WEC第7戦・富士6時間、トヨタ陣営1-2位。宿敵ポルシェを下す


2017年のシリーズ戦も残り僅か。マニュファクチュアラー&ドライバー選手権共に余裕のポルシェはトヨタを賞賛

FIA世界耐久選手権(WEC)の第7戦・富士6時間(開催地:静岡県駿東郡小山町、富士スピードウェイ)の決勝レースが、3万2千人の観客を集め10月15日に開催された。

レースは雨と霧のため、6回のセーフティカー導入と2回の赤旗中断があるなど荒れた展開となったが、この混戦をトヨタ陣営のTOYOTA GAZOO Racingの2台の「TS050 HYBRID」はレース序盤でリードを稼ぐ展開に。

さらに最後は濃霧によって1時間半早くレース終了となり、結果カーナンバー8号車が今季3勝目。カーナンバー7号車が2位で続き、1-2フィニッシュを達成した。

なおトヨタ陣営のTS050 HYBRID・カーナンバー8号車に乗る中嶋一貴、セバスチャン・ブエミは、ドライバーズ・タイトル獲得の可能性を残しており、今回チームは彼らに大きな期待を賭けてレースに臨んだ(アンソニー・デビッドソンも同車をドライブするが、前戦オースティンを欠場しているためにタイトル争いに加わっていない)。

なお同じくTS050 HYBRIDカーナンバー7号車は、小林可夢偉、マイク・コンウェイ、ホセ・マリア・ロペスの3人が駆る。

彼らはドライバーズ・タイトル争いからは外れているものの、現段階でポルシェに大きく水を開けられたマニュファクチャラーズ・タイトル獲得へ向け、重要な役割を担ってレースに臨んだ。

レースは気温14度、路面温度16度という悪条件で不順な天候に翻弄され、ポルシェ並びにトヨタの両陣営のいずれも目まぐるしく変わるコンディションに臨機応変な対応を迫られた。

スタートは予定通り午前11時に切られたが、当初はセーフティカー先導の下で周回を消化。トヨタ7号車は小林、8号車をブエミがスタートを担当。5周を終えた時点で、ようやくグリーンフラッグが振られて実質的なレースがスタートした。

しかしほどなくレースは度重なる雨や霧で混乱し、スタートから40分の時点で再びセーフティカーが導入。更に40分後には濃い霧のために赤旗が提示されてレースが中断される。

その時点でカーナンバー8号車のトヨタは3位。カーナンバー7号車は4位を走行していたが、レースが再開されてすぐ、序盤過ぎには1、2位のフォーメーションを形勢した。

雨天路上で2台のトヨタ陣営は早いラップタイムを刻むなど快走したが、ポルシェとは燃料給油戦略が異なっていたことから、セーフティカー導入によって幾たびも稼いだマージンが帳消しとなってしまう。結果、両陣営のシーソーゲームが続いた。

その後、午後3時半過ぎに富士スピードウェイを濃い霧が覆い始め、周回数114周でレースは二度目の赤旗中断となる。

その時点で世界選手権の競技規定に則り、チャンピオンポイントをフルに獲得出来る全走行時間の75%をクリアしていたことから、WEC富士6時間が終了した。

結果いずれの車両にとっても中途半端な幕切れとなり、赤旗が提示された時点で、首位を走行していたカーナンバー8号車のトヨタはピットストップを想定するなかで、デビッドソンはステアリングを握ることなくレース終了に。

トヨタの7号車は、序盤に発生したワイパートラブルへの対応のためピットストップが長くなりながらも2位でフィニッシュ。これにより8号車の中嶋とブエミはドライバーズ・タイトル獲得の可能性を残し、11月5日に行われる第8戦・上海6時間、11月18日の第9戦 バーレーン6時間レースに臨む。

ドライバー選手権でトップに立つのは、バンバー、ベルンハルト、ハートレー組で172ポイント。これを39ポイント差で中嶋とブエミが追っている。

マニュファクチュアラータイトルでポルシェ陣営は270ポイントを獲得。これを211.5ポイントのトヨタが追う展開となっている。

トヨタ自動車の専務役員・友山茂樹氏とドライバー達

豊田章男 トヨタ自動車社長
熱い声援を送り続けてくださるファンの皆さま、そして、マシンを構成するパーツを供給いただいている皆さま、日本にいる多くの仲間に支えられ我々TOYOTA GAZOO Racingは世界耐久選手権を戦っています。

