日野セレガ、運転者の体調悪化を捉え自動停止する機能搭載


日野自動車株式会社(本社:東京都日野市、社長:下義生)は6月14日、車載カメラとAI機能が運転者の体調変化や運転姿勢の異常を検知した際、走行中の車両を自動で止める機能を備えた大型観光バス「セレガ」を来たる7月1日に発売する。(坂上 賢治)

近年、輸送業界では運転者の健康異常が原因となる事故が増えている。過去で最も強く記憶に残る事例は、2016年(平成28年)1月15日、長野県北佐久郡軽井沢町の国道18号碓氷バイパスの入山峠付近でのこと。定員45人の大型観光バスがガードレールをなぎ倒して道路脇に転落。運転者2人・乗客39人中15人が死亡。生存者全員が負傷した。

一方、今年の5月24日には、滋賀県草津市の名神高速道路上り線の草津ジャンクション付近で、貸切バスの運転者による前方不注意(現在、詳細調査中)が疑われる要因で多重事故が発生。

この結果、他の2台の乗用車を巻き込んで1名が死亡。3名が重傷、10名以上が軽傷が負った。これらを含めた様々な不祥事を受けた国土交通省では、運転者が過労運転とならないよう輸送業界に対して改めて指導を行う事態が発生している。

こうした運転者の健康障害が原点となった事故は、過去2009~2016年の8年間だけでも261件に上る。事故発生の背景には、人手不足による運転者の長時間勤務の常態化や高齢化もその要因とひとつと謳われている。

そうしたなか日野自動車では、車両提供側からの提案として安全技術の強化を推進。この14日に自車の羽村工場(東京都羽村市)のテストコースで「最新安全技術試乗会」と銘打った報道向けイベントを実施。ここで自らの最新鋭技術を公開した。

この際、筆頭で紹介された技術は同社が『自動検知式ドライバー異常時対応システム(新EDSS/自動検知型式)』と呼ぶ大型バス「セレガ」への実装機能で、これは従来型の「乗客や添乗員が運転者の異常に気付いた時にボタンを押して車両を緊急停止させる機能(旧EDSS/2018年モデルから搭載)」に『ドライバーモニターII』を組み合わせ、さらに積極度を一歩推し進めたもの。

より具体的には、ダッシュボード上に設けられた運転者撮影用のカメラが目の開閉状態や、わき見、うつむき、横方向への倒れ、突っ伏した状態など姿勢の崩れを検知する。

この姿勢が崩れた状態が約5秒間続き、かつ車線を逸脱(車両前面の画像センサーで走行車線からの逸脱を検知)し、赤いワーニングランプや警告音が鳴っても正常な運転状態に復帰しない時、新システムの場合、即座に自動ブレーキを掛けるモードに入る。

自動ブレーキモードでは、車両の異常な状態を「ホーンの断続的な作動」「ハザードランプの点灯」「ブレーキランプの点灯」の3つのアクションで外部に向けて告知しつつ、徐々に減速させて車両を停止させる。

同機能を搭載した「セレガ」の東京地区に於ける価格は、7列座席の「ハイデッカショート2列サロン観光/2KG-RU2AHDA」で3511万6200円(消費税込)から、11列座席の「スーパーハイデッカ一般観光/2RG-RU1ESDA」で4953万4200円(消費税込)だ。

対して大型トラック「プロフィア」については、新開発されたEDSS部分を取り除き、ドライバーの異常検知と警報を組み合わせた『ドライバーモニターII』と『サイトアラウンドモニターシステム』が搭載された。

このうち運転者をカメラで監視する『ドライバーモニターII』は、先の「セレガ」と共通。同機能では、健康状態だけでなく運転姿勢を含めたドライビングへの集中度、わき見などをAIで検知し警告を行う。

但し先の通り、現段階で「プロフィア」への最新EDSS機能搭載を見送っている。その理由はドライバーの健康異常による事故が、多くの命を運ぶことになるバス事業で多発していることから「セレガ」への搭載を急いだため。

但し今後、大型トラックに関しても貨物車両の運転業務に応えられる新EDSS機能搭載については、より早く検討・対応させていく構えだ。

ちなみにこの『ドライバーモニターII』は、運転者の認識に旧来の赤外線カメラを使うといった構造は踏襲しつつ、新EDSSを搭載したバス車両と同じく、運転者の顔面を従来の「目」や「鼻」「口」といった限られた顔面の特徴的な部分を監視するものから、顔全体の変化を複数の点を結び細かに表情変化を捉えるものへと進化させている。

