静岡県の富士スピードウェイに於いて10月11日、世界耐久選手権(WEC)第6戦の決勝レースが開催された。
決勝レースは天候が優れず、生憎の雨模様となった第6戦だが、この路面コンディションの変化により、トヨタ勢にとっては序盤を中心に、チームの見せ場を作る機会が得られたレースとなった。
ただレース結果自体は、予選に準じた順当な結果となり、一時は6番手まで脱落していたカーNo.17・ポルシェ919ハイブリッド(T.ベルンハルト・M.ウェーバー・B.ハートレー組)が、底力を見せ前戦オースティンに続く3連勝を果たした。
2位はカーNo.18(R.デュマ・N.ジャニ・M.リーブ組)ポルシェ919ハイブリッドとなり、今季3度目のワン・ツゥーフィニッシュ。3位には、カーNo.7のアウディR18 e-トロン・クアトロ
(M.ファスラー・A.ロッテラー・B.トレルイエ組)が入った。
これによりポルシェ勢は、今季通算4連勝を飾り、マニュファクチュアラーランキングも264点でトップ(2位アウディ211点、3位トヨタ119点)に、ドライバーズチャンピオンシップに於いても首位(ベルンハルト/ハートレー/ウェバー組が1ポイント差でトップ)に立った。
そんなレースのスタートは午前11時。しかしフォーメーションラップに於いて、前夜から降り続く雨でコース上の水量が多く、スピンした車両等もあったことなどから、セーフティーカーに先導されたフルコースコーション状態のまま開始された。
このためレースは、スタート順位そのままで周回が消化され、雨脚が弱まった午前11時半頃・17周回目にようやくにセーフティカーが退き、翌周ようやく本来のレーススタートとなる。
序盤のトヨタ勢は、フルコースコーションが解けてグリーンフラッグが振られると同時に、いち早く先行に成功した2台のアウディ勢に続き、カーNo.1・トヨタTS040ハイブリッド(A.デビッドソン・S.ブエミ・中嶋一貴 組)をドライブする中嶋選手が好ダッシュを決めて3位へとジャンプアップ。
これを追ってカーNo.2・トヨタTS040ハイブリッド(A.ブルツ・S.サラザン・M.コンウェイ組)のブルツ選手も、4位に付ける好走をみせた。しかしその後、カーNo.2・トヨタと、カーNo.17・ポルシェがコカ・コーラコーナーでコースアウトを喫する。
一方、序盤ハイブリッドシステムに発生したトラブルにより、ブーストが掛からない状態が続くカーNo.17・ポルシェは、23周目にチームメイトであるカーNo.18・ポルシェに先行を許し、さらに5位へと潜る。また順位を上げた方のカーナンバー18・ポルシェもなかなかペースが上がらない。
こうしたことからアウディ勢が1-2ポジションをキープし、ポルシェ勢が攻めあぐねるという状況になり、31周目から42周目まで、カーナンバー1・トヨタは、カーナンバー17・ポルシェと接戦を繰り広げる活躍を見せて、大いに観客を沸かせた。
しかしコース上の水量が薄くなり始めた頃から、次第にポルシェ勢が復調。40周を境にアウディ、ポルシ勢を含む各車両のピットストップを経て、トヨタ勢は徐々に後退し始める。
加えてトヨタ勢は、ステファン・サラザン選手がドライブするカーナンバー2・トヨタがGTクラスの他車と接触。
この接触でボディ右サイドの冷却システムの修理に13分を費やしたことから、サラザン選手からマイク・コンウェイ選手に代わってレースに復帰した時には、一旦上位集団から大きく脱落してしまう。
さらにカーナンバー1・トヨタも、デビッドソン選手がピットに入る際にピットレーン進入路の白線を踏み、ドライブスルーペナルティを受けてしまう。
対してポルシェ勢とアウディ勢の攻防は、カーNo.18・ポルシェをドライブするデュマ選手と、カーNo.7・アウディR18 e-トロン・クワトロ(M.ファスラー・A.ロッテラー・B.トレルイエ組)が幾度かポジションを入れ替えた後、カーNo.18・ポルシェが71周目にトップポジションに座る。
一旦は6番手から追い上げてきたカーNo.17のポルシェは、先のデュマ選手とバトルで2位に脱落したカーNo.7・アウディと激しい2位争いを展開する。
この2台の状況は、最終コーナーの立ち上がりでポルシェが先行するものの、ストレート中盤でアウディが再接近する状態を繰り返す。今日のレースでは、高速域の加速力を推進力へと進めるトラクションでアウディに歩がある印象を残した。
レースは3分の1を消化した81周目、ようやくコース上の走行ラインが乾き始め、カーNo.17・ポルシェに乗るウェバー選手が、ブレンドン・ハートレー選手にステアリングを託す際、今日始めてのインターミディエイトスリックを装着してコースに復帰する。
これに習い、翌周以降にカーNo.8・アウディ、カーNo.1・トヨタと各陣営が続々と2回目のピットインを行い、インターミディエイトタイヤに交換する。
この間、ブエミ選手がドライブするカーNo.1・トヨタは、5位を堅持しつつ、中嶋選手に交代。一時下位に脱落していたカーNo.2・トヨタをドライブするコンウェイ選手は、果敢な追い上げの結果、8位まで順位を上げた後、ブルツ選手にドライバーチェンジし、これ以降、それぞれ5位、6位をキープし続ける。