その皆さまの前で、心を合わせ走ることの出来る富士の戦いは我々にとって大変重要な戦いでした。皆さまの想いを乗せた戦いで勝利出来たことを本当に嬉しく思います。

支えていただいた皆さま、ありがとうございました。今回は、天候不良もあり、ドライバー達も「思いっきり走る」戦いにはならなかったかと思います。

それは少し残念でしたが、トヨタのエンジニア、メカニック、そしてマシンを信じて、コンディションの悪い道を、無事に走らせきってくれたドライバー達にも感謝いたします。

セバスチャン・ブエミ選手と、喜び合うトヨタテクノクラフト株式会社 代表取締役会長の嵯峨 宏英氏

本当にありがとう。また、このレースは残り少ないポルシェとの戦いの場でもありました。

残す戦いの場は2つ、「トヨタは良きライバルだった…」、「またいつかトヨタと勝負がしたい…」、今まで、競い合い、自動車の未来のために共に切磋琢磨した仲間としてポルシェには、そう言っていただきながら、次のステージに向かってもらいたいと願っております。

本日の雨のレースは、お互い、力を出し尽くすレースにはなりませんでしたが、残り2戦、シーズンが終わるまで、引き続き、全力でぶつかり合う戦いをさせていただければと思います。

ポルシェの皆さま、最後まで、ファンの皆様に笑顔になっていただける全力のレースをしましょう。よろしくお願いいたします。ファンの皆さまにも、引き続き、我々の戦いを応援いただければ心強く思います。

チーム代表の村田 久武氏

村田久武 TOYOTA GAZOO Racing WECチーム代表
今シーズン表彰台の真ん中に立つのは3度目となり、とても素晴らしい気分です。この結果を成し遂げるため、チームは懸命に努力を重ねて来ました。

不順な天候にもかかわらず、本日、富士スピードウェイにお越し頂き、応援をして下さった皆様に心から感謝を申し上げます。

皆様からの暖かい声援が我々の頑張となり、ライバルとの激闘をお見せすることが出来て、とても嬉しく思っています。

ドライバー達もTS050 HYBRIDも今日の悪天候の中で本当に力強さを発揮してくれました。今シーズン残りの2戦を全力で戦い、ファンの皆様に喜んで頂ける結果を挙げられるよう最善を尽くします。

1位・中嶋一貴(TS050 HYBRID #8号車)
1-2フィニッシュを目標にしていたので、それが達成出来て本当に嬉しいです。チームにとっても最高の結果ですし、チーム全員と共に得たこの結果に、私自身本当に喜んでいます。

我々はウェットコンディションでのペースがとても良く、充分に優勝に値する速さがあったと思います。

私自身にとって3度目の富士での勝利は、最高の応援をしてくれた日本のファンの皆様の前での勝利ということもあって、本当に格別です。

1位・セバスチャン・ブエミ(TS050 HYBRID #8号車)
チームにとって、そして今日のような不順な天候の中でも最高の応援をしてくれた日本のファンの皆様にとって素晴らしい結果になりました。

今日の(中嶋)一貴の素晴らしい走りは本当に賞賛に値します。私も懸命に走りましたが、一貴は今回のレースの大半を戦い、勝利に大きく貢献してくれました。このホームレースで素晴らしい仕事を成し遂げたチーム全員に祝福を送ります。

1位・アンソニー・デビッドソン(TS050 HYBRID #8号車)
今日の結果は(中嶋)一貴とセバスチャン(ブエミ)のおかげです。彼らは難しいコンディションの中で最高の走りを見せ、チームもそれに応えました。

残念ながら私自身は、2度ほどヘルメットを着けて用意しましたが、決勝レースを走ることはありませんでした。

とはいえ今日の好結果で、今後のレースを戦うのが楽しみになりました。

2位・小林可夢偉(TS050 HYBRID #7号車)
チームの全員に、そして8号車のクルー達に祝福を送ります。チームにとって本当に嬉しい結果です。

我々はこの週末を通して苦しい状況が続きましたが、決勝レースの直前に適正なセッティングを見出し、それが功を奏しました。

レースで周回を重ねるごとに状態は良くなって行きました。悪天候の中で、特にファンの皆様は大変だったと思いますが、多くの応援のおかげで勝つことが出来ました。この結果で期待に応えられたことを嬉しく思います。

2位・マイク・コンウェイ(TS050 HYBRID #7号車)
8号車のドライバーの戦いぶりは最高でした。トヨタの母国のレースで1-2フィニッシュを果たせたことも、チームのハードワークが報われた結果であり素晴らしいです。

