づくり」がキーワードになります。

従来のような資本の論理で傘下におさめるという考え方では本当の意味での仲間はつくれないと思います。

「どんな未来を創りたいのか」という目的を共有し、お互いの強みを認め合い、お互いの競争力を高め合いながら、協調していくことが求められると思っております。

私たちトヨタで言えば、地球環境に優しく、交通事故のない社会、全ての人が自由に楽しく移動できるFun to Driveな社会の実現を目指してまいります。

私たちが求める未来は、トヨタだけでは創ることができません。
だからこそ、志を同じくする仲間を広く求めていくのです。

グループ会社はもちろん、他の自動車メーカーとの連携、「コネクティッド・シティ」を支えるあらゆるモノ・サービスを提供する仲間との連携を強化していきたいと思います。

こうした取り組みを進める中で、私たちが目指す「モビリティカンパニー」としてのビジネスモデル、「モビリティサービス・プラットフォーマー」への道が拓けてくると考えております。

これまで、いろいろと申し上げてまいりましたが、大変革の時代は、何が正解かわからない時代でもあります。

とにかく良いと思ったことはやってみる。
間違っているとわかれば、引き返して、別の道をさがす。
「やってみながら考える」ということが重要だと思っております。

成功体験をもった大企業をフルモデルチェンジするということは、本当に時間のかかることだと思いますが、過去の成功モデルに頼っていては、未来はありません。

めまぐるしく変わる環境に対応しながらも、中長期的な視野にたって、ブレない軸をもって、変革への取り組みを進めてまいります。

私たちの未来にご期待いただくとともに、引き続き、皆様方のご支援をよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。

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