経産省・経団連・日科技連、公開シンポジウムで品質問題防止策を提言


公開シンポジウム「サプライチェーン全体での品質保証体制の強化に向けて」で品質問題の防止策を訴える

経済産業省、(一社)日本経済団体連合会、(一財)日本科学技術連盟は共同で先の6月25日、企業の経営層が品質保証体制の構築に率先して取り組んでいくことを促すべく「サプライチェーン全体での品質保証体制の強化に向けて」をテーマとした公開シンポジウムを開催した。

自動車や素材産業などの製造業で昨年以降、製品検査データの書き換え不正事案が相次いで発覚している。こうした事案は、サプライチェーンを通して、わが国の『ものづくり』を大きく失墜し兼ねない要素となるだけに、早急な対応が迫られている。

これに対し同シンポジウムでは、先進企業を事例を踏まえながら、現場とのコミュニケーションの重要性を強調するとともに、テクノロジーを活用してシステム的に不正が不可能となる仕組みづくりなどを呼び掛けた。

具体的なシンポジウムの内容では、世耕弘成経産相、中西宏明経団連会長の挨拶に続き、坂根正弘日科技連会長が講演。その後、多田明弘経産省製造局長のモデレーターで、パネル・ディスカッションが行われた。

相次ぐ製品検査データの書き換え不正に対して、コネクテッド・インダストリーの推進で不正防止へ

シンポジウムの壇上で世耕経産相は、相次ぐ製造業での製品検査データの書き換え問題について、サプライチェーンの広がりやつながりを考えると、日本の産業界全体の競争力に影響を及ぼし兼ねないと強調。

これに対し昨年末に発表した対応策を踏まえ、経団連や各民間団体が制定するガイドライン、さらに政府が推進するコネクテッド・インダストリーを活用することなどにより、わが国製造業の品質の速やかな信頼性回復を求めた。

また、今国会でJIS法改正が成立。「工業標準化法」からサービス分野などを含む「産業標準化法」へと衣替えするとともに、罰則強化を盛り込んだ改正JIS法も品質保証に効果を果たすだろうとの見解を示した。

関連動画(中西 宏明、一社日本経済団体連合会 会長):https://youtu.be/PJyNPjIxBEw 

関連動画(坂根 正弘、一財日本科学技術連盟 会長):https://youtu.be/xiPwaUM4hYY 

中西経団連会長は、日立製作所での経験から「ものづくりはわが国の大きな柱。改革に終わりはない」と強調。経団連は昨年末の段階で、いち早く不正防止のガイドラインを制定し、製造業の品質保証体制強化に取り組んでいる。

坂根日科技連会長は、母体企業で体質改革を目指したコマツウエイを紹介するとともに、建設車両にセンサーを付け、IoT(モノのインターネット)で一台ずつ品質保証する取り組みなどを披露した。

シンポジウムの最後に行われたパネル・ディスカッションでは、ダイセルの小河義美取締役専務執行役員が、エアバッグ・インフレーター製造工程の自動化により、生産効率化とともに、品質のばらつきが少ない取り組みを紹介。

ジャトコの平山智明常務執行役員は、変速機にICチップを付けて自動車メーカーに納入する仕組みをなどを紹介した。総じてこうしたデジタル技術を活用することで、不正防止とともに、顧客にも製品の品質保証が可能になると訴えて幕を閉じた。( NEXT MOBILITY  より転載 )

世耕経済産業大臣登壇時の挨拶概要は以下の通り(以下は編集部に於いて追加した)

1.はじめに
本日は、公開シンポジウム「サプライチェーン全体での品質保証体制の強化に向けて」に、大勢の皆さんにご参加をいただき、主催者を代表する一人として、感謝を申し上げたいと思います。

2.シンポジウム開催の趣旨
本日、このシンポジウムを、開催させていただくに至りました思いを、簡単にお話させていただきたいと思います。
昨年10月以降、一部の製造事業者における製品検査データの書換えなどが発覚し、ものづくりに携わる皆さんにとって、また、製造業を所管する経済産業省にとっても、大変ショッキングで残念なニュースが世間を賑わせました。

一連の事案は、各社の品質保証体制に関わることであり、企業経営そのものの問題でもあると認識しました。

私は、この問題が発覚した直後から、まずは安全性検証が最優先課題であると述べてきました。

不正事案を起こされた企業には、現在も、それが最終製品の安全性にどういう影響が出ているのか、出ていないのか、その検証を速やかに進めていただくとともに、再発防止策を迅速・確実に実施し、顧客だけではなく社会全体の信頼回復に全力で取り組んでいただくことをお願いしています。

