日本交通とディー・エヌ・エー、タクシー配車アプリ事業を統合へ


新体制は10万台規模に、さらなる事業展開を加速

日本交通ホールディングス傘下の日交計算センター(1977年設立)を「JapanTaxi(ジャパンタクシー)」に社名変更して(2015年)以来、新たに立ち上げた〝タクシー配車アプリ事業を率いてきた川鍋 一朗氏(日本交通会長/JapanTaxi社長)は来る4月1日を目処に、インターネット関連企業のディー・エヌ・エー(CEO:守安 功、以下 DeNA)と同事業の統合で合意した。(坂上 賢治)

この取り組みを介して両社は、互いのMaaS(Mobility as a Service)事業を強力に推し進めていく。また日本交通側は〝将来のタクシー産業を安定させていく〟こと。さらには未来の自動運転車時代を踏まえて、〝異業種との仲間づくりを、より一層加速させたい〟意向があるものと見られる。

上記に係る統合の座組は、日本交通(株主比率38.17%)とDeNA(株主比率38.17%)が共にJapanTaxiの共同筆頭株主(川鍋 一朗氏が代表取締役会長/ディー・エヌ・エー常務執行役員オートモーティブ事業本部長の中島宏氏が代表取締役社長)となり、新法人の所在地は東京都千代田区紀尾井町3-12、社名も刷新(現段階で社名は非公開)した新体制下でモビリティ関連事業の舵取りを担う構え。

この統合の背景には、今年109年を迎える日本のタクシー産業がタクシー配車アプリを筆頭とするIoT化の進化で日々新たなタクシー事業の新陳代謝(キャッシュレス化、事前確定運賃、相乗り等)が繰り返されていることにある。

相次ぐ新サービスの市場提供によって利用者の利便性が急角度で高まっていてく一方で、タクシー業界内は労働力不足問題に抗いながらも事業社間の競争激化が進んでいるのだ。

そこで両社は時代に相応しいMaaS事業を目指すことで〝新たなビジネスの姿〟を模索していくことが最善であるという答えに至った。なお川鍋氏自身が現職前の修業時代に、コンサルティング業界に身を置いていたこともDeNAとの縁を結ぶことになった大きな要素であったと考えられる。

今後新体制となった暁(あかつき)には、これまでJapanTaxi側が築いてきた全国のタクシー事業社のカバー網(提携台数/広告・決済機能を有するJapanTaxiタブレット展開を含む)とMOV側のAI技術(商用車向け事故削減支援サービスのドライブ チャートを含む)を活かし、さらなる全国のタクシー事業社の連携投資を行っていく。

結果。同統合を契機にひとまず両社を合わせた配車可能なタクシー車両数は約10万台規模に、アプリダウンロード数1000万超のタクシー配車アプリネットワークになる見込み。この利用者向けのアプリ仕様については、投資コスト効率を高めるべく今後、時間を掛けながら統一仕様を目指していく。

対してサービス提供側としての車載ソフトウエアについては、多彩な中小タクシー事業社がステークホルダーに加わっているため、全域統合を行うかはケースバイケースになる。実際にはサービス提供側の環境整備に関しては、いわゆる〝現場合わせ〟で辻褄を探っていくことになるだろう。

ちなみに今から3年余り前の2017年5月、東京ハイヤー・タクシー協会の会長職であった川鍋一朗氏(現在も同協会会長)は、自社傘下のJapanTaxiが当時運営を手掛けていた東京ハイヤー・タクシー協会の共通配車アプリ「スマホdeタッくん 」からの同月末での脱退を宣言(以降、共通アプリの運営自体も撤退し、以降はスマホdeタッくんのシステム運用をテクノシステムが担う)した。

この時期の東京ハイヤー・タクシー協会の配車可能台数は1万2000台。川鍋氏はここから、自社グループのおよそ3400台を同共通配車アプリ環境から離脱させてまで〝タクシー配車アプリのオリジナルモデル化〟に拘った訳だが、その目論見が今回の経営統合を迎えて、新たな次元へと踏み出すことになる。

あれから約3年。タクシー配車アプリについてはDeNAの「MOV」を筆頭に、国際自動車グループの「フルフル」、ソニーの「S.RIDE(エスライド)」やソフトバンクグループの「DiDi(ディディ)」など様々な企業が新規参入を果たしてきた。

対して「JapanTaxi」に社名変更してから足掛け5年間〝夢〟を繋ぎ続けて来た川鍋氏の立場としては、タクシー利用者を乗せている実稼働率が、2〜3時間ともいわれている同産業の根本的な業務改革を引っ括めて、より思い切った施策を打ち出してみたいという想いもあるだろう。

そうしたなかで両社は、現行サービスの高度化を図っていく過程で、昨今、社会問題化している高齢化に伴う移動困難者などの限られた対象のみならず、移動したい時に誰もが自由に移動できる世界を実現。既存のタクシー事業の枠を超えた全く新しい〝移動サービスの姿〟を目指して行く構えだという。