トヨタ・ソフトバンク連合、自動運転でウーバーへ10億ドル出資


トヨタ+デンソーとソフトバンクビジョンファンド、自動運転ライドシェアサービスの協業を加速するべくUberに10億ドル出資へ

トヨタ自動車株式会社(本社:愛知県豊田市、代表取締役社長:豊田 章男)と株式会社デンソー(本社:愛知県刈谷市、社長:有馬 浩二)、これにソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を加えた3社は米Uber(ウーバー)に10億ドル(約1100億円)を出資する。(坂上 賢治)

出資の理由は、自動運転機能を備えたライドシェア車両の開発を加速させること。さらに既に実用化へのステップを踏み始めたGoogle Inc.(グーグル社)傘下のWaymo(ウェイモ社、本社:米国カリフォルニア州マウンテンビュー 代表:ジョン・クラフチック)に対抗して、同事業のサービスインをさらに推し進めていく目的が背景にある。

グーグル傘下のウェイモは自動運転車の配車サービスでウーバーより大きく先行している
グーグル傘下のウェイモは自動運転車の配車サービスでウーバーより大きく先行している

具体的な出資の概要は、Uber Technologies, Inc.(ウーバー、本社:米国カリフォルニア州サンフランシスコ、CEO:ダラ・コスロシャヒ)傘下の「Advanced Technologies Group(Uber-ATG)へ合計10億ドルの出資を行うと米国時間の4月18日に発表した。

今合意のもと、トヨタとデンソーは6億6700万ドルを、SVFは3億3300万ドルをUber-ATGが基となる新会社に出資する。この出資に伴い新会社の企業価値は72億5000万ドルに上昇する。

トヨタは既に2018年8月にUberに5億ドルを出資し、トヨタのミニバンであるシエナをベースとした車両に、Toyota Guardian™(高度安全運転支援)システム(以下、ガーディアン)とUberの自動運転システムを連携させた自動運転ライドシェア車両を、2021年にUberのライドシェアネットワークに導入する事に合意し、共同開発を進めて来た。

今回は上記に加えて更なる投資及び協業の拡大に応え、自動運転ライドシェア車両の開発を継続する継続を確実なものとしていく。

この際、次世代自動運転キットの設計と開発も共同で行い、本格的な自動運転ライドシェアサービス車両の量産化とサービス実用化に目処をつけることを狙う。さらにトヨタグループに於いては、この共同開発の推進のため今出資に加えて、今後3年間で最大3億ドルの開発費負担も担っていく構えだ。

Uber社CEOのダラ・コスロシャヒ氏は「今回の出資と、トヨタグループとの強力なパートナーシップの継続は、Uber-ATGメンバーによるこれまでの開発成果が認められた証です。

素晴らしいパートナーと共に推進する今後のプロジェクトの成果を確信しています。

私たちは、自動運転技術を開発することで、交通手段を変革し、より安全で、住みやすい街にすることができると考えています。

本日の発表は、変革の最前線に立つ当社の立ち位置を、より明確にしたと感じています」と語った。

調印式の様子(左から)デンソー取締役副社長 若林宏之、Uber ATG責任者 エリック・メイホファー、Uber CEO ダラ・コスロシャヒ、トヨタ副社長 友山茂樹、SVF Managing Partner アーヴィン・トゥ
調印式の様子(左から)デンソー取締役副社長 若林宏之、Uber ATG責任者 エリック・メイホファー、Uber CEO ダラ・コスロシャヒ、トヨタ副社長 友山茂樹、SVF Managing Partner アーヴィン・トゥ

一方トヨタの副社長であり、“コネクティッドカンパニー”プレジデントの友山茂樹氏は「今回の新会社は、Uberグループで培われたテクノロジーとサービスネットワークに、トヨタグループの車両制御技術と量産ノウハウを注入すること。

そして当社が独自に開発・理論付けているガーディアンシステムに代表される高度安全運転支援機能を融合させ、より安全、かつ高品質で低コストの自動運転ライドシェア車両の実用化を目指すものです。

新会社による次世代自動運転キットの共同開発は、その実現を大きく加速させるでしょう。トヨタは今後も安全で安心なモビリティー社会の実現に取り組んでいきます」と話している。

さらにデンソーの取締役副社長である若林宏之氏は「自動運転開発における大きな課題のひとつが、いかにハードウェアとソフトウェアを量産車両へ搭載するかです。

デンソーはグローバル自動車部品サプライヤーとして、将来の交通手段を変革することが期待される自動運転のハードウェア開発に於いて新会社への参画を通じて、Uber-ATGとトヨタと協業できることを大変嬉しく思います」とコメントした。

最後にトヨタとの共同事業「MONET」を筆頭に孫正義氏独自の群戦略をプロジェクトの背景に敷いていきたソフトバンク傘下のSVF・CEOのラジーブ・ミスラ氏は「Uber-ATGチームによる自動運転ライドシェア技術開発は着実に大きな進化を遂げています。

ハードウェアとソフトウェアの統合的なプラットフォーム、世界最大のライドシェアネットワーク、そしてトヨタとの協業により、自動運転ライドシェアサービスを大規模に展開する体制が整えられたと考えています」と結んでいる。

なお、今投資の実行は2019年第3四半期(暦年)を目途に完了させる予定であるという。ちなみにトヨタグループとソフトバンクグループは同投資と計画の実行に伴いATGへ取締役を1人ずつ派遣する予定だ。

さてここに至るまでの1年を振り返ってみると2018年3月、アリゾナ州でUber社の自動運転実験車が道路を横断中の女性をはねて死亡させ、このアクシデントの原因が車両の技術的不足に加え、運行を管理していたドライバーの不注意だったことが明るみに出た。

これによりアリゾナ州の実証は停止命令が下され、Uber社の自動運転プログラムは一気に減速した。その後ピッツバーグでプロジェクトの再始動こそ実現したが、この間、ウェイモ社に大きく水を空けられた格好となった同プロジェクトは、3社の技術注力を仰ぐことで本格始動する運びとなりそうだ。

その目標は2021年のUber社の配車サービスでの自動運転車両投入が目途になるだろう。これに乗じて以前から予定されていたことだがUber社は、先のもうひとつのライバルlift(リフト)に続い先の11日に米証券取引委員会(SEC)に対してニューヨーク証券取引所への新規株式公開(IPO)を申請した。

実際の上場時期は5月上旬になるものと見られるが、上場時の時価総額規模はこのニュースにより1000億ドル規模超が予想され、これによりUber社の企業価値を大きく見せることに貢献すると見られる。そうなると米国内で同上場が今年最大のIPO案件となっていく可能性がある。

そうした意味で米国国内で、Uber社が輸送サービスの巨人になれるかどうかの鍵は、この3社出資による同計画の浮沈に掛かっているとも言えそうだ。またトヨタに取っても、特定地域(米国大陸)に於けるモビリティカンパニー実現への大きな挑戦の第一歩となる。

実際、この米国内での成功如何が、ソフトバンクも含めASEANエリアに於ける同じライドシェア現地ベンチャーのグラブホールディングス・インク(Grab Holdings Inc.)との協業の可能性を探る布石となることは必須であるし、さらにトヨタのお膝元である日本に於ける「自らのモビリティカンパニーへの脱皮」を目指す格好の試金石ともなるだろう。