トヨタ自動車の豊田章男社長、本当の「負け」を味あわさせてもらった「負け嫌い」のトヨタを、来年も待っていて下さいと語る
WEC世界耐久選手権、第3戦ル・マン24時間(開催地:フランス、サルト・サーキット、開催期間:6月16~19日)の決勝レースが、現地時間6月18日(土曜日)から19日に掛けて開幕した。
より具体的には、6月18日(土)午後3時に決勝レースがスタート。開始直前の豪雨により、セーフティカーの先導で約50分を消化した後に、決勝レースの火蓋が切られた。
世界耐久選手権、最高峰に位置付けられるLMP1クラスは、昨シーズンの覇者、#1と2のポルシェ919ハイブリッド、これに追い縋る#7と#8のアウディR18、そしてトヨタの#6と#5のTS 050 HYBRIDとの激しい首位争いが繰り広げられた。
前日・前々日の予選セッションでは、ポルシェ919ハイブリッドが最速タイムを刻んでライバル陣営を引き離し、フロントローを独占したが、レースが進むにつれ、予選順位3・4位だったうちの#5トヨタTS 050 HYBRID(中嶋一貴、アンソニー・デビッドソン、セバスチャン・ブエミ)がトップに浮上。
対して#6トヨタTS 050 HYBRID(小林可夢偉、ステファン・サラザン、マイク・コンウェイ)は、車両の不具合修復等で、貴重なピットストップによるタイムを浪費しながらも3位のポジションを守って走り続けた。
結果、#5のトヨタTS 050 HYBRIDと、#2のポルシ919ハイブリッドを駆るロマン・デュマ、ニール・ジャニ、マルク・リーブ組)とのつばぜり合いが終盤まで続いた。
この間、ポルシェとトヨタでは、車両設計の違いにより燃料補給のインターバルが異なっているため、ピットストップごとにトップが入れ替わるというエキサイティングなレース展開となった。
一方、もう1台の#1 ポルシェ919ハイブリッドは、日曜日になったばかりの深夜走行に於いて、マシントラブルによりピットインを余儀なくされ、2時間半にわたる長時間の修理を終えて、ようやくブレンドン・ハートレーのドライブによってレースに復帰。
ただウォーターポンプ(冷却装置)の交換と、それに伴うダメージを修理している間に順位は53位に脱落。39ラップの遅れを取り戻すのに手間取り、早朝5時の段階ではマーク・ウェバーのドライブにより46位に順位回復するのがやっとの状況となった。
この間#2は真夜中にデュマにドライバーをチェンジ。197周目を消化した3時38分にリーブと交代。リーブは210周目に燃料補給を行い好調を維持していたが、215周で予想外のタイヤトラブルのためピットストップ。
こうしたなか、レースは最後の最後までトヨタ #5 TS 050 HYBRIDが終始リードした。
しかし残り時間を僅か6分とした終幕目前、トップを快走していた#5 トヨタTS 050 HYBRIDにマシントラブルが発生。この時点でドライバーを務めていた中嶋一貴の努力むなしく、残り時間3分を残してホームストレート上でマシンを止める。
結果、24時間諦めずに#5 トヨタTS 050 HYBRIDを追い続けたポルシェの#2号車がトップに浮上。そのままポルシェ#2号車(ロマン・デュマ、ニール・ジャニ、マルク・リーブ)が優勝を獲得。昨年のル・マンに続き2連勝、通算18勝目を成し遂げた。
2位は、同僚の首位争いを見守り続けた#6のトヨタTS 050 HYBRID(小林可夢偉、ステファン・サラザン、マイク・コンウェイ)、3位にはアウディ #8号車(ルーカス・ディ・グラッシ、 ロイック・デュバル 、オリバー・ジャービス)が続いた。
なお最後の最後までトップを快走した#5トヨタTS 050 HYBRIDは、規定の6分以内に最終周を走り切ってゴールラインを潜ることができず、失格となった。
結果、トヨタ陣営は1991年のマツダ以来、25年振りの快挙となった筈のル・マンに於ける勝利を取り逃した。
トヨタ自動車の豊田章男社長はレース後、「ルマン24時間耐久レースに、ご声援を送っていただいた皆様に心より感謝申しあげます。本当にありがとうございました。
ここまでTOYOTA GAZOO Racingは、『敗者のままでいいのか』と、あえて自分たちにプレッシャーをかけ、今までの悔しさを跳ねのける戦いを続けてまいりました。
メカニック、エンジニア、ドライバー、そしてサプライヤーの皆さま。戦いに携わる全ての者が力を尽くし、改善を重ね、『もっといいクルマ』となって戻ってこられたのが、本年のルマンであったと思います。
