11月29日、アラブ首長国連邦(UAE)のヤス・マリーナ・サーキットに於いて、FIAフォーミュラ・ワン世界選手権の今季最終となる「アブダビGP」の決勝レースが行われた。
トライライトレースとして実施されたこのアブダビGPを制したのは、シーズン終盤になって、ようやくマシンとのマッチングが噛み合ってきたメルセデスのニコ・ロズベルグとなった。
ニコ・ロズベルグは予選首位からスタート。僚友ルイス・ハミルトンを突き放して、3戦連続のポール・トゥ・ウィンを飾った。3位には、メルセデスに次ぐポジションを固めつつあるフェラーリ陣営のキミ・ライコネンが入った。
決勝スタート時、上位10番手までのグリッドポジションは、ニコ・ロズベルグ(メルセデス)を筆頭に、ルイス・ハミルトン(メルセデス)、キミ・ライコネン(フェラーリ)、セルジォ・ペレス(フォース・インディア)、ダニエル・リカルド(レッドブル)、バリテリ・ボッタス(ウイリアムズ)、ニコ・ヒュルケンブルグ(フォース・インディア)、フェリペ・マッサ(ウイリアムズ)、ダニール・クビアト(レッドブル)、カルロス・サインツJr.(トロ・ロッソ)というフォーメーションとなった。
気温27度、路面温度29度、湿度55%のドライコンディション下でレーススタート。ロズベルグがトップポジションのまま好スタートを決めて先頭をキープ。
その後方では、7番スタートのニコ・ヒュルケンベルグ(フォース・インディア)が5番手にジャップアップ。
13番手スタートのパストール・マルドナド(ロータス)が17番手スタートのアロンソ(マクラーレン)と接触し、アロンソはドライブスルーペナルティが科せられた。
レースは9周目を迎え、ソフトタイヤの交換等で慌ただしく動く、ここでピットストップを済ませたバルテリ・ボッタス(ウィリアムズ)は、ピットアウト時にジェンソン・バトン(マクラーレン)と接触し、5秒のタイムペナルティを背負う。
次第に夜の帳が降り始めた30周目。ハミルトンがロズベルグとのギャップを詰め始めて急接近するも、ロスベルグをオーバーテイクするまでに至らず。
一方、3番手を走るライコネンはピットストップで手間取り、一時チームメイトのベッテル後方の4番手に脱落するものの、36周目にベッテルを抜き、3番手に返り咲く。
結果、55周を消化して繰り広げられたシーズン最終章は、ニコ・ロズベルグが逃げ切って3連勝を獲得。
2位は結局、今回もトップに届かずに終わったルイス・ハミルトン(メルセデス)、3位キミ・ライコネン(フェラーリ)、4位セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)、5位セルジオ・ペレス(フォース・インディア)、6位ダニエル・リカルド(レッドブル)、7位コニ・ヒュルケンベルグ(フォース・インディア)、8位フェリペ・マッサ(ウィリアムズ)、9位ロマン・グロージャン(ロータス)、10位ダニール・クビアト(レッドブル)となった。
今シーズン初参戦を果たし、次第に調子を上げてきていたマクラーレン・ホンダは、最終戦での1桁ポジションを期待するファンの夢に応えられず、ジェンソン・バトンが12位。フェルナンド・アロンソ17位でレースを終えている。
ニコ・ロズベルグ(1位)
「今日もパーフェクトなレースだった。シーズンの終わりに6戦連続のポールと3連勝を上げて、自身のパフォーマンスを発揮できてとても嬉しい。僕にとって、シーズン最高のエンディングになった。
スタート、ピットストップ、タイヤマネジメントのすべてを完全にコントロールできた。この成果を与えてくれたシルバーアローの皆に心から感謝したい。
ファクトリーの人たちも、コースの人たちも、この1年間素晴らしい仕事をしてくれた。個人的には明日から2016年シーズンを始められたらいいのにと思えるほどだ。
来年については、どこを変えて、自分がどうしたら向上できるかを既に考えている。でも明日からは、今までの努力に相応しい休暇を家族と過ごすつもりだ」
ルイス・ハミルトン(2位)
「今日はすごく難しいレースになった。ニコの後ろに付けていた最初のスティントで、僕のタイヤは完全に終わっていた。
第2スティントは良かったが、結局、シーズン前半のように調子よくフィニッシュすることができなかった。
でも、今シーズンが素晴らしい1年だったことは間違いない。チームは本当に素晴らしい仕事をしてくれたと思う。ファクトリーのみんなにとても感謝している。もしも彼らがいなかったら、僕は今ワールドチャンピオンとしてここに立っていないからね。
今後は、来シーズンに向けて自分を鍛え、2016年は最初からトップに立てるように、この冬を過ごしたいと思う」
クリスチャン・トト・ウォルフ(メルセデス・ベンツモータースポーツ責任者)
「今シーズンは、数多くの素晴らしいレースを経験したが、特に今日は、チームにとって最高のレースだったと思う。
