1000馬力を超える圧倒的な動力性能を武器に、昨2014年に押しも押されぬFIA世界耐久選手権(WEC)のワールドチャンピオンとして頂点を極めたTOYOTA GAZOO Racing。
その2014年度の勝ちっぷりから、今年2015年は世界から横綱相撲を期待され、それに応えるかのように自信に満ち溢れた新シーズンを迎えるかに見えたトヨタTS040 HYBRIDだったが、実際に2015年の蓋を開けてみると、ライバル勢の躍進が著しい状況となり、結果、永くて辛い、過酷な1年を過ごす事となった。
その最終戦バーレーン6時間レースに於いて、トヨタ陣営は今シーズンを通して、敗れ続けて来たライバルのポルシェ、アウディ陣営が配するチームスクラムを果敢に潜り抜け、望外の3位4位を獲得して幕を閉じている。
同レースは最後まで激しい戦いが続けられ、ライバル勢が車両トラブルに苦しむ中、結果的に高い信頼性を武器にしたトヨタTS040 HYBRIDの #2号車が3位。アンソニー・デビッドソン、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴の#1号車が4位で続いたのだ。
#2号車のトヨタを駆って、表彰台の一角に食い込んだドライバーのステファン・サラザン、マイク・コンウェイ、そして自身最後のレースを有終の美で終えたアレックス・ブルツは、表情台に上がり、満足げな表情でトロフィーを受け取った。
これは、ブルツにとってTOYOTA GAZOO Racingで走った28レース中12回目の表彰台となった(12回の表彰台には5回の優勝も含まれる)。
そんなアレックス・ブルツは、1991年に自身のレースキャリアをスタートさせた。以来、着実かつ輝かしい成績を収めて来ている。
彼はそのキャリアの中で、2度のル・マン24時間レース優勝、そして12年にも及ぶF1レースドライバー、テストドライバーとしての実績を積み上げて、同レースに於いての自身のレースキャリアのピリオドを自力で飾り付けるというパフォーマンスを発揮した。
レース自体は、バーレーン・インターナショナル・サーキットで午後3時からスタートが切られ、2台のトヨタのスターティングドライバーは、#1号車のトヨタはブエミが、#2号車トヨタをブルツがドライブ。
第1コーナーの突入では、ランキングトップで最終戦に臨む#17号車ポルシェ919HYBRIDが先頭。
2番手が#18号車のポルシェ、アウディR18 e-TRON・クアトロ勢が3番手と4番手、トヨタが5番手と6番手の順でオープニングラップを消化した。
その後#8号車アウディが、#18号車のポルシェをオーバーテイクするも、18周目に#17号車ポルシェがスローダウン。29周目時点では、アウディのワンツー体制となる。
これにより、2台のトヨタはひとつずつ順位を上げて4番手と5番手につけていた。
91周目、2番手を走る8号車アウディが、ブレーキトラブルでピットインし、一旦8周遅れにまで脱落する。
残り約2時間半時点で、LMP2マシンのクラッシュで、フルコースコーションとなった後、#7号車アウディが、右リヤホイールのナット締め込みトラブルでトップ集団から脱落した。
一方、その間のトヨタ陣営は、スタートから2時間半が経過した頃、中嶋一貴の駆る#1号車がLMP2クラスの車両と接触、フロントカウルの交換を強いられる。結果、#2号車が#1号車の前に出る。
さらに、レースの折り返し地点を過ぎた頃、2台のTS040 HYBRIDが淡々と安定的にラップタイムを刻む中、それまで2位の地位を守っていたアウディの1台がピットストップで15分間を費やす。
これにより2台のTS040 HYBRIDは3位、4位に順位を上げ、表彰台獲得の可能性が浮上した。
最終的にトヨタ陣営は、2014年度のレースレギュレーションに沿ったコース1周あたり6.5メガジュール(※)のエネルギー放出量と、2014シーズンの仕様のままのマシーンで、2015年シーズンを走り切り、TS040 HYBRIDは、ゴールまで安定したレース展開を消化。
なおそうした中でも、最後まで#1号車が#2号車をプッシュし続けるという展開を維持し続けた。
