2015年本田賞にジョンズ・ホプキンス大のラッセル・テイラー博士


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外科手術用医療用ロボット、システムの開発、技術進化に対する貢献

公益財団法人本田財団(設立者:本田宗一郎・弁二郎兄弟、理事長:石田寛人)は、2015年の本田賞※1を医療用ロボットの開発および、この領域の技術進化や人材の輩出に大きく貢献したラッセル・テイラー(Russell H. Taylor)博士に授与することを決定した。

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テイラー博士は、現在アメリカを代表する医学校の一つであるジョンズ・ホプキンス大学の教授および同大学のコンピュータ統合外科手術用システム技術工学研究センター(CISST ERC※2)、計算センシング・ロボティクス研究所(LCSR※3)の所長を務めており、今もなお医療用ロボット領域の技術進化および人材の育成に携わり、この分野のトップランナーとして活躍している。

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本年で36回目を迎える本田賞の授与式は、2015年11月17日に東京都の帝国ホテルで開催され、メダル、賞状とともに副賞として1,000万円がテイラー博士に贈呈される。

テイラー博士は、まだ医療用ロボットという分野が存在していなかった40年前から医療用ロボットの開発に携わり、この30年間は世界的なリーダーとしてこの分野を牽引してきた。

また、テイラー博士は1970年代にロボット研究のフィールドを作成した先駆者のひとりでもあり、この分野では最も高名な科学者の一人で、「医療用ロボット工学の父」として広く知られている。

テイラー博士がIBMのワトソン研究所の勤務時に中心となって開発した人工股関節置換手術支援ロボット「ROBODOC」のプロトタイプは、世界で初めて重要な外科手術プロセスを支援した医療用ロボットである。

ROBODOC用に開発されたコンセプトの多くは、その後さまざまな外科手術に使われるロボットシステムに採用された。同じころ、テイラー博士は頭蓋顎顔面手術のための外科手術支援システムの開発も主導。

同システムは、脳神経外科分野以外で開発された最初の外科手術用ナビゲーションシステムの一つとなった。

IBMに在職中、テイラー博士は腹腔鏡手術において、術野を常に術者が見る画面の中央に位置させる「腹腔鏡下手術支援ロボットシステム(LARS※4)」も開発した。

従来の方法では、外科医は術野を直接見て操作する事ができず、内視鏡を操作する助手に頼らなければならなかった問題に対して、このシステムは手術器具の手元にジョイスティックを付け、それを操作して術野画面中の注目したい場所を指示すると、ロボット技術でコンピュータがカメラ位置を制御し、常に外科医が術野を見ることができるように解決したもの。

開発の際に、仮想孔中心機構(RCM※5)を取り入れることで機械的な安全性を実現し、この安全性のコンセプトは現在世界中に普及しているコンピュータ補助手術システム「da Vinci」に取り入れられている。

また、テイラー博士は「コンピュータ統合手術(CIS※6)」、「医用CAD/CAM」という概念をいち早く広め、医療用ロボット工学やCISに関する国際学会(医療ロボットとコンピュータ支援手術(MRCAS※7)、コンピュータ医用画像処理ならびにコンピュータ支援治療(MICCAI※8)、コンピュータ支援治療における情報処理(IPCAI※9)などを主催し、この分野を牽引している。

1980年に創設された本田賞は、人間環境と自然環境を調和させるエコテクノロジー※10を実現させ結果として「人間性あふれる文明の創造」に寄与した個人やグループの功績に対し、毎年1件の表彰を行っている。

コンピュータ補助(ロボット)手術システムは、手術法に革命をもたらした。同システムは低侵襲手術を可能にし、患者の苦痛を軽減することのみならず、入院期間の短縮、医療費の軽減を実現する。

このように、医療ロボットの適用拡大・進化は、国家の医療経済を有利にし健康で活動的な人を増大させ、結果として本田財団が目指す「人間性あふれる文明の創造」に寄与するものだと認めた。

