カシューナッツの殻から、環境や人体に有害な化合物を使用することなく、室温で成形可能な植物由来の機能性材料を生み出す
国立大学法人 東京農工大学(本部:東京都府中市、学長:大野弘幸)、大学院・工学研究院応用化学部門の兼橋真二(かねはししんじ)特任助教と、同大学院・生物システム応用科学府の荻野賢司(おぎのけんじ)教授。さらに明治大学の宮腰哲雄(みやこしてつお)名誉教授らの研究グループは、その多くが廃棄処分となるナッツの殻から、植物由来の環境調和型グリーンプラスチックを開発することに成功した。
先の通り、現在カシューナッツの殻は食用とならず、その多くが廃棄物処分となっているが、そこから得られる天然植物油(カシューオイル)から、環境や人体に有害なホルムアルデヒドなどの化合物を使用せずに、室温で成形可能なグリーンプラスチックを開発した。
この材料は、フィルムや樹脂への成形性に優れ、耐熱性、酸・アルカリ・有機溶媒に対する耐薬品性。
さらには大腸菌や、黄色ブドウ球菌に対する抗菌特性も有しており、フィルムや樹脂としてパッケージングや、コーティング材料をはじめ、自動車部材から電子材料部材まで幅広い材料分野への応用展開に期待できると云う。
この研究の成果は、2017年5月30日に高分子学会広報委員会パブリシティ賞を受賞し、幕張メッセで開催された「第66回 高分子学会年次大会(5月29日-31日付)」内で発表されている。
さて上記を踏まえた現状だが、昨今の環境問題である地球温暖化や化石燃料の枯渇の懸念から、地球環境に低負荷な持続可能社会の構築が、世界レベルで渇望されている。
特に有限な化石資源に依存せず、地球環境に優しいカーボンニュートラル(注1)な非可食バイオマス(再生可能資源)の有効利用に期待が集まっている。
そうしたなか同研究では、非可食ポリフェノールであるカシューオイル(注2)に着目し、エポキシ化、熱による自動酸化重合を用いたプレポリマー化。
アミン化合物との架橋反応あるいは、紫外線照射により、室温で成形可能なグリーンプラスチック(バイオベースポリマー)を開発することに成功した。
開発したポリマーは、300°C付近まで熱的に安定であり、酸・アルカリ・有機溶媒に対する化学的耐久性に優れる。
さらに天然ポリフェノールを反映した黄色ブドウ球菌や大腸菌に対する抗菌特性を有することも明らかになっている。
先の過程を経て、今回開発に至ったグリーンプラスチックは、環境や人体に有害なホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)、重金属、強酸等の化合物を使用せずに、室温下で容易にフィルムや樹脂への成形加工ができる。
このことから、パッケージング材料やコーティング材料をはじめ、自動車部材から電子材料部材まで幅広い材料分野への応用展開が可能であり、非可食ポリフェノールの有効利用方法として内外から期待を集めている。
〈ニュース内の用語解説〉
注1)カーボンニュートラル:
植物の燃焼・分解で発生するカーボン量と植物の成長過程で消費されるカーボン量が等しくなるようなカーボン循環量が中立であることを指す持続可能社会の実現において重要な概念。
注2)カシューオイル:
カシューナッツの殻に含まれる天然の植物油(カシューナットシェルリキッド; CNSL)である。カルダノールを主成分とし、カルドールや2-メチルカルドールを含むフェノール性化合物の混合物である。工業的にはフェノール樹脂や塗料、自動車用部材の原料として利用されている。
図1 非食用植物バイオマスからの機能性グリーンプラスチックを開発。環境や人体に有害な化合物を使わずに、容易にフィルムや樹脂への成形加工が可能。パッケージングやコーティング材料をはじめ、自動車部材から電子材料部材まで幅広い材料分野への応用展開が可能な環境調和型のグリーンプラスチックである。
研究に関する問い合わせ
東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門 荻野賢司研究室
特任助教 兼橋 真二(かねはし しんじ)
TEL:042-388-7212
FAX:042-388-7404
E-mail:kanehasi(ここにアットマークを入れる)cc.tuat.ac.jp