「品質」は、かねてから、日本のものづくりの競争力の源泉の1つとして認識されてきました。徹底したカイゼンやすりあわせ活動を通じ、日本の製造業は、顧客ニーズに即した高品質な製品を追求してきました。

こうした先人の皆さんの現場の努力の積み重ねにより形成された、「メイド・イン・ジャパン」の製品は、世界から、非常に高品質であると高い評価を受け、今なお、それは続いています。

私も世界各国様々なところに行きますが、常に、私のカウンターパートの閣僚から出てくるのは、日本の品質の高さ、現場力の強さ、それをぜひ自分たちの国にも教えて欲しい、ということです。

今後、ものづくりの現場を支える技能人材の人手不足や第四次産業革命、Society5.0 が進展する中で、日本のものづくりのあり方は大きく変容していくことが予想されますが、この先のものづくりにおいても、決して、この「品質」の重要性が揺らぐことはありません。

私自身も、様々なものづくりの現場を訪問・視察させていただいておりますが、日本の製造業の現場力は非常に高く、それぞれの製造現場において、日々、血の滲むような努力で、品質の改善・向上に取り組んでいただいていると本当に実感しています。こうした現場を拝見させていただく中で、私は、我が国のものづくりの現場力が弱まっている訳では決してないと痛感しています。

しかし、一連の問題が起こっております。そしてこの問題は、「サプライチェーン」という形で様々な企業が繋がっているという点を考えると、先人達が築きあげてきた、日本のものづくりに対する信頼や競争力を全体的に奪いかねない、深刻な問題だと認識しています。

このような現状認識のなかで、不正事案が相次いだ今、経営層の皆さんに、日本のものづくりの競争力の源泉である「品質」を改めて考える契機となる場を設けさせていただき、経営トップ自らのイニシアチブの下で、腰を据えて品質保証体制の強化に努めていただくことが重要だと考えるに至りました。

本日、このように大勢の経営層の皆さんにお越しいただけたことは、品質問題に対する産業界の強い関心を示すものだと思います。

早速、今日から、具体的なアクションに結びつけていただきたいと、心からお願い申し上げたいと思います。

3.製造業の品質保証体制の強化に向けて
昨年10月以降の相次ぐ製造業における品質検査データの書換え問題などを受け、経済産業省は、昨年12月22日、「製造業の品質保証体制の強化に向けて」と題する対応策を発表しました。

折角の機会ですので、この対応策について改めて、簡単に説明させていただきたいと思います。

まず第1の柱は、民間主導による、自主検査の徹底です。昨年12月、経団連自身が、一連の問題を、我が国企業に対する信用・信頼を損ないかねない重要な事態と受け止め、会員企業などに対して、品質管理に関わる不正事案の点検などを呼びかけました。

また、日本アルミニウム協会、日本伸銅協会、日本ゴム工業会、日本化学繊維協会、石油化学工業協会では、業界の自主的な取組として、品質保証に係るガイドラインを策定していただきました。

このような産業界の自主的な取組が進んでいることに、私は大変心強く感じていますが、品質保証体制の強化に終わりはありません。

ここで品質問題の議論を終わらせるのではなく、今日のシンポジウムを契機に、今後も産業界全体で一連の問題をフォローアップし、日本のものづくりの競争力の源泉である「品質」を更に高める努力を継続していただきたいと思います。

第2の柱は、コネクテッド・インダストリーズの推進による品質確保の仕組みの構築です。コネクテッド・インダストリーズは、データを仲介して、従来つながっていなかった機械や技術、人などさまざまなものが、組織、国境、業界を越えてつながることにより、新たな付加価値の創出や社会課題の解決を目指す産業のあり方です。

今回の一連の問題でも、コネクテッド・インダストリーズの考えの下で、製造データや品質データを繋ぎ、ウソのつけない、また、改ざんのできない仕組みを構築し、信頼性の高い品質保証体制を構築していれば、未然に防止できた面もあるのではないかと思います。

今日のパネルディスカッションでは、このコネクテッド・インダストリーズの観点からの取組により、品質保証と生産性向上の両方を実現しておられる事例をご紹介いただく予定になっています。

こうした優良事例を参考にし、各企業で多様な取組が行われていくことを期待したいと思います。

一方、こうした取組には、一定の設備投資が必要です。経済産業省として、一定のサイバーセキュリティ対策が講じられたシステムやロボットの導入によって、企業内外でのデータ利活用を図り、生産性向上を図る取組に対して、税制面からの支援も用意をさせていただいています。

第3の柱は、ガバナンスの実効性向上です。さきほど申し上げた、システムやロボットなどを利用した現場での仕組みづくりに加えて、やはり、経営層・経営トップの皆さんに品質管理に対する意識を強く持っていただき、その意識を現場に浸透させる組織的な仕組みづくりが重要だと思います。