本田財団では、テイラー博士が開発した医療システムおよび医療ロボット分野の拡大と発展への貢献は本田賞にふさわしい成果であるとしている。

※1本田賞(Honda Prize):1980年に創設された科学技術分野における日本初の国際賞
※2CISST ERC:Engineering Research Center for Computer-Integrated Surgical Systems and Technology
※3LCSR:Laboratory for Computational Sensing and Robotics
※4LARS:Laparoscopic Assistant Robotic System
※5RCM:Remote Center of Motion
※6CIS:Computer Integrated Surgery
※7MRCAS :Medical Robotics and Computer Assisted Surgery
※8MICCAI :Medical Image Computing and Computer Assisted Intervention
※9IPCAI :Information Processing in Computer-Assisted Interventions
※10エコテクノロジー(Ecotechnology):文明全体をも含む自然界をイメージしたEcology(生態学)とTechnology(科学技術)を組み合わせた造語。人と技術の共存を意味し、人類社会に求められる新たな技術概念として1979年に本田財団が提唱。

本田財団Webサイト
http://www.hondafoundation.jp

ラッセル・テイラー(Russell H. Taylor)博士
ジョンズ・ホプキンス大学 John C. Malone冠教授

生まれ
1948年6月 米国バージニア州生まれ(アメリカ国籍)

学歴
1970年 :
ジョンズ・ホプキンス大学卒業
1976年 :
スタンフォード大学 コンピュータサイエンス
博士課程修了(工学博士)

職歴
1968年〜70年 : ジョンズ・ホプキンス大学 研究助手
1970年〜76年 : スタンフォード大学 研究助手
1976年〜95年 : IBM トーマス・J・ワトソン研究所 研究スタッフ、研究マネージャー
1995年〜現在 : ジョンズ・ホプキンス大学 コンピュータ科学、放射線学科、機械工学、 および外科学兼任教授
(2011年に最初のJohn C. Malone冠教授就任)
1998年〜現在 : 同大学 コンピュータ統合外科手術用システム技術工学研究センター (CISST ERC)所長
2013年〜現在 : 同大学 計算センシング・ロボティクス研究所(LCSR)所長

略歴
ラッセル・テイラー博士はコンピュータ科学、ロボット工学および、コンピュータ統合介入医療の専門分野において38年を超える実績を積んでいる。

彼は1970年にジョンズ・ホプキンス大学にて理工学の学士号を取得し、1976年にはスタンフォード大学にてコンピュータ科学の博士号を取得。1976年にIBM Researchに入社し1995年にジョンズ・ホプキンス大学へ拠点を移すまでに、テイラー博士はAMLロボット言語を開発し、自動化技術部と現コンピュータ支援外科手術グループのマネージメントを行った。

ジョンズ・ホプキンス大学では機械工学、放射線学、および外科学を兼任しながらコンピュータ科学のJohn C. Malone冠教授、コンピュータ統合外科手術用システム技術工学研究センター(CISST ERC)と計算センシング・ロボット工学研究所(LCSR)の所長を務めている。

テイラー博士の研究対象は、ロボット工学、マン・マシン協調システム、医用画像化およびモデリング、そしてコンピュータ統合介入システム。テイラー博士は、400を超える査読付出版物/書籍の著者であり、米国電気電子学会(IEEE)、米国医用生体工学会(AIMBE)、コンピュータ医用画像処理ならびにコンピュータ支援治療(MICCAI)学会、そして東京大学工学系研究科のフェローでもある。

テイラー博士は、IEEEロボット工学パイオニア賞、MICCAI学会永続的影響賞、IEEE 医療・生理部会(EMBS)技術分野賞および、コンピュータ支援整形外科手術における功績を称えたモーリスミューラー賞をはじめとする数多くの賞の受賞者でもある。

主な出版物
Taylor, R.H., S. Lavallee, G. Burdea, and R. Mosges, Editors, Computer-Integrated Surgery, 1996, MIT Press: Cambridge, Mass.
Taylor, R. H. and L. Joskowicz, “Computer-Integrated Surgery and Medical Robotics,” in Standard Handbook of Biomedical Engineering and Design, M. Kutz, Editor, 2002, McGraw Hill.
R. H. Taylor and P. Kazanzides, “Medica Robotics and Computer-Integrated Interventional Medicine,” in Advances in Computers, vol. 73, M. Zelkowitz, Editor: Elsevier, 2008, pp. 217-258.