実際にはニコのエンジンは、マイレージがかさんでいたので少々不安があったし、ルイスには優勝のチャンスを提供するため、両ドライバーが切磋琢磨するオープンな戦略が相応しかった。しかし今日はニコが本当に力強くて、優勝に相応しい走りを披露したと思う。
いずれにしても今年は、ポールポジションの回数、フロントロー独占の回数、勝利数、1-2フィニッシュの回数など数多くの記録を打ち立ててきた。
しかしそれは最も重要なことでない。それよりも大事なのは我々が1年掛けて育んだチームのスピリットだ。
彼らと共に働けることは喜びであり、この調子を来年につないでいきたいと思っている。今年はフェラーリが大きく前進したし、これに必ず備えておかなければならない。我々は2016年に向けて、さらなる進歩を目指す」
パディ・ロウ(テクニカル部門エグゼクティブディレクター)
「タイヤ選択を含む2つの異なる戦略を採用したニコとルイスが接戦を繰り広げ、今シーズンを締め括った最高のレースだった。
一方で率直に云って、キミとフェラーリは、我々にとって脅威と思えるほど素晴らしいパフォーマンスを発揮したと思う。
しかしレース全体としては、ニコの方がレースをコントロールして、走りに相応しい勝利を得て今シーズンを締め括った。この機会を借りて、シーズンを通して最高の仕事を果たしてくれた2人のドライバーに感謝を伝えたい。
クルマに対する相次ぐ厳しい要求に相応しく、完璧にマシンコントロールを重ねてきた能力。1年を通してミスを犯さぬステディさが今年の成功を成し遂げた鍵だ。
またこのマシンを設計し、製造し、走らせることに全力を尽くしたすべての人々に心から感謝している」
キミ・ライコネン(3位)
「良い週末だった。クルマのハンドリングは良かったし、トラブルもなかった。マシンのスピードにも満足だ。
ただ、ピットストップでは少し手間取って、メルセデスへのチャレンジが叶わなかった。本当は今日のレースでは、もっと近づけたと思う。
ただ去年の僕らの位置を考えれば、今年のチームは本当によく頑張った。今年のクルマはシーズンを通して満足できるものだったし、その結果がリザルトにも現れている。
しかも来年は、新たなチャレンジと新たなマシンが待っている。僕らがするべきことは、今年と同じく一貫した改善を続け、チームが一つになって努力し続けることだ。
そうすれば今年の進歩をまた継続できると思う。来年がどうなるかなんて誰にも分からないし、それを予想するのはまだ早い。ベストを尽くして、他チームの様子を見るだけ。答えを教えてくれるのは時間だけだ」
セバスチャン・ベッテル(4位)
「自身としては、もう一度表彰台に上りたかったけれど、今日の結果はチームにとってはベストだと思う。
序盤に大きくタイムロスしてしまい、最後まで追いつくのに必死だった。ただ最初と最後のスティントではマシンの調子も良く、とても満足している。
それに今日は、キミとまったく異なるタイヤ戦略を選択していたから、キミが後方から近づいてきたら、メルセデスを追いかけられるように道を譲るのは当然のことだった。彼の邪魔はしたくなかったからね。
今シーズンの結果自体には本当に満足している。たった1年前に、僕たちがいたポジションを考えれば、今年は奇跡のシーズンだと思える。一年でこんなに改善したチームは見たことがない。このチームに加われたことをとてもうれしく思っている。
フェラーリの初年度を、こんなに楽しく過ごせるなんてハッピーだ。できればこの先、もっとたくさん良いことが待っているといいな」
マウリツィオ・アリバベーネ(フェラーリチーム代表)
「今日は期待通り、キミが素晴らしいレースを戦ってくれ、セブも15番グリッドから追い上げて4位でフィニッシュしてくれた。
この結果は、我々チームの今シーズンを代弁してくれていると思う。昨冬の初テストからポジティブなフィードバックは手にしていたけれど、目の前の山がとても高いことは分かっていた。
しかしサーキットの現場でも、ファクトリーに於いても、チームの皆が一丸になって取り組んできた成果が結実した。
チーム全員に心から感謝している。また舞台裏で常に我々をプッシュし、サポートし続けてくれたトップにも感謝したい。来年はより大きなチャレンジが待っている。ライバルに追いつくだけでなく、彼等の前を走る必要があるからね」
ジェンソン・バトン(12位)
「今日のレースは、今年の僕のベストレースになったと思う。ただ最初のピットストップは、まずいチームの判断だったね。
ぶつかると思ったから衝撃に備えた。それでピットストップが混乱してしまって、クルーも動揺した。
またそれよりも僕にとってもっと最悪だったのは、レース中に維持しようとしていたDRSゾーンから外れてしまったことだ。それがこの1年の僕らの作戦だった。そのためにタイムを失ってしまった。
しかし今日の結果には満足している。ずっと燃料をセーブしなければならず、苦しくて大変だったけど、それでも楽しめた。
終盤はあんなに長くウィリアムズ・メルセデスを押さえられるなんて思っていなかった。彼らの方が直線ではるかに速いからね。
