日産自動車は2月18日の午前10時、パシフィコ横浜の国立横浜国際会議場(国立大ホール)で臨時株主総会を開いて、内田誠社長兼CEO(最高経営責任者)、アシュワニ・グプタCOO(最高執行責任者)ら4人を新たな取締役に選任した。(坂上 賢治)
これにより西川広人・元社長兼CEO、山内康裕・前COOらが退任。ゴーン事件に関わる役員が一掃されて、今日から新たな船出を迎えることとなった。
しかし日産ブランドの毀損を伴う経営不振で、期末配当が無配になった上に、ひと株あたりの株価が500円を割り込む事態となり、これまで長年、日産に付き従ってきた多くの株主の怒りが爆発。まるで昭和時代を思わせる怒号が飛び交う総会となった。
内田誠社長は、666人の株主が出席した総会の冒頭から、ゴーン元会長による一連の騒動以降、株価下落が止まらない混乱や業績低迷に対して、日産の実力はこんなものではありません。
業績改善に向けて頑張りますと、繰り返し語るのだが、そもそも同社は、昨年4月にゴーン元会長の取締役職解任で、臨時株主総会を開いていることから、臨時の株主総会が1年間のうちに2回開かれる事自体が異例中の異例。
そのため出席した一般株主からは〝11年ぶりの最終赤字へと転落した2019年10~12月期の為体〟〝インセンティブ販売によって「安かろうのレッテルが貼られた」米国市場で日産車をどう売っていくのか〟
〝販売車自体のタマ不足によって、低迷する日本国内の新車販売はどうなるのか〟〝2020年3月期の通期業績の下方修正は本当に下げ止まるのか〟〝期末の無配を受けて、前期57円だった年間配当が10円になるのであれば役員報酬も9割減らすべき〟など、落胆と怒りに任せた非難が収まらず、2時間40分の長丁場となった総会の大半が怒号と野次で占められた。
また長年の株主にとっては、昨年2019年12月にトロイカ体制で発足したばかりのなかで、プロパー社員の叩き上げで役員に登り詰め、商品戦略の要でもあった実力者の関潤氏が、早々に離脱して日本電産に移籍。
この結末に、株主の一部は「(日産の)指名委員会等設置会社への移行に伴い発足した指名委員会による人事提案の稚拙さ」に言及。
それを受け入れた内田誠社長の経営判断の不確かさに加えて、関潤氏とのコミュニケーション能力に対して、相次いで不満が上がり、一時、総会進行が紛糾すると思わせる程の事態となった。
このため総会進行は、新たな4名の取締役の選任に至る以前に、内田誠社長が呼び掛けた質問に対して「1年前には、副社長でもなかった内田誠氏を筆頭に、関潤氏と入れ替わりに入った新任執行役副社長(開発・技術畑の坂本秀行氏)や、海外から赴任した新役員など、もはや誰が誰だから分からない。我々一般株主に分かるよう名札を付けておくべき」
「我々が日産車を買っても、タマ不足困窮する販社の対応が芳しくない」「トヨタ自動車と比べると、車両の品質以前に経営品質自体に差がある」など一般株主は、外部から経営の実態を充分に知り得ないだけに、様々かつ取り留めも無い一方的な不満が続出した。
さらには総会進行を〝事務的な冷静沈着さで仕切る〟内田誠社長への不満も加わって、先行きに不安が募る一般株主の想いは総会開始2時間が過ぎても収まらず、最後には議事運営が不適切だとして議長解任を求める動議もあった。
しかし一部の株主からの「次の定時株主総会まで業績低迷が続いたらどうするのか」の問いに、内田誠社長が「経営に改善が見えなければ、すぐに私をクビにしてください。執行の責任者である時分が責任を持って日産再生を果たして見せます。
今は色々なことが起きていまますが、日産は本当の姿はこんなものではありません。早く良い会社と言って貰えるよう、覚悟を持って経営に取り組んでいきます」と語って、株主の怒号を冷静に押し切った。
総会は最後の最後に、本来の議題であった内田社長(1966年7月20日生/日商岩井を経て東風汽車有限公司総裁から現職)、アシュワニ・グプタ氏(1970年9月15日生/ルノーから三菱自動車工業最高執行責任者を経て日産に移籍)。
さらに坂本秀行氏(1956年4月15日生/日産執行役員から執行役副社長 生産・SCM。なお三菱自動車工業社外取締役・愛知機械工業取締役会長・ジヤトコ取締役会長兼務)、ピエール フルーリォ氏(1954年1月31日生/会計監査人からクレディ・スイス・フランス最高経営責を経てPCF投資顧問・ルノー 筆頭独立社外取締役)ら4人の取締役選任の議案が賛成多数で可決され、2時間40分の総会の幕が閉じられた。
こうしてようやく臨時株主総会を切り抜けた新経営陣だが、2019年10月からの12月期決算で260億円の最終赤字を出したことは打ち消せる訳では無い。
またこの低迷は、連合を率いる立場のルノー自身も赤字を計上していることから深刻だ。そして日本国内で日産は、三菱自動車工業と手を取り合って、待ったなしで業績の抜本的な立て直しに迫られる。