日産自動車の中畔副社長が第2世代プロパイロットの概要発表


日産復活の狼煙に生かし秋のスカイラインを皮切りにプロパイロット2.0(条件次第で手放しが可能)を世界展開へ

日産自動車株式会社(本社:神奈川県横浜市西区、社長:西川 廣人)は横浜市の日産グローバル本社に於いて5月16日、新役員体制のスタートと同時に自動運転機能を持つ第2世代の「プロパイロット2.0」(17日からTVCMのオンエアも開始する)の記者発表を行った。(佃モビリティ総研・松下 次男/媒体編集長・坂上 賢治)

AD/ADAS(エーダス)先行技術開発部部長の飯島徹也氏。
AD/ADAS(エーダス)先行技術開発部部長の飯島徹也氏。

会見開始早々、先の14日の夕方に決算発表を行った同会見場で、新たに副社長に就任した一人である中畔邦雄氏が登壇。世界初の機能を搭載した先端技術をアピールし、順次、グローバル市場に投入する考えを披露した。

わずか数日前には逮捕されたゴーン体制下の影響などにより、業績悪化を日産は発表したばかり。そこで元の日産の姿を取り戻す戻す最優先の要素に掲げたのが「技術の日産」の再現で、開発陣のトップがこれに向け反転攻勢の第一弾となる狼煙あげたとも言えよう。

新たに副社長に就任した一人である中畔邦雄氏が登壇した。
新たに副社長に就任した一人である中畔邦雄氏が登壇した。

16日付で発足した新役員体制は、新たにCOO(最高執行責任者)に山内康裕氏が就任し、副社長に星野朝子氏、川口均氏、中畔氏の3人が昇格した。これら西川廣人社長を含めた新役員体制で、ゴーン体制下で毀損していた日産の体質基盤の再構築を目指す。

そのための基盤となるのがグローバルネットワークと並ぶ技術の蓄積である。西川社長は先の決算発表会見で「2~3年で元の日産に戻す。このため、先進技術分野には積極的に投資する」と表明していた。

世界に先駆け、高速道路でのハンズオフ可能な自動運転機能をアピール

その開発部門トップの副社長に就いたのが中畔氏。中畔副社長は会見で他社と差別化できる先進技術としてEV(電気自動車)やeパワーなどの電動技術と今回のプロパイロットを含めた運転支援システム、コネクティビティなどの知能化技術を掲げた。

今回発表したプロパイロット2.0は高速道路の複数車線をナビゲーションシステムと連動して設定したルートを走行し、ドライバーが常に前方に注意している状況下で「ハンドオフ(手放し)が可能」な運転支援システムである。

但しプロパイロット 2.0はカーナビゲーションシステムで目的地が設定されている時のみ動作する。加えてドライバーは、システム作動中、常に前方を監視している必要がある。

仮にドライバーが目を閉じる動作を続けたり、前方を注視していない場合は、その動きを検知しステアリングを握るよう促す。さらに警告音などが段階的にレベルアップした後もドライバーが反応しない場合は同一車線内で緊急停止する仕組みだ。

つまり運転補助としては一部、ハンドオフが可能になったという状態からレベル2から少し頭1つ分抜き出た段階、レベル2からレベル3の間に位置する状態といえるだろう。

但しここからレベル3に近づけるには壁が厚く、現段階で日産の技術者達の考えとしては、当面レベル2を超えた現段階で技術を磨き続ける期間が少なくとも「当面続く」という認識を持っているようだ。

それでもこここまで安定したシステムの実現は世界初だとしており、その背景には3D高精度地図データ、360度の周囲センシング機能の採用が核となっている。なお同構成は、車両の周囲360度をセンシングする7個のカメラ、5個のミリ波レーダー、12個の超音波ソナーの組み合わせとなっている。