(※)ジュールは、エネルギー、仕事、熱量、電力量の単位。数値名称はジェームズ・プレスコット・ジュールに因んだもの。
なお1ジュールは、標準重力加速度の下でおよそ102.0グラムの物体を1メートル持ち上げる時の仕事に相当。1メガジュールは238.889キロカロリー、または0.2778キロワット時。
誰もが、ひとつでも上の順位を狙うWECで、例えチームメイトを云えども最後まで手を抜くことはない、そんな果敢な走りが功を奏してか、2台のトヨタTS040 HYBRIDは、シリーズ最終戦に於いて3位並びに4位を獲得した。
なおレース自体のトップ争いは、今シーズンのWECレギュレーションに目一杯のコース1周あたり8メガジュールのエネルギー放出量を武器に、今年の中盤戦以降、ほぼ常勝を欲しいままにしてきたポルシェ勢の中で、これまでは2位以下を定位置としてきた#18号車が6時間・199周を走り切ってパーレーン6時間の栄冠を手中にし今季初優勝。
2位には#7号車アウディが入り、前述の通り同レースをもってレーシングドライバーとしての引退を表明したアレクサンダー・ブルツ擁する#2号車のトヨタが3位。
#1号車のトヨタは4位。#17号車のポルシェはノッキング症状を見せ、喘ぎながらもトップから9周遅れの5位でフィニッシュ。
2015年のドライバーズタイトルは、今年ポルシェ陣営で#17号車をドライブしてきたブレンドン・ハートレー/マーク・ウェバー/ティモ・ベルンハルトが新チャンピオンに輝いた。
トヨタは、永く過酷な2015年シーズンを終え、マニュファクチャラーズランキングで3位。
デビッドソンとブエミがドライバーズタイトル5位、ブルツとサラザン、コンウェイが6位にランクにされている。
5人の得点はまったく同じだが、#1号車が上位入賞の回数が多いことで順位に差がついた。なお中嶋は、怪我のためにスパのレースを欠席したため、選手権ランキングは7位で終えている。
このバーレーン6時間レースでTS040 HYBRIDは、2シーズンに及ぶ勝利を目指す役目を終え、延べ16レースを戦って優勝5回、表彰台獲得14回の記録を残した。
その多くは世界チャンピオンに輝いた2014年シーズンに打ち立てたものであるが、トヨタ陣営では既に2016年シーズンに向けての新マシーンの本格開発に入っている。
具体的には、自前の蓄電池開発に拘り続けたトヨタゆえに同関連ユニット関わる特許を数多く保有しており、同社が温め続けて来た蓄電系の新システムが、満を期して2016年モデルに搭載される見込み。
2015年シーズンを通して、最大の弱点と目されていた電動パワートレインに関しても、新たな技術が搭載され、来たる2016年3月に行われるポールリカールのプロローグ・テストで初披露されるだろう。
加えて日本のファンは、その胎動を1月から開始される国内テストで、いち早く眼にすることが出来るかも知れない。
佐藤俊男 チーム代表
最後にまた表彰台獲得が出来、とても嬉しく思います。厳しいシーズンをこうして終わることが出来たことは、来シーズンへの準備に一層の励みとなります。
そして今回はアレックスが引退となる特別なレースでしたが、とても良い形で彼のレース人生を締め括ることが出来ました。彼のチームへの多大な貢献に、改めて感謝したいと思います。
また、今日のこの成績のために完璧に仕事をこなしてくれたチーム全員に感謝しています。そして最後に今年一年応援して頂いたファンの皆様に心から感謝申し上げます。
TS040 HYBRID #1号車(アンソニー・デビッドソン、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴)
決勝レース : 4位 196周、ピットストップ6回、グリッド : 5番手
最高ラップタイム : 1分44秒314
アンソニー・デビッドソン
厳しいシーズンを通じ、非常に頑張ったチーム全員へのご褒美ともいうべき表彰台で終わることが出来て本当に良かったと思います。
今年、私のどんな要求にも応えてくれたチームクルーの全員に感謝しています。特にアレックスが最後のレースで表彰台に上がれたのはとても嬉しく思います。