でも、それができた。驚きだけど、とてもポジティブな成果だ。僕はもう来年を楽しみにしているんだ」
フェルナンド・アロンソ(17位)
「タフで不運な週末だった。昨日はQ1でパンクして、今日はスタートでコントロールが効かなかった。それでパストールに突っ込んでしまい、決着はそこでついてしまった。後は何のバトルもないレースで、ほぼ単独走行だった。
僕にとってはテストセッションのようなものだよ。冬のために有益なデータが得られたならうれしいけど。
それでもタイヤと燃料はセーブしなければいけなかった。レース中、エンジニアにこう言ったんだ”ねえ、プッシュしてみようよ”って。
軽い状態でスーパーソフトタイヤを試してみたかった。僕の2016年の準備はこの後すぐに始まる。来週には、マクラーレン・テクノロジー・センター(MTC)でシート合わせとシミュレーターテストがあるんだ。きっといい前進ができると考えている」
エリック・ブーリエ(マクラーレン・レーシングディレクター)
「今日はイライラが止まらない疲労困憊のレースだった。これで疲れとフラストレーションのたまるシーズンが終わる。
ジェンソンが12番手に食い込み、フェルナンドが17番手だった。そして今日のレースでも12位と17位となり、ひとつも上にいけず、ポテンシャル的には何の進歩も果たせなかった。
ドライバーはどちらもトラブルフリーでレースを終えられたわけでなく、ジェンソンはウィリアムズクルーが犯したバルテリ(ボッタス)のアンセーフリリースによってリアウイングのエンドプレートにダメージを負った。
一方フェルナンドは、われわれとしては無難だったと思うに足るパストール(マルドナド)との小競り合いでドライブスルーペナルティを食らった。
そうは言っても、明るい気分になる理由もある。控えめに言うなら、コーナースピードが週末を通してまずまずだったこと。
実際、今日のレースの終盤5周はフェルナンドのセッティングを”フルデプロイメント”に切り替えた。
この数週間、数カ月に渡って奇妙な状況に遭遇してきた彼にコース上で少しでも楽しんでもらいたかっただけでなく、うちのマシンがパフォーマンス面でどれだけ力をはっきできるかを見たかった。
結果は励みになる以上だった。彼のファステストラップである1分44秒796は52周目に記録されたものであり、これを上回っていたドライバーはメルセデスのルイス・ハミルトンとフェラーリのセバスチャン・ベッテルの2人だけだ。
ただまったくもって最高のシーズンではなかった。その一瞬、一瞬を楽しめたとも言えない。ドライバーやスタッフ、スポンサーやパートナー、ファンにとっても厳しかったことは承知している。
それでも、間違いなく、我々はライバルたちのパフォーマンスに匹敵できるよう取り組み続け、これからも全力で取り組み続ける。
だからこそ、最後に、それぞれに対して経緯を表しておきたい。まずドライバーはコース内外において本当に優秀だった。彼らのがんばりに見合うだけの結果を残せることがめったにないにもかかわらず、一度も不満をこぼさず全力で戦ってくれた。
スタッフたちも、疲れ知らずに仕事を続け、拠点でも外でも、最高のチームスピリットを示している。本当に心から皆には感謝している。
また我々を信頼し続けてくれたスポンサーや、パートナーのことは言葉に言い表せぬほど誇りに思うと共に感謝しており、彼らの忠誠は必ずや実を結ぶだろう。
そして、最後になったが何よりも大事なのは、ファンの皆さんが本当に信じられないほどの忠誠心を示してくださり、あらゆるオッズに反して、そしてすべての失望にもかかわらず、#BelieveInMcLarenHonda(ビリーブ・イン・マクラーレン・ホンダ)の精神を目いっぱい発揮してくれた。皆さんに感謝したい。本当にありがとう」
新井康久氏(株式会社本田技術研究所 専務執行役員 F1プロジェクト総責任者)
「何よりも先に、シーズンを通した絶え間ないハードワークとモチベーションでチームを支えてくれた2人のドライバーたちに感謝します。
それから、この19戦を通して何度もアップダウンを経験したチーム全体にも感謝しなければなりません。
彼らと、ウォーキング、そしてさくらで、砦を守ってくれた皆さんを心から称えたいと思います。その一人一人がいなければ、われわれが今シーズンの戦いと改善を続けることはできなかったでしょう。
このアブダビのレースリザルトは、1周目のインシデントやピットレーンのトラブルによって難しいものではありましたが、中団での真っ向勝負を通じて、我々のパッケージの進化を確認することができました。
これからは、信頼性とパワーユニットのディプロイメントの修正を重点として行われる冬の開発に期待します。われわれの狙いは、もっと強く、もっと良くなって来年戻ってくることです。
最後になりますが重要なこととして、この1年温かく見守ってくれたファンの皆様に心からお礼を申し上げます。皆さんの好意や励ましは何よりも大きな力になりました」