このうちレーダーとソナーは新開発。7個のカメラのなかで4個はアラウンドビューモニター用として車両の直近周囲を監視。

今回最も重視した前方監視は画角(広角範囲)並びに焦点距離が異なる3個のレンズを並べて格納した日産が「トライカム(Tri-cam/2015年にTRWを買収したZFとMobileyeとが共同開発したADASカメラユニット)」と呼ぶカメラ連装パッケージが担っている。

画像処理自体は単眼カメラ向けチップの「EyeQ3」以来、日産としても使い慣れているモービルアイ(Mobileye)提供の3眼対応の最新チップ「EyeQ4」が担う。

同コアは、新世代のベクトルマイクロコードプロセッサ(VMP)、マルチスレッド処理クラスタ(MPC)コア、プログラマブルマクロアレイ(PMA)コアの組み合わせで最大3台のカメラを同時に管理できる。なお余談であるが「EyeQ4」自体を世界で初採用したのは2017年12月、中国EVベンチャーの蔚来汽車(NIO)の「ES8」への搭載となっている。

このように主に前方・進行方向に向けての運転補助として機能しており、後方側についてもセンシング機能こそあるが、運転機能を制御させるような連動はしていない。また総じて運転者の意志を尊重した制御マナーに終始する。

なお今回の機能実現にあたっては、LiDER(ライダー/Light Detection and Ranging)の搭載を必要としていないため、同社が手慣れたモービルアイを中心としたシステムによって構築されている。地図データは年に数回、テレマティクス通じアップデートを行う。

気になる地図データはゼンリンがサポートするもの。日産自動車とモービルアイ、そしてゼンリンのレベル3に対応する自動運転システムの開発自体は、2018年1月9日に米国ネバダ州ラスベガスで開かれた消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2018」のモービルアイによるプレスカンファレンスでアムノン・シャシュアCEO氏が明らかにしていたもの。

日産自動車・モービルアイ・ゼンリンの3社は、車載カメラ映像を基にした地図データ生成に成功する

そもそも日本国内に於ける高精度地図の実現には、自動車メーカーを筆頭に電機メーカーと地図測量会社等が共同出資で設立した「ダイナミックマップ基盤」が協調して取り組んできた。

そうした流れと並行して日産自動車・モービルアイ・ゼンリンの3社は、日本全国の高速道路を対象に自動運転用の高精度地図の知恵を持ち寄り、独自作製するとしていたものが2018年度中に完成。今回、公の場として初めて日の目を見た。

今回の機能実現は、リアルタイムに情報を追加・更新できるこの地図データが重要な役割を担っている。要は道路や建物などの時間的な変化が少ない「静的情報」に、時間の移行と共に変化する「動的情報」を紐付け、車載カメラで撮影した映像を基に地図データを生成していく。

この「静的情報」と「動的情報」の組み合わせゆえに、夜間に於ける機能低下も殆ど無視できるレベルに収まっているという。

なお具体的な走行実証では、全国津々浦々の高速道路を実際に走って検証した。それでも走行環境下で考えられる併走・追従する車両間のシーン想定は無限に広がるため、日産がテクニカルセンター内に備えている6本の巨大なアクチュエーターで車両の動きを制御していく6軸モーションベースのドライビングシミュレーターをフル活用した。

プロパイロット2.0の実搭載は、今秋日本で発売するスカイラインを皮切りに、グローバル市場で順次投入されていく予定だ。第1世代のプロパイロットは、グローバルの7モデルに採用され、累計35万台を超えている。

第2世代のプロパイロット2.0は先進技術の「ニッサン インテリジェント モビリティ」のもと、今後2022年度までに投入を計画するグローバル20車種の主力車種に採用し、商品価値向上に活かすことになる。

中畔副社長は今後の日産の先進領域技術について「電動化、運転支援技術、コネクテッドそれぞれ進化させていく」とし、プロパイロット2.0は「3D、AI(人工知能)を搭載しており、運転支援技術として世界最高レベル」と評価した。