彼のこれからの新たな仕事に、敬意を表し期待をします。我々はベストを尽くしましたが、今日は我々#1号車の日ではなかったことが心残りです。
セバスチャン・ブエミ
#2号車は表彰台を獲得出来て、本当に良かったと思います。一方我々は、満足の行かないレースでした。
我々も表彰台に上がれると思っていましたからなおさらです。速さはありましたが、上手く結果に繋がりませんでした。
アレックスが最後のレースを表彰台で終えられたのはとても嬉しく思います。このことはチームのモチベーションにとって良いことですし、来年は必ずもっと強くなって戻って来ます。
中嶋一貴
個人的には非常に難しいレースでした。私は最初のスティントでLMP2車両と接触し、結局それで表彰台を逃すことになってしまいました。
しかし、2度目のスティントでは再び戦えるようになったのが嬉しかったです。
今年1年のチームクルーの努力には本当に感謝しています。チームとして、特にアレックスが再び表彰台に戻れたことを本当に喜んでいます。タフな1年でしたが、来年は必ず反撃に転じます。
TS040 HYBRID #2号車(アレックス・ブルツ、ステファン・サラザン、マイク・コンウェイ)
決勝レース : 3位 164周、ピットストップ6回、グリッド : 6番手
最高ラップタイム : 1分44秒793
アレックス・ブルツ
ライバルがトラブルに見舞われたという幸運はありますが、我々はミス無くレースを戦い、私にとっての最後のレースで3位フィニッシュが出来ました。
最後までチームメイトとのぎりぎりのバトルを、ドキドキしながらピットで見守っていました。共に戦い続けて来たチームとの最後のレースを表彰台で終えることが出来、とても幸せです。
ポルシェチームのドライバーとマニュファクチャラー両タイトル獲得を祝福します。彼らは今年、シリーズのレベルをさらに向上させましたが、トヨタの反撃を願っています。
この数年、TOYOTA GAZOO Racingは私にとって家族のようなものでした。必ず再び選手権争いで上位に復帰してくれるはずです。来年への戦いはもう始まっています。
ステファン・サラザン
今日はちょっとした幸運により表彰台に上ることが出来ましたが、レースを楽しみ、チームにとっても素晴らしい結果となりました。
我々は決して諦めることなく、メカニック、エンジニア、そしてドライバーの全員がずっと全力を尽くして来ました。冬のオフシーズンで、我々は強さを取り戻すべく多くの作業をすることになると思いますが、きっと強くなって戻って来ます。
TOYOTA GAZOO Racingでずっと一緒のチームで戦って来たアレックスにはとても感謝しています。彼と同じ車両で戦うのは素晴らしい経験で、多くのことを学び、楽しい日々でした。素晴らしいチームメイトと共に最終戦を表彰台で終えられて嬉しいです。
マイク・コンウェイ
表彰台に上り、今大会で引退するアレックスにトロフィーを渡せたことは最高です。
厳しいチームメイトとのバトルの一日でした。私はそのバトルを楽しみ、ポジションを守ったままフィニッシュ出来ました。しかし、接近戦でずっとプッシュし続けなくてはなりませんでした。
アレックスとステファンも素晴らしい仕事をしてくれました。最高のシーズン締め括りとなり、来年へ向けて、良い励みとなりました。来年はさらに多くの表彰台を獲得したいと思います。来年が楽しみです。
バーレーンLMP1結果
Po./No./Car
Driver/Time
1位/#18/ポルシェ919ハイブリッド
R.デュマ・N.ジャニ・M.リーブ/199Laps
2位/#7/アウディR18 e-トロン・クアトロ
M.ファスラー・A.ロッテラー・B.トレルイエ/+1’25”310
3位/#2/トヨタTS040ハイブリッド
A.ブルツ・S.サラザン・M.コンウェイ/+3Laps
4位/#1/トヨタTS040ハイブリッド
A.デイビッドソン・S.ブエミ・中嶋一貴/+3Laps
5位/#17/ポルシェ919ハイブリッド
T.ベルンハルト・M.ウェーバー・B.ハートレー/+9Laps
6位/#8/アウディR18 e-トロン・クアトロ
L.ディグラッシ・L.デュバル・O.ジャービス/+11Laps