その認識パターンは、ニューラルネットワーク(複数の変化を統合的に機械学習する機能)を活用したソフトウエアへと複雑化。

これによりサングラス着用や夜間認識の機能はそのままにマスクで鼻を覆ってしまっても表情認識を行えるものへとなっている。バス搭載機能と同じく、運転姿勢の変化にも的確に応えていく。

さらにもうひとつ、大型バス車両と同じく大型車ゆえの課題がある。それは交差点などの出会い頭での事故だ。そこで車両バンパー前部両端におよそ75メートル先を捉えるミリ波レーダー機能を備えた『サイドアラウンドモニターシステム』を搭載した。

これは、車両中央部に設けた既存のカメラとセンサー機能に加え、ミリ波ミリ波レーダーをさらに両フロントバンパーコーナーに取り付けて、出会い頭や交差点の右左折時の事故防止に役立てるものだ。

この左右のミリ波レーダーで、比較的高速で接近する自動車の認識のみならず、それよりも遅く接近する自転車。さらにゆっくりと車両に近づく歩行者も的確に捉えて、警告によって運転者への注意を促す。

なお中型トラック「レンジャー」にもこの『ドライバーモニターII』を標準対応させている。
さらに小型トラック「デュトロ」には、シフトポジションの誤りやアクセル・ブレーキの踏み間違い対策として、超音波センサーを組み合わせた『前進誤発進抑制・低速衝突被害軽減・クリアランスソナー』を搭載した。

これはフロントグリルとバンパーに、合計4つの超音波センサーを取り付け、前方の障害物を検知。これにブレーキとアクセルの制御機構を組み合わせたもの。

結果、前方に障害物がある状態でアクセルの踏み間違えた場合、トルクカット(クラッチ切断)とブレーキの介入制御が入る。

つまり運転者が、車両に乗車した状態で駐車場からバックで出る際、運転者がシフトを前進側に入れてしまってアクセルを踏んだとしても、車載センサーが前方のガラス窓や壁を検知し、ドライバーのミスを補助する。

この際、超音波センサーを介して、メータのインジケーターパネルに渉外物とのクリアランスが表示される仕組みだ。制御は時速10キロメートル以下の速度でも有効に働くため、車庫などの狭い場所でも接近警報を鳴らすだけでなく、衝突を避けるためのトルクカットとブレーキの介入が自動で行われる。

加えて車両後方がオープンタイプのトラック車両の場合、荷台後端中央部にバックカメラも搭載。貨物積載時に於いてもルームミラーに撮影映像を映し出すことで充分な後方視界を確保する。

さらに今後は、走行時の追突事故、交差点での巻き込み事故、車線変更時の衝突事故防止など、より複雑な場面での安全機能開発を精力的に推し進めていくという(同社先進技術本部副領域長、奥山宏和氏)。

総じていずれの車両も「PCS(衝突被害軽減ブレーキ)」等の基礎的な先進運転支援システムは既に搭載済みだ。

これらの諸機能は、日野自動車が掲げる将来ビジョン「Challenge2025」での2020年代の高速道路死亡事故ゼロ、2030年代の一般道路死亡事故ゼロに向けた取り組みの一環なのだが、併せて運転者のドライビングミスや人的要因による運輸上でのリスク低減によって、事業経営自体の安定を目指したものでもある。

またその先には、事業社の経営をさらに安定させるべく、自動運転技術の完全導入が控えている。

この6月、米国フロリダ州のセルモン・エクスプレスウェイでは自動運転トラックを開発するスタートアップ「スタースキイ・ロボティクス(Starsky Robotics)」が公道上の無人運転実験で時速55マイル(約89キロメートル)を達成。公道上の無人運転トラックのスピード記録を樹立している。

北欧のスウェーデンでは、ABボルボが子会社を通じて、自動運転電動トラック「Vera」の実用化を急ぐなど輸送業界に於いては、運転の部分自動化を実現させる「自動運転レベル2導入」が乗用車よりも早くやってくる可能性が見え始めている。

ドライバー不足が深刻な課題となっている輸送事業に於いて、こうした自動運転技術の進展は、運輸事業の経営を劇的に変化させ、大きなパラダイムシフトをもたらす起爆剤になるだろう。