我々が2位に入ったことで、チームにとって最高の結果となりました。私自身が走ったのは短時間ではありましたが、雨で難しいコンディションの中、ライバルとバトルを繰り広げましたが、しっかり2位を守ることが出来ました。

2位・ホセ・マリア・ロペス(TS050 HYBRID #7号車)
8号車のクルーは充分優勝に値する素晴らしい働きでしたが、とても難しいコンディションの中でレースを戦ったドライバー皆が本当に良くやったと思います。

我々7号車にとって厳しい結果に終わった土曜日の予選の後、懸命な努力で車両を改善してくれたスタッフに感謝します。

富士でのレースは初めてでしたが、他とは違うイベントで、レースが終わった今は何故特別なのか、その理由も分かりました。今日はこの好結果をかみしめて、次のレースへと臨みます。

ポルシェチーム監督のアンドレアス・ザイドル氏

ポルシェチーム監督 アンドレアス・ザイドル
「富士で勝利したトヨタに賞賛を送ります。今日は振り子が前後に振れるかのように状況が二転三転した一日でした。

最初のレッドフラッグが出る前、我々は賭けに出ていました。あそこでレースが終了していたら、我々の2号車が優勝していたでしょう。

ましてや、最後のレッドフラッグが出されたタイミングは我々にとって不運でした。もしも、そのままレースが継続されていたら、トヨタの7号車と我々の1号車が優勝を競っていたでしょう。

全体的にリスタート時のタイヤの温度を上げて働かせる際に問題があり、何度か順位を落としていました。しかし、両チャンピオンシップ防衛に向けてポイントを持ち帰れたことが重要です。非常に困難が多い週末でしたが、ドライバーとチーム全員が常に集中していたことに感謝します」

3位・ニール・ジャニ(ポルシェ919ハイブリッド1号車、スイス)
「今日は二番手と最終スティントでドライブしました。結局、2度のどちらのレース中断時にも車の中にいました。

これでレッドフラッグ中の進行に精通したと言えるでしょう。トヨタとは接戦でした。どうやら我々よりもタイヤに熱を入れるのがうまかったようです。

毎回、追いつくことは出来たのですが、その都度、セーフティカーかイエローフラッグが出てしまいました。

今までに経験したことの無いレースであったのは確かです。場合によっては視界ゼロの状態で、最終的には生き残れるかどうかの問題でした」。

3位・アンドレ・ロッテラー(ポルシェ919ハイブリッド1号車、ドイツ)
「スタート直後の数周はタイヤを働かせるのに苦労しました。タイヤの温度が低すぎて氷上走行しているかのようでした。なぜかトヨタはこの点において我々よりも優れていて、私はポジションを二つ落としました。その後、セバスチャン・ブエミに接触した際、フロント周りのエアロパーツが取れ、ダウンフォースを無くしました。でも、その後にタイヤ温度を上げることができた際、車は非常に速かったです」

3位・ニック・タンディ(ポルシェ919ハイブリッド1号車、英国)
「担当したスティントはセーフティカーが出るまで非常にうまくいっていましたが、レース再開時にタイヤ温度が下がり、リスタートが難しくなりました。

トヨタはリスタート時には速いが、長距離のペースでは劣るといった、少々我々とは異なるタイヤ戦略をとっていたと思います。結局、今回のレースでは長距離を走ることが少なかったことが不運でした」

4位・アール・バンバー(ポルシェ919ハイブリッド2号車、ニュージーランド)
「スターティングドライバーとしてレースをスタートしたわけですが、特にトラフィック内での水しぶきや霧で、視界が非常に悪かったです。約1時間が過ぎた時点でのレッドフラッグは正しい判断だったと思います。コース上の水量は問題なかったのですが、霧が晴れる必要があり、結局最後までそれは叶いませんでした」

4位・ティモ・ベルンハルト(ポルシェ919ハイブリッド2号車、ドイツ)
「アールから引き継いだ際、タイヤを働かせるのに大きな問題がありました。結構なトラフィックの中でドライブしていましたが、水しぶきと霧で視界が非常に悪かったです。

なので、タイヤに熱を入れることもあまり出来ませんでした。周回遅れにされた直後にセーフティカーが出ました。これも我々にとっては不運でした」

4位・ブランドン・ハートレー(ポルシェ919ハイブリッド2号車、ニュージーランド)
「アールにとっては最高の出だしでした。後続を10秒以上離して先頭を走っていましたが、その後は連続してセーフティカーが出動し、我々のレースへ確実な悪影響を及ぼしました。

今日は非常に難しい状況で、コースは滑りやすく視界も最悪でした。それでも車をコース上に留め、担当スティントはしっかりと走れました」。