その後、レースは終盤を迎え始め、カーNo.17・ポルシェのハートレー選手は、121周目に給油を行いセカンドスティントに突入。160周目まで走行した後、ティモ・ベルンハルト選手へ交代。
コースがドライコンディションに移行し、レーススピードが1分26秒台のハイペースとなる中、ポルシェ陣営は持ち前のスピードを取り戻す。
レースは最終盤になって、スリックタイヤでコースインしたカーNo.17のベルンハルト選手が209周目に、チームメイトのカーNo.18を抜いて遂にトップに立ち、そのままのフォーメーションでゴールラインを跨いだ。
ゴール順位は、ポルシェ・アウディ両陣営共にシリーズランキングを狙うチームオーダーもあってか、予選順位と同じく、1位がカーNo.17・ポルシェ、2位カーNo.18・ポルシェ、3位カーNo.7・アウディ、4位カーNo.8・アウディ、5位カーNo.1・トヨタ、6位カーNo.2・トヨタの順となった。
なおLMP2クラスは、カーNo.26・G-ドライブ・レーシング。LM-GTEプロクラスは、カーNo.51・AFコルセ。LM-GTEアマクラスはカーNo.77・デンプシー-プロトン・レーシングが優勝を果たした。
【レース後のコメント・ポルシェ】
LMP1担当副社長 フリッツ・エンツィンガー氏:「コンディションがめまぐるしく変わる難しいレースでしたが、目標を達成することができました。
またワン・ツーフィニッシュを成し遂げてマニュファクチュアラーチャンピオンシップのリードを広げ、ティモとブレンドンとマークはドライバーズチャンピオンシップでも首位に立ちました。この素晴らしいチームとともに働けることは何より幸せなことです」。
チーム監督 アンドレア・ザイドル氏:「状況は激しく変化しましたが、すべての戦略が的中しました。
6名のドライバー全員はミスもなく完璧で、これぞチームワークという見事な働きを見せてくれました。我々はまだ若いチームですが、難しいレースでも勝てることを証明したと思います。
アウディはスタート直後からプレッシャーを与えてきました。本拠地ヴァイザッハで準備をしてきたスタッフも含めたチームすべてのメンバーに感謝いたします」。
ポルシェ919ハイブリッド(No. 17)のドライバーのコメント
ティモ・ベルンハルト選手(34歳、ドイツ):「マニュファクチュアラータイトルのため、目標としてきたワン・ツーフィニッシュという結果を得たことが私にとってはもっとも重要です。
今日はチームメイトの919ハイブリッドが勝利に値するパフォーマンスを披露していました。難しいレースにもかかわらず最大限のポイントを獲得できました。しかしタイトルを得るためにはあと2つの6時間レースという長い道のりが待ち受けています」。
ブレンドン・ハートレー選手(25歳、ニュージーランド):「私が担当したダブルスティントの折り返し地点では、ピットアウトと同時に出たフルコースイエローによりチームメイトに大きな遅れを取りました。
インターミディエイトスリックで走るにはトリッキーなコンディションで実際にウェットタイヤの方が速かったはずですが、最後の最後でスリックタイヤが生きました。
カーNo.7のアウディにはコックピットのスイッチを操作している間にパスされましたが、フェアでクリーンなバトルを楽しみました」。
マーク・ウェバー選手(39歳、オーストラリア):「序盤はグリッブが少なくコカ・コーラコーナーではクラッシュ寸前になりました。
ハイブリッドシステムにトラブルが発生した際は無線でピットと幾度も交信しました。
ダブルスティントの後半には満足しています。カーNo.7のアウディと戦い、我々は予選の順位を取り戻すことができました」。
ポルシェ919ハイブリッド(No. 18)のドライバーのコメント
ロマン・デュマ選手(37歳、フランス):「簡単な状況でなかったのは間違いありません。スタート直後にマークはスピンし、私の919ハイブリッドではピットスピードリミッターが誤作動しました。
間違ってスイッチを押してしまった可能性もありますが、ポジションを落としたことは確かです。
トヨタに激しく追い立てられたせいか、20周に渡りブレーキにも違和感を感じました。スティント後半は前を走るライバルたち全員をオーバーテイクし、楽しむことができました」。
ニール・ジャニ選手(31歳、スイス):「開幕戦のシルバーストーン以来、トラブルのないレースでした。
車も素晴らしく戦略も的中し、私たちはトップを走りました。フルコースイエローのタイミングにも恵まれました。後続に1分の差をつけてレースをリードするタイミングもあったと思います。
シリーズ序盤の数レースにおけるトラブルでドライバーズタイトルの可能性は失ったことで、17号車に勝利を譲りました。悔しいのはもちろんですが、今は我慢して次のチャンスを待つつもりです」。
マルク・リーブ選手(35歳、ドイツ):「レース中盤のダブルスティントを走りました。
走り始めの路面はインターミディエイトにはスリッパリー過ぎたため、苦しみました。雨が止んでからのペースは良く、本来の速さを見せることができたと思います。
