5月28日(日)に行われるインディ500に向けた準備のため、フェルナンド・アロンソ選手は5月3日、インディアナポリス・モーター・スピードウェイでテスト走行を行った。
当日、この様子を、該当の米国オープンホイール・レースの統括組織「INDYCAR(インディカー)」がYouTubeで配信。長時間に及ぶこのライブ配信(下記動画リンク有り・長尺配信のため留意されたい)を、多くのファンが見守った。
彼は35歳になった今でも、レースの中では常にベストを尽くしている。そのキャリアに於いて最も直近のチャレンジはMcLaren-HondaのMCL32。
そこから遡ればMcLaren-Honda-Andrettiのダラーラ IR-12、さらにはるか以前に遡るとゴーカートでの走り。どのマシンに乗ろうと、より速く走るように競争心が彼をかき立ててきた。
「人間はみんな生まれつき負けず嫌いなんだ。特にスポーツマンは、新しいことに挑戦し、夢を追い続けるものだと思うよ」とフェルナンドは口を開いた。
「さまざまなキャリアの過程で異なる目標があるけど、これから走るレースで負けようと思ってバイザーを下げるドライバーはいない。
そのような瞬間は僕のレースの中での日常であり、いつも競争心を持ってレースに挑むんだ。それはF1だけじゃない。
もし僕が今日の午後にテニスの試合をしたら、それがグランドスラムの決勝のつもりでプレーするつもりさ。僕は自分がやることすべてで勝ちたいと思っているし、それが一番のモチベーションなんだ」と語る。
そんなフェルナンドとホンダの繋がりの強さは、その歴史が物語っている。実際、彼が最初に手にしたMcLaren-Hondaカラーのゴーカートに乗っていた時期は、彼にとって非常に重要なものだったと云う。
「僕がF1にデビューする前、ゴーカートでは印象に残る出来事がたくさんあったんだ。ゴーカートの世界でたくさんの年月を過ごしたし、それは僕の中でもベストな時期だった。
僕はまだ子どもで、ほかの子どもたちと、いろんな国のさまざまなサーキットで競走した。1996年にはゴーカートの世界選手権で優勝したんだけど、それがF1以前のベストキャリアだったと思う」と話す。
彼が引き付けられたのは、McLarenとホンダという真のレーシング・チームが手を組み、常勝街道への復帰を目指すという新たなアプローチ。
現状に留まらずチャレンジし続けることは、彼がキャリアのはじめから続けてきたこと。そして今の彼にとってのチャレンジは、欧州に於いて世界最高峰の舞台であるF1で勝利することにある。
「子供のころは、特に憧れのドライバーはいなかったんだ。その頃のスペインでは、モータースポーツはメジャーじゃなかったし、人気もなかった。
だから僕も自転車競技やサッカーで憧れの選手はいたけど、モータースポーツにはいなかった。だけど、僕のゴーカートでのキャリア終盤には、アイルトン・セナとミハエル・シューマッハが強くて、モータースポーツで憧れのドライバーと言えば彼らだった」
そして今やフェルナンド自身が、若いドライバーたちがモータースポーツで頂点を目指すきっかけとなる、憧れの選手となった。
F1で彼と競い合っているカルロス・サインツJr.も、フェルナンドを憧れのドライバーだと公言している。そんなフェルナンドがインディ500でチャレンジすることが、今後さらに多くの若いドライバーを挑戦することへ駆り立てることだろう。
そうしたプロドライバーを目指す子どもにとって、はじめの一歩はゴーカートである。フェルナンドのカートスクールは、そうした子どもたちをさらに上位のカテゴリーへ導くのに役立っていると云う。
「僕は、常々モータースポーツになにかを還元することが重要だと思っているんだ。これまでF1で多くの成功を収めてきた。プロのドライバーになってキャリアを積み、このスポーツを楽しむことができて、本当に幸せなんだ。
だから、いま自分の持っている知識や経験をもとに、スペインのカート場や記念館、スクールなどの施設を通じて、モータースポーツで成功できる才能があるのにどこでなにをすればいいのかが分からない子どもたちを支援できればと思っているよ。
そこに来てもらえれば、カートで最高レベルのパフォーマンスを発揮するために必要なものはすべて揃っているんだ。もし才能があれば、トップレベルに到達する助けになるだろうね。」
その一方で本田技研工業を立ち上げた本田宗一郎氏は、「レースは挑戦しなければならいもの」と語っている。というのは、レースによって、自分たちの力量や技術水準が世界のどのくらいにあるかを知ることができ、トップになるにはなにが必要で、どこが限界なのかが分かるからだ。
その精神は2度の世界チャンピオンに輝いたフェルナンドにも共通しており、今回、彼が参加したインディのテストはそれを完璧に体現していた。
「僕にとって、魅力的かつ最大の挑戦は、インディカーのマシンとオーバルコース、そしてドライブするためのテクニックは、F1とどう違うのかを知ることだよ。
だから、いま僕の目の前にある壁に、とても魅力を感じるんだ。F1では、エンジンがV10からV8、V6になり、タイヤもミシュランからブリヂストン、ピレリに移り変わったけど、僕は年々変わる環境に素早く適応し、いつも競争力を発揮してきたドライバーだからね。
全く違うカテゴリー、そして環境も異なる中で、自分になにができるかを知ることができるのも、また挑戦なんだ。そこへ行くことで、自身を成長させられると思うよ。」
今週末、バルセロナのカタルニア・サーキットに集まる大勢の地元ファンの前でレースをした後の彼には、インディアナポリスでの挑戦が待っている。
しかしこれは彼にとって特別なことなのだろうか?
フェルナンド・アロンソが、ヘルメットのバイザーを下げて走り出す前に、コックピットから鋭い視線で前方を見据えるのは、どのグランプリ、どのサーキットでもお馴染みの光景に変わる。
フェルナンドにとっては、一度GOサインが出れば、どんな場所であっても、これまでと同様に不屈の精神で闘うのみだ。それが、どのサーキットでも、どんなマシンでも、どんなレースでも。彼は、インディカーという新たな舞台に於いても現在進行形で、真のレーシングスピリットを見せてくれるだろう。