神戸製鋼所と理化学研究所、中性子を利用して鋼材塗膜下腐食の水の動きを可視化


株式会社神戸製鋼所(本社:兵庫県神戸市、代表取締役社長:川崎博也、以下、コベルコ)の材料研究所と、独立行政法人理化学研究所(所在地:埼玉県和光市、理事長:松本紘、以下、理研)の共同研究チームは、鋼材の塗膜下の水の動きを中性子による非破壊検査で詳細に捉え、腐食の原因となる鋼材塗膜下の水の滞留を定量的に評価する手法を開発した。

実際に取り組んだのは、株式会社神戸製鋼所材料研究所の中山武典研究首席、理化学研究所(理研)光量子工学領域光量子技術基盤開発グループ中性子ビーム技術開発チームの竹谷篤副チームリーダー、大竹淑恵チームリーダー、若林泰生研究員、光量子工学領域の池田裕二郎特別顧問らの共同研究チーム。

例えば、橋梁などのインフラ構造物に利用される鋼材の最大の弱点はさびやすい、すなわち腐食することにある。そして、それを防ぐ手段として塗装が最も広く用いられている。

しかし、塗装した鋼材は時間経過に伴い塗膜の欠陥部などから水が塗膜下に浸入し腐食が進行する。このため定期的な塗り替えが必要で、維持管理コストが増大する要因となっている。

このため腐食の進行を遅らせる塗料や、合金鋼などの開発が行われているが、さらに開発を進めるには鋼材の腐食メカニズムの解明が不可欠だ。これまでのX線を利用した非破壊検査を用いてきたが、腐食の原因となる水に対する感度が低く、充分に解析できなかった。

そこで、水の検出能力が優れている中性子を用いた非破壊検査が注目されている。

共同研究チームは今回、文部科学省「光・量子融合連携研究開発プログラム」の支援を受け、理研が「理研小型中性子源システムRANS(ランズ)」を用いて開発した鋼材塗膜下の水の動きを定量的に評価する独自の解析手法を、大強度陽子加速器施設J-PARCでの実験に適用した。

そしてJ-PARCの高強度中性子による高時間・高空間分解能な中性子イメージングの結果、一般的な鋼材である炭素鋼(普通鋼)と塗装耐食性を向上させた合金鋼を対象に塗膜下の水の動きを数時間にわたり詳細に観察し、定量的に評価することに成功した。

結果、合金鋼に比べて普通鋼は保水能(水の滞留を示す値)が大きく、腐食が進行しやすいことが判った。

また、普通鋼の腐食は厚み方向だけでなく、鋼板の面方向にも広がりやすいことも判った。

今研究チームによると今後、鋼材の腐食に関する多くの定量的なデータを得ることで鋼材の腐食メカニズムを解明することで、社会的な課題であるインフラ構造物の維持管理コストの低減や、地球環境の課題である自動車の軽量化による燃費向上・炭酸ガス排出抑制などが期待できると云う。

なおこの研究成果は、日本金属学会第67回金属組織写真賞にて優秀賞を受賞した。

※理研小型中性子源システム RANS(ランズ)
理研が開発し現在高度化を行っている普及型の小型中性子源システムで、中性子ビームが2013年1月に取り出された。

J-PARCに代表される大型中性子源より手軽な装置として、中性子線利用に適した金属材料や軽元素を扱うものづくり現場への普及を目指している。

また、小型な可搬型加速器中性子源と大面積全天候型高速中性子イメージング検出器の開発も進めている。

これらと強度予測シミュレーション全体を有機的に組み合わせた、橋梁などの大型構造物非破壊検査健全性診断システムを確立することを最終目標としている。RANSは、RIKEN Accelerator-driven Neutron Source の略称。
関連動画URL: http://www.riken.jp/pr/videos/frontiers/20130419/ 

※大強度陽子加速器施設 J-PARC
高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が共同で茨城県東海村に建設し運用している大強度陽子加速器施設と利用施設群の総称。加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用が行われている。J-PARCはJapan Proton Accelerator Research Complexの略。