株式会社日立製作所(本社:東京都千代田区、執行役社長兼CEO:東原敏昭)は10月26日、同社連結子会社のクラリオン株式会社(本社:埼玉県さいたま市中央区、執行役社長兼COO:川端 敦)の全株式を仏企業のフォルシア・エス・エー(Faurecia S.A/本社:仏ナンテール、CEO:パトリック・コールラー)に売却する。(坂上 賢治)
具体的には、フォルシア・エス・エー/Chief Executive Officer:Patrick Kollerの子会社であるエナップ シス エスエーエス(Hennape Six SAS/President:Nolwenn Delaunay)が、公開買付者として行うクラリオン普通株式の公開買付応募に応じる。同契約が成立した時点で、クラリオンは日立製作所の連結子会社から外れる。
フォルシアは、過去20取引日の平均と公開買付応募前日の取引(2018年10月25日)10.5%差に対して、事前に確保したブリッジファイナンスを背景に31.2%のプレミアムとなる1株当たり2,500円を提示。これにより総購買価格1,410億円(約11億ユーロ)に相当する資金を投じる。
クラリオンの売却で日立製作所は株式売却益約780億円。事業再編等利益約650億円を獲得する
ちなみにこれは、同社が2022年までに約114億6,000万円(およそ9,000万ユーロ)と見積もっているランレート(売上や需要などの予測データ)を含む2018年3月のEBITDA(税引前利益に特別損益・支払利息・減価償却費を加算した値)の5.7倍の取引に相当する数字となっている。
これに対して日立製作所は、クラリオンの株式資本の63.8%に相当する株式を公開する。なおこの取引は、2019年第1四半期の完了が予定されている。
結果、日立製作所は同保有株式の売却に伴い予定通り進めば、2019年3月期(2018年4月1日~2019年3月31日)の特別利益として、株式売却益約780億円を計上。併せて同期連結決算時の事業再編等利益約650億円も計上することになる。
日立製作所は、獲得した同資金を傘下の日立オートモティブシステムズ株式会社(本社:東京都千代田区大手町、本店:茨城県ひたちなか市、社長執行役員&CEO:ブリス・コッホ)との協業を介して、自動運転を含むモビリティ事業の強化策に投下していくものと見られる。このため今後も日立グループは、クラリオンとの協力関係は継続していく構えであると日立製作所側では述べている。
1940年に家庭用ラジオ会社で設立したクラリオンは売上高1830億円・7,500人の企業に成長
そもそもクラリオンは、1940年に電池式家庭用ラジオの製造会社として立ち上げられた。その後、国内経済市場に於いて車載情報機器や車載音響機器メーカーとしての立ち位置を確立。
2006年からは日立製作所の連結子会社として組み込まれ、主に世界の主要自動車メーカーへのOEM製品の供給企業としてセーフティ&インフォメーションシステムや、自動車向けクラウド情報ネットワークサービス等の開発・販売・サービス提供を行ってきた。
これを背景にクラリオンは、2018年3月期の売上高1830億円(およそ14億ユーロ)を達成。7,500人の従業員を雇用し、7つの製造拠点(うち6拠点は低コスト国)と16カ国の事業拠点を有している。
そんなクラリオンの顧客・事業基盤を日立製作所側は、今後フォルシアが活用することで、企業成長のさらなる拡大が見込めるとの判断をした上で、今回の公開買付けを進めた格好だ。
クラリオンはフォルシア傘下となった後、フォルシアの買収後に実施する資本投資を得て、「インフォテインメント」「ヒューマンマシーンインターフェイス」「乗員の着座・空調最適化」等のソフトウェア開発を伸張させ、さらなるコックピットエレクトロニクス分野の競争優位拡大を目指していく。
PSAグループで育まれたフォルシアはインテリア・排気システム企業として世界シェア1位に
対してフォルシア・エス・エーは、1997年にPSA・プジョーシトロエン(現、グループPSA)の部品部門だったECIAと自動車座席サプライヤーのBertrand Faureとの合併により誕生した企業だ。
その後の2001年、内装サプライヤーや排気システムサプライヤーを買収してきた結果、目下フォルシアの主力製品は、シート、ダッシュボード、ドアパネル、排気システムなど複数領域に亘っている。
同社は、この複数事業による事業リスク分散を背景に世界シェア1位を持続させてきた。なお事業上の資本関係は一貫してグループPSAがフォルシアの大株主(株式の46%、議決権ベースの62%)である。上位顧客はフォード・モーター、フォルクスワーゲン、ルノー・日産・三菱アライアンス、グループPSAなど。
そんなフォルシア・エス・エーは、今回クラリオン買収を介してクラリオンが強みとしているコックピットインテリジェンスのプラットフォーム企業として、自身も進化していくことを目指している。
そのためには高度な安全性、直感的なHMI、ドライバーの情報と支援、没入感のあるデジタルサウンドや空間提供技術など乗員に対する快適性能を確保する必要がある。
また個人情報の管理や監視系技術も必要とされるのも必定であり、クラリオンが持つ画像処理、センシング、ドライバーに関わる情報管理技術と国際的な信頼感は、自らの事業拡大を目指すにあたって不可欠の技術であった。併せてクラリオンの欧州顧客の獲得状況などの地理的・産業的なフットプリントも大きな魅力のひとつに映ったようだ。
日本国内で新部門「フォレシアクラリオンエレクトロニクスシステム」創設へと動く