私の感覚では、トップが頻繁に現場を訪れ、品質保証体制の重要性をトップ自らの声で訴えておられるような企業では、こうしたデータ改ざんといった事例は発生していないという風に考えます。

また、経済産業省としても、昨年12月から、グループガバナンスに関する研究会を立ち上げました。

今回の事案が、子会社などを舞台に起きていることを踏まえ、子会社管理を含めたガバナンスの実効性向上に向けたベストプラクティスの収集整理を通じた検討を進めており、来年春頃を目処に実務指針を策定する予定です。

さらに、今回の一連の事案のなかで、規格値を満たさないJISマーク製品の出荷という、非常に残念な事例も認められました。

登録認証機関によるJISマーク認証の取消しが行われた事案も出ていることも踏まえ、JISマークを用いた企業間取引の信用性確保を図るための罰則強化などを盛り込んだ法律が、今国会で5月23日に成立しました。

4. これからのものづくりにおける危機感の共有
日本のものづくりは、今、大変革の時期を迎えています。そして、今、足下で起きているこの変化は、日本のものづくりのあり方に本質的な変化を求めるものであると認識しています。

具体的には、これまで日本が強みとしてきた、「擦り合わせ」や「自前主義」、「ボトムアップ経営」、こうしたものが、猛烈なスピード感が求められる新たなものづくりの中では、逆に足かせとなり、変革を遅らせてしまう可能性すら出てきているという状況にあります。

また、これからは、既存のプレイヤーに加えて、多様な産業から参入するプレイヤーとの異次元の競争をしていかなければなりません。こうした中で、従来の延長線上の取組では、到底、太刀打ちすることが出来ないのではないかと思います。

一方で、「ものづくり」や「品質」の重要性が失われる訳ではありません。私は先日、墨田区にある中小企業の金属プレス業を視察に行ってまいりました。

その現場で非常に感銘を受けたのは、ロボットや最先端の車椅子を作ろうというアイデアがあったことです。

具体的に図面を引くところまではいったが、なかなかものがつくれないベンチャーの20代、30代の経営者に対して、熟練の金属プレス工が、「ここをこうすれば、こういう風にできるよ」、「試作品を作ってあげるよ」と、今まで彼らがチャレンジしてもできなかったものが、この熟練の金属プレス工にかかったら瞬時に出来てしまう。

その姿を見て、やはり、第4次産業革命の時代においても最後、製品を作るところで、日本のものづくり、そしてこの品質の高さは、引き続き、社会に、そして、世界に必要とされているということを改めて実感しました。

新しいものづくりの姿は、これまで先人たちが築いてこられた礎の上にあると思います。しかし、私たちに求められていることは、日本の従来の強みを大切にしながら、その礎の上に、新たなものづくりの姿を描き、日本が誇るものづくりをもう一段、この第4次産業革命の時代の中で発展させ、高めていくことではないかと思います。

アベノミクスの効果で、足下の経営環境が好調な今こそ、経営トップのイニシアチブで、新たなものづくりを切り拓くための大胆な挑戦に挑んでいただきたいと思います。そうした挑戦の中で、ぜひ、品質保証のあり方についても、位置づけていただきたいと思います。

5. 最後に
最後に、今回問題を起こした企業の報告書や問題を起こしていない企業の取組を見ても、先ほども申し上げましたが、経営トップがどれだけ現場としっかりコミュニケーションができているかという点が非常に重要である、このことをもう一度申し上げさせていただきます。改めて、経営トップのリーダーシップ、そして品質保証に対するコミットメントが問われていると思います。

こうした問題が日本の製造業において、二度と繰り返されることがないよう、本日お集まりの産業界の皆様のリーダーシップに強く期待をして、私の挨拶とさせていただきます。
以 上

関連動画(世耕弘成 経済産業大臣):https://youtu.be/HE9-Tl_AFEU 

(参考)議事次第
日時:平成30年6月25日(月曜日)13時30分~15時30分
場所:経団連ホール(経団連会館2階)

(1)挨拶
世耕 弘成 経済産業大臣

(2)挨拶
中西 宏明 (一社)日本経済団体連合会 会長

(3)講演 「企業価値の向上~品質経営とトップの役割~」
坂根 正弘 (一財)日本科学技術連盟 会長

(4)パネルディスカッション(モデレーター:多田製造産業局長)
– 安藤 豊 日本鉄鋼連盟 技術政策委員会 委員長(新日鐵住金(株) 常務執行役員)
– 小河 義美 (株)ダイセル 取締役 専務執行役員
– 平山 智明 ジヤトコ(株) 常務執行役員
(*パネル参加者名は五十音順で記載)

<取材>松下次男( 佃モビリティ総研 
1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。