1分もの大差でリードしていたので、ブレーキの温度管理をしながらタイヤもセーブしました。レースで最速だったのは良いことです」。
【レース後のコメント・トヨタ】
佐藤俊男氏 チーム代表:天候にも助けられ、最近のレースより向上した我々の戦闘力を見て頂くことが出来ました。
ウェット路面での競争力の高さを示せたことは励みにもなります。しかし、いくつかの要因によりこれを上手く活かせず、ホームレースを良い結果で終えることが出来なかったのが残念です。
今週我々を応援してくれた全てのファン、特にウェットコンディションにもかかわらずスタートから応援してくれたファンの皆様には本当に感謝しています。
また、素晴らしいサポートで共に戦ってくれたトヨタの従業員の皆様にも感謝します。富士での連勝記録更新は出来ませんでしたが、来年は必ずもっと強くなって戻って来ます。
アンソニー・デビッドソン選手:今日は非常にトリッキーなコンディションでした。
我々の使用しているミシュランタイヤの全ての能力を引き出し、限界まで使い切るのはドライバーにとっては非常に難しい挑戦でした。
厳しいレースではありましたが、いくつか良い兆候もありましたし、ウェットコンディションでの好ペースを示すことが出来たのは励みとなりました。しかし、ホームコースで表彰台を獲得出来なかったのは残念です。
セバスチャン・ブエミ選手:残念な結果となってしまいました。ウェットコンディションではとても良い感触で、ライバルとの差は縮まったと思ったのですが、コースが乾くと共に差を広げられてしまったのは残念です。
着実なレースを戦えましたし、今日は満足いくパフォーマンスを示せたと思います。来年こそは、昨年までのように勝利のトロフィを獲得するために戻って来たいと思っています。
中嶋一貴選手:予想通り、ウェット路面での我々はより競争力がありました。レース序盤、ポルシェとのバトルは楽しいものでしたが、直線スピードに勝る彼らの前を走り続けるのは難しかったです。
私のピットストップまで、何とか1台のポルシェの前を走り続けることが出来、エキサイティングでした。ピットストップ後は、ライバル達が少し速いという状態でした。
少なくとも我々のスピリットはファンのみならず多くの人にお見せすることが出来たと思います。もちろんこれからも我々は全力で戦い続けます。
アレックス・ブルツ選手:はじめにいつも応援してくれるファンの皆様へ感謝の言葉を贈りたいと思います。本当に素晴らしい最高のファンです。
私のプロレースドライバーとしてのキャリアは20年になりますが、今でも日本のファンに再会出来るのが嬉しいです。ファンにとっては生憎の悪天候となってしまいましたが、その反面、このコンディションのおかげで面白いレースが見られたのではないでしょうか。
我々のTS040 HYBRID #2号車は、ステファンがドライブしている時にGTクラスの車に接触され、上位争いから脱落することになってしまったことが残念です。
ステファン・サラザン選手:我々のTS040 HYBRIDには少々厳しいレースでした。ウェット路面ではフロントのグリップ不足に悩まされ、必要な速度を維持するのは困難でした。
GTクラスの車に追突されたため、その修復にとても時間を費やしてしまいました。その上、ハイブリッド・インターミディエイトタイヤへの交換後にまた雨が降り出し、再度レインタイヤに履き替えるためにタイムをロスしました。
このような状況でも時には上手く行き、また時にはそうでないことがありました。こういう経験からも、常に学び続けなければならないと思います。
マイク・コンウェイ選手:難しいコンディションの一日でした。溝無しのハイブリッド・インターミディエイトタイヤを使いこなすのは非常に大変で、ドライタイヤに交換するまで、我慢の走りを強いられました。
その後、終盤に向けて調子は上向いて行き、最後はライバルと比較しても悪くないペースだったと思います。残りの2戦でもプッシュを続けますので見ていてください。
富士6時間レース(日本)、レース結果:
LMP1クラス
(1). ベルンハルト/ハートレー/ウェバー(ドイツ/ニュージーランド/オーストラリア)組、ポルシェ919ハイブリッド、216周
(2).デュマ/ジャニ/リーブ(フランス/スイス/ドイツ)組、ポルシェ919ハイブリッド、+14.306秒
(3).ファスラー/ロッテラー/トレルイエ(スイス/ドイツ/フランス)組、アウディR18 e-tronクワトロ、-1周
(4).ディ・グラッシ/デュバル/ジャービス(ブラジル/フランス/イギリス)組、アウディR18 e-tronクワトロ、-2周
(5).デビッドソン/ブエミ/中嶋(イギリス/スイス/日本)組、トヨタTS040 HYBRID、-2周
(6).ブルツ/サラザン/コンウェイ(オーストリア/フランス/イギリス)組、トヨタTS040 HYBRID、-13周
FIA世界耐久選手権(WEC)第6戦(全8戦)終了時点
ドライバー順位:
(1).ベルンハルト/ハートレー/ウェバー(ドイツ/