もとより同社はクラリオン買収以前に、Androidソリューション企業のParrot Automotiveを買収。目下これに伴う中国のCoagent Electronicsの支配持分を通じてインフォテイメント事業の足場を構築しつつあった。
そこで今回クラリオンを傘下に収めたフォルシアは、本格的なコックピットインテリジェンスのプラットフォーム企業を目指すべく、日本国内拠点として「フォレシアクラリオンエレクトロニクスシステム」という新たなビジネスグループを創設する予定だ。
この新たに創設を目指すビジネスグループは、約9,200人の従業員、1,650人以上のソフトウェアエンジニアを雇用し、来る2022年までに20億ユーロ以上の収益獲得を目指していく構えだという。
実際、フォルシアCEOのパトリック・コールラー氏はこうした日本国内に於ける自社の取り組みを踏まえて「私はクラリオンがフォルシアグループのなかの先進的な事業部門として、さらなる成功を積み重ねていくことを確信しています。
また日立製作所傘下の日立オートモティブシステムズは、世界を先導する自動運転技術の加速を積極的に推し進めています。
そのような状況に於いて、我々フォレシアグループは今回の買収を契機に日立・フォルシア双方のグループ間のパートナーシップが確固たるものとなり、互いの事業拡大の礎になっていくことを楽しみにしています」と述べている。
以下はクラリオン・公開買付社の概要。公開買付け前後の所有株式数と株式移動に伴う一連の予定となる。
1/名称:クラリオン株式会社
2/所在地:埼玉県さいたま市中央区新都心7番地2
3/代表者の役職・氏名:執行役社長兼CEO 川端 敦
4/事業内容:セーフティアンドインフォメーションシステム、自動車向けクラウド情報ネットワークサービス、業務車両向け運行管理システム、カーナビゲーション、カーオーディオの開発・販売。関連サービスの提供。
5/資本金(2018年3月31日現在):20,346 百万円
6/設立年月日:1940年12月18日
7/大株主および持株比率(2018年3月31日現在):
– 株式会社日立製作所:63.80%
– 日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口):3.38%
– 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口):2.21%
– クレディ・スイス・セキュリティーズ(ユーエスエー)エルエルシー エス ピーシーエル. フォーイーエックスシーエル. ビーイーエヌ:1.79%
– ゴールドマン・サックス・アンド・カンパニー レギュラーアカウント:1.71%
– NOMURA PB NOMINEES LIMITED OMNIBUS-MARGIN(CASHPB):1.23%
– チェース マンハッタン バンク ジーティーエス クライアンツ アカウン ト エスクロウ:0.95%
– 日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口)0.71%
– BARCLAYS CAPITAL SECURITIES LIMITED A/C CAYM AN CLIENTS:0.66%
– 日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口):0.58%
8/日立との関係
資本関係:日立はクラリオンの発行済株式総数の63.80%を所有。
人的関係:日立の連結子会社の取締役1名がクラリオンの取締役に就任。
取引関係:日立のプーリング制度に基づき、クラリオンから日立に対し資金の預け入れを行う。
関連当事者への該当状況:クラリオンは日立の連結子会社であり、関連当事者に該当する。
公開買付者の概要:
1/名称:エナップ シス エスエーエス(Hennape Six SAS)
2/所在地:2, rue Hennape, 92000 Nanterre, France
3/代表者の役職・氏名:プレジデント:ノルウェン・ドゥロネイ(Nolwenn Delaunay)
4/事業内容:株式等の取得と管理
5/資本金(2018年10月26日現在):10,000 ユーロ81,293千円)
6/設立年月日:2016年12月22日
7/大株主および持株比率(2018年10月26日現在):
フォルシア・エス・エー:100%
8/日立との関係
資本関係:該当事項なし。
人的関係:該当事項なし。
取引関係:該当事項なし。
関連当事者への該当状況:該当事項なし。
日立製作所への公開買付け応募予定株式数・譲渡価額・公開買付け前後の所有株式数
1/公開買付け前の所有株式数:35,963,034株(議決権の数:359,630 個/議決権所有割合:63.80%)
2/公開買付けへの応募予定株式数:35,963,034株(議決権の数:359,630 個/議決権所有割合:63.80%)
3/譲渡価額:899億円(1株当たり2,500円)
4/公開買付け後の所有株式数:0株(議決権の数:0個/議決権所有割合:0.00%)
*クラリオンは2018年10月1日を効力発生日として自社株式5株につき1株の割合で株式併合を実施。公開買付け後の所有株式数は公開買付けが成立した場合の所有株式数を記載。為替レートは2018年10月22日現在の株式会社三井住友銀行の仲値の1ユーロ129円33銭で換算。
日程
公開買付けは国内外の競争法に基づき必要な手続と対応を終えられるとの確認が得られ、公開買付け開始の前提条件が充足された時点で速やかに開始される。具体的には、2019年1月に公開買付けが開始される予定。公開買付け期間は20営業日に設定される見込み。