WWFとトヨタ、「気候変動分野」と「生きているアジアの森プロジェクト」で協働開始
WWF(World Wide Fund for Nature, 世界自然保護基金)と、トヨタ自動車株式会社(本社 : 愛知県豊田市、代表取締役社長:豊田章男、以下 トヨタ)は2016年7月1日付けで、持続可能な社会の実現に向けて、5年間にわたるパートナーシップを始動させる。
これは自動車業界としては世界初、日本企業としても初のWWFグローバル・コーポレート・パートナーシップとなる。
今パートナーシップについて、WWFインターナショナル事務局長のマルコ ランベルティーニ氏は、「次世代子供たちと地球のために、持続可能な世界の実現を目指すトヨタのビジョンを歓迎する」と述べた(詳細後延)。
WWFとトヨタは、生物多様性の保全と脱炭素社会の実現に向けて、様々な協働を行うことでステークホルダーの意識の高まりに寄与、「人と自然が調和して生きられる持続可能な社会」の実現を共に目指していく。
上記に関わる具体的な協働内容は以下の通り
(1)生物多様性保全の取り組みとして、トヨタは「生きているアジアの森プロジェクト“Living Asian Forest Project”」の支援を開始する。
(2)このプロジェクトは、WWFが東南アジアの熱帯林と野生生物を保全するために実施してきた活動を強化し、また新たな保全活動へと展開するものである。
(3)活動場所は、WWFが世界の優先保全地域に指定しているインドネシアのボルネオ島(カリマンタン)とスマトラ島に加え、将来はメコン地域へも拡げていく予定としている。
(4)なおこのプロジェクトは、木材、紙パルプ、パーム油、天然ゴムといった自然資源の持続可能な生産と利用を実現するための経済活動も含む。
上記を含む理由は、これらの産品の非持続可能な生産や利用は、東南アジアにおける熱帯林の破壊や絶滅危惧種の脅威の主な原因の一つとなっているからとしている。
(5)これらを踏まえトヨタは、2016年に「生きているアジアの森プロジェクト」に100万米ドルを助成し、同プロジェクトへの支援体制を5年間継続していく予定。
なおトヨタにとって同支援は、2015年10月に発表した「トヨタ環境チャレンジ2050」(注2)実現に向けた取り組みのひとつでもある。
この「トヨタ環境チャレンジ2050」は、地球環境の問題に対し、来る2050年に向けクルマの負荷を限りなくゼロに近づけると共に、社会にプラス効果をもたらすことを目標に据えており、複数の達成項目のうちの一つに「人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ」を掲げている。
トヨタでは、特に今パートナーシップに関わり、森林生態系を保全するべく、天然ゴムの持続可能な生産と利用を重要なポイントとして据え、これを普及促進する活動に注力していく意向である。
しかし一方で、自動車用タイヤの主要原料である天然ゴムは、今後も、世界的に需要がさらに大きく拡大すると見込まれている。
そこでトヨタは、天然ゴムの環境・社会課題を理解した上で、産業界・他のステークホルダーとも協力して、WWFが推進する天然ゴムの持続可能性に関する国際基準の策定等へ積極的に貢献。
併せて気候変動の分野では、「トヨタ環境チャレンジ2050」でも掲げる「CO2ゼロチャレンジ」の実現に向けて、WWF等が推進する「Science Based Targets(科学と整合した目標設定)」に参加登録を完了しており、脱炭素社会実現を目指して協働していくとしている。
今締結に関わる関係者のコメントは以下の通り
トヨタ自動車株式会社取締役副社長 ディディエ ルロワ氏
トヨタは、「真に持続可能な社会を実現し、未来の世代に豊かな地球環境を残したい」との思いをWWFと共有しています。
「トヨタ環境チャレンジ2050」の実現に向けて具体的な取り組みを開始するには、地球環境保全活動の専門家であるNGOの皆様と協働していくことが不可欠であると考えました。
トヨタのような企業が、WWFとのパートナーシップや「生きているアジアの森プロジェクト」のような取り組みを開始することで、従業員・サプライヤー・お客様といったステークホルダーの皆様に良い影響が生まれ、持続可能な資源利用の大切さについて、理解が深まっていくことを期待しています。
WWFインターナショナル事務局長 マルコ ランベルティーニ氏
WWFは、トヨタとの協働によって、私達の暮らしを支えている自然環境の危機的な劣化を防ぐために必要な取り組みを強化できることを嬉しく思います。
今日、いまだかつてないほど、地球規模の環境課題に関する科学的な根拠が一層明確になり、これらを解決するべきという認識が広まっています。
こうした課題を解決するためには、トヨタのような、大企業による取り組みがますます求められています。WWFは、次世代の子どもたちと生きている地球のために、より安全で健康な、持続可能な世界の実現を目指すトヨタのビジョンを歓迎します。
WWFインドネシア自然保護室長 アーノルド シトンプル氏
このパートナーシップの素晴らしい成果の一つは、私達が行っているカリマンタンとスマトラ島における熱帯林の生態系保全の取り組みが強化されることです。
