ルノー・日産・三菱自の3社、分業戦略で短期的な未来像を示す


日仏連合のルノー・日産・三菱自動車工業は、カルロス・ゴーン被告の逮捕を契機に持ち上がった経営統合などの不協和音から1年半もの停滞期を消耗した末の2020年5月27日16時、パリ・横浜・東京の3拠点をオンラインで結ぶアライアンス記者会見を実施した。

会見の印象は、世界の自動車産業が〝革新的なモビリティ社会の新たな地平を望む〟なか、コロナ禍の影響を色濃く受けた3社の足取りはいずれも重く、未だ長期的な将来像を示せずにいるようだ。(坂上 賢治)

同記者会見の主だった出席者は、ABO(アライアンス・オペレーティング・ボード)議長を務める仏・ルノー会長のジャンドミニク・スナール氏を筆頭に、同社CEO代行のクロチルド・デルボス氏。日産自動車CEOの内田誠氏と同社COOのアシュワニ・グプタ氏。三菱自動車工業取締役会長の益子修氏などの首脳陣。これに各社の技術・生産に携わる要職がサポートする態勢で進行された。

そのプレゼンテーションの骨子は、アライアンス共通の志〝連合間の補完〟をテーマに、協業効果を高める短・中期的な〝経営戦略〟の説明に終始した。

それはアライアンス体制内で、特に強みを持つ事業領域で3社のうちの1社がリーディング役となり、残り2社の事業を補い・引き上げるという〝リーダー・フォロワー戦略〟を敷くというもの。つまりこれまでの事業上のメリットを、より洗練させていく既存路線の延長線上にある。

より具体的には、特定車種毎や地域毎、技術毎に切り分けたプロジェクトを、それぞれに強みを持つ特定の1社がリーダーとして主導。その代わりに他社は、別領域のリーダー役やフォロワー役となって3社連合を一緒になって牽引し、結果3社の足腰を強靱にしていくという目論見だ。

例えばプラットフォーム開発では、CセグメントやBセグメント別に中心的役割を担うリーダー会社と、それをサポートするフォロワー会社を定め、リーダー会社のクルマは〝マザービークル〟として位置付け、同じプラットフォームを用いるフォロワー会社のクルマは〝シスタービークル〟として位置付けて開発・製造していく。

これによりプラットフォーム(車台)の共有化を先鋭化させ、クルマの動力源となる電動モーターやエンジン造りの合理化も推し進め、さらに車台のみならずアッパー部分も共用化。アライアンス3社毎の単独車両の開発に掛かる投資コストを最大4割削減することを狙う。

なお世界各地域に於ける車両生産の他、販売面の事業推進も同じ手段を用い、引いては販売領域でも3社の強みを補完・磨いていくのだという。

こうした枠組みの中で、ルノーはBセグメントの小型車&商用&SUVを。日産はCセグメントSUVのリーダーとなる。

但し現段階では、車両開発に係る取り組みの熱意と速度は、個々のリーダー企業の思惑に委ねられているようで、日産が担うCセグメントSUVはかなり先の2025年のモデルとして投入。以降、日産が世界規模で3社連合を牽引していくとした。

同手法によって、現行3社連合の4プラットフォーム・6モデルを、最終的には1プラットフォーム・7モデルに変革させ、39%の共通プラットフォーム車(昨年段階)を来る2024年迄に8割を占める体制にしていく考えを示した。

ちなみにプラットフォーム開発では、アンダーボディー部分の設計だけでなく、アッパーボディー部分も3社で共用化を図り、「モデル1台当たりの開発投資額(設備投資含む)を最大で40%削減する」目標も明示した。

また技術領域では、〝運転支援技術〟の部分を日産が担う。対して電気・電子アーキテクチャーのコアシステム開発はルノー。コネクティッド技術に於いては、アンドロイドの技術基盤をルノーが、中国向けの技術基盤は日産が担う。

パワートレイン開発に関しては、ルノーが小排気量ガソリンエンジンとディーゼルエンジンを。日産が大排気量ガソリンエンジンと軽自動車のパワーユニットを。

三菱自動車工業は、C・Dセグメント向けPHEVを受け持つ。軽自動車プラットフォームについては日産が車両開発を、三菱自動車工業が車両生産を引き続き担っていく。

さらに部品の仕入れや固定費、プロモーションなどのコスト領域でもプロセスの共有化を図っていく。これはアフターセールスなどの間接部門や物流についても同じで、クルマ造りの上流から下流に至るまで、事業の効率化・共用化を積極的に推し進めていくとした。

こうした販売を伴うマーケット事業枠では、日本・中国・北米市場を日産が担う。欧州・ロシア・中南米・北アフリカ市場はルノーが掌握。

東南アジア(中核車両は三菱自動車工業・日産の協業によるエクスパンダーとリヴィナ)・オセアニア(商用車ではルノーが三菱自動車工業向けに生産したエクスプレスバンも流通させる)は三菱自動車工業がリーダーとなって3社の競争力を高めていく。

翻ってみると、ここのところ3社の周辺では、ルノーとフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)による統合交渉の頓挫。日産の報酬不正による社長退陣や新社長の就任。その後の副最高執行責任者(副COO)の退社によるトロイカ体制の崩壊、コロナ禍などを経て3社連合は業績悪化に陥った。

そうした中、個々の車両開発技術を持ち寄り、生産拠点を集約するなどしてシナジーを求めつつ、連合3社は、自動車産業が始まって以来と言える過酷な生存競争からの生き残りを探っていく。

ルノーのジャンドミニク・スナール会長は「3社は数週間に亘る協議を進めた末、世界販売台数1400万台を目指して行く姿勢から、20億ユーロ(約2350億円)の投資額削減と効率性を重視する経営に転換していく」と語り、「3社が共に収益性と競争力を高める将来像を求めていく。数年後には、我々3社のアライアンスは、世界で最もパワフルな企業グループになるだろう」と述べた。

加えてスナール氏は、ここのところの経営統合により3社のアライアンスに不協和音が見え始めていた状況について「今は3社の事業効率を高めて行くことが大切だ。

モビリティの世界は日々激変しており、ここで経営統合を目指す必要はない。この新しいアライアンスの取り組みについては、仏政府やマクロン大統領も賛同して貰っている。

従って3社間で経営統合を進めていなし、全く話もしていない。ここは皆さんも信じて欲しい」と結んだ。

スナール氏の説明を受けた日産の内田社長も「日産は今後、数年間に亘って〝選択と集中〟に取り組んでいく。そのために自社自らで集中すべきモデルを選び、選択と集中という事業計画を徹底的に極めていく」と語った。

三菱自動車工業の益子会長は「コロナウイルスの影響下で時代が求めるアライアンスの形も変わっていく。過去数年間は、拡大戦略を追及し過ぎ、固定費上昇の厳しい状況に直面した。

これを元の経営ビジョンに戻していくため、拡大戦略は追求せず、3社によるアライアンスのメリットを活用していきたい」と語っていた。