ついに悲願達成かと、誰もが、その一瞬を見守る中、目の前に広がったのは、信じがたい光景でした。トヨタのクルマも、速く、そして強くなりました。しかし、ポルシェは、もっと速く、そして強かった。
決勝の24時間、そして予選なども含め合計で30時間以上となるルマンの道を、誰よりも速く、強く走り続けるということは、本当に厳しいことでした。
チームの皆の心境を思うと、そして、応援いただいた全ての方々へ、今、なんと申しあげたらよいか、正直、言葉が見つかりません。
我々、TOYOTA GAZOO Racingは“負け嫌い”です。負けることを知らずに戦うのでなく、本当の“負け”を味あわさせてもらった我々は、来年もまた、世界耐久選手権という戦いに…、そして、この“ル・マン24時間”という戦いに戻ってまいります。
もっといいクルマづくりのために…、そのためにル・マンの道に必ずや帰ってまいります。
ポルシェ、アウディをはじめ、ル・マンの道で戦った全てのクルマとドライバーの皆さまに感謝すると共に、また、一年後、生まれ変わった我々を、再び全力で受け止めていただければと思います。
皆さま、“負け嫌い”のトヨタを待っていてください。よろしくお願いいたします」とのコメントを発表している。
- 佐藤俊男 TOYOTA GAZOO Racingチーム代表
- 昨年から今回のル・マン24時間レースに向けて必死に努力を重ねて来たチームをとても誇りに思います。また、トヨタ東富士研究所、ケルンのTMG関係者の方々には深く感謝を申し上げます。
- 昨年の雪辱を果たすために皆が短時間で競争力のある新型シャシー、パワートレーンを開発して来たことには胸が熱くなりました。
- 我々はチーム一丸となって今年もル・マン24時間レースに臨みました。今日の結果については言葉に表すことが出来ません。一言で言えば“無念”かもしれませんが、我々は勝利の固い決意の元に、更に強くなってここに戻って来ることを誓います。
- 中嶋一貴(TS050 HYBRID #5号車)
- まず、チームの皆に有り難うと言いたいと思います。TS050 HYBRIDは運転しやすく、すべては上手く行っていました。レースの終盤、僅か20秒後ろをポルシェ#2号車が追い上げて来ましたが、上手くペースを作ることが出来、心配はしていませんでした。
- しかし、2周を残したところで万事休す。トロフィーを手にすることが出来なくなりました。最終周に、私がTS050 HYBRIDで走リ出すとマーシャルやファンはとても暖かく迎えてくれて、感情が高ぶるのを覚えました。来年こそトロフィーを獲得しに帰って来ます。
- アンソニー・デビッドソン(TS050 HYBRID #5号車)
- 困難なレースでしたが、こんな終わり方になるとは思いもしませんでした。映画の脚本だとしても、こうは書けないと思います。結果を受け入れるのは、とても辛いものでしたが、強くなって帰って来るしかないと思います。
- セバスチャン・ブエミ(TS050 HYBRID #5号車)
- 今日の状況を的確に表す言葉は見つけられません。我々はレースをコントロール出来ていましたし、勝利は目前でした。ル・マンは最も重要なレースだからこそ、こういう結果になるとは、受け入れられるものではありませんでした。
- 完璧な準備をして来てこの結果ですから、チームはとても落ち込んでいますが、我々は来年の勝利に向けてスタートを切らなければなりません。
- 小林可夢偉(TS050 HYBRID #6号車)
- 残念ながら2位という結果は、望んでいたものではありません。我々は勝つためにここに来ているので、満足はしていません。TS050 HYBRIDの高いパフォーマンスを証明し、決勝レース中のファステストラップもマーク出来ました。
- #5号車についてはドライバー、スタッフ、エンジニアの悔しさはとても良く分かります。彼らは序盤のトラブルを克服して上位争いに復帰し、勝利に値するレースを戦いました。
- ステファン・サラザン(TS050 HYBRID #6号車)
- 首位を走行しながら、#5号車がゴール目前にして勝利を逸するなど、とても考えられませんでした。どんなに酷い悪夢でもここまでではないでしょう。チームは素晴らしい仕事をしてくれました。
- TS050 HYBRIDは充分に速く、20時間にわたってレースをリード出来ました。我々には良いペースで走れる速いクルマと強いチームがあるということを示せました。しかし、レースは信じられない結末で終わってしまいました。