これらの生態系は、深刻な絶滅の危機に瀕している野生生物の生息地であるとともに、自然資源の持続可能な管理のための重要なエリアとなっています。
以下参考
「WWFグローバル・コーポレート・パートナーシップ」とは
環境課題とその改善に向けた共通の思いに基づき、WWFとパートナー企業の二者間で、グローバルな規模で協業を行う取り組み。その内容は、
1.持続可能な事業活動の実現
2.社会への環境コミュニケーション
3.WWF自然保護プロジェクトへの資金支援の3分野を含む協働を行う等のパートナーシップ概要が含まれる。
「トヨタ環境チャレンジ2050」とは
トヨタは、持続可能な社会の実現に貢献するために、2050年に向けた新たなチャレンジとして「トヨタ環境チャレンジ2050」を2015年10月に発表した。
「トヨタ環境チャレンジ2050」は、気候変動、水不足、資源枯渇、生物多様性の劣化といった地球環境の問題に対し、クルマの持つマイナス要因を限りなくゼロに近づけるとともに、社会にプラスをもたらすことを目指して、「もっといいクルマ」「もっといいモノづくり」「いい町・いい社会」の3つの領域で6つのチャレンジを掲げている。
http://www.toyota.co.jp/jpn/sustainability/environment/challenge2050
「Science Based Targets(科学と整合した目標設定)」とは
WWF、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトによる共同イニシアチブ。
企業に対し、気候変動による世界の平均気温の上昇を最大でも2度未満に抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標を設定することを推進している。
目標設定を支援するためのガイダンスやツールなども策定している。世界で160以上の企業が、そうした意欲的な目標設定にコミットしている(2016年7月1日時点)。
「WWF(World Wide Fund for Nature)」について
WWFは、100カ国以上で活動している地球環境保全団体。1961年にスイスで設立された。
人と自然が調和して生きられる未来を築くことをめざして、地球上の生物多様性を守ることと人の暮らしが自然環境や野生生物に与えている負荷を小さくすることを柱に活動を展開している。
「生きているアジアの森プロジェクト」について
地球の生物多様性の豊かさを示す「生きている地球指数」は、1970年から2010年までに世界全体で半分以上減少しており、特に熱帯地方では56%減少と著しい衰退がみられる。
なかでも、東南アジア地域の熱帯林は、世界有数の生物多様性の宝庫であるとともに、世界で最も急速に貴重な生態系が失われている。
そこで、同パートナーシップでは、東南アジアの熱帯林とそこに生息する生物の保全に向けて、「生きているアジアの森プロジェクト」を開始し、WWFが世界で最も優先して保全するべき地域のひとつに指定している、インドネシア共和国のボルネオ島(カリマンタン)とスマトラ島で活動を実施していく。
同活動は将来、インドネシアでの活動を踏まえ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム等にまたがるメコン地域への活動拡大も検討している。
ちなみにこの保全活動には、対象地域における生物調査・森林再生・森林周辺に住む人々の暮らしを支える諸活動が含まれる。
加えて、各地で熱帯林破壊や絶滅危惧種の個体数減少の主たる原因となっている産品(木材、紙パルプ、パーム油、天然ゴム等)について、サプライチェーンに関わる企業等と連携し、生産、調達、消費を持続可能なものに改善するための活動も実施していく。
これらは、WWFが目指す「地球1個分の暮らしという観点からのよりよい選択」を実践するものであり、同地域の生物多様性をまもり、CO2の貯蔵庫としても重要な森林を保護するために必要な活動である。
特に、タイヤなどの主要原料である天然ゴムについては、今後需要が一層拡大することが予想されており、森林生態系を保全するためには、天然ゴムの持続可能な生産と利用が求められている。
トヨタは、天然ゴムの環境・社会課題を理解し、産業界・他のステークホルダーとも協力して、WWFが推進する天然ゴムの持続可能性に関する国際基準の策定等へ積極的に貢献していくことを目指している。
「生きている地球指数」について
3038種の哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の10380の個体群動態をもとに計算された世界の生物多様性の状況を表す数値で、WWFとロンドン動物学協会が共同で2年ごとに計測している。
1970年から2010年の間に52%減少しており、これは脊椎動物種の個体群が平均すると約40年前と比べて、半分の規模に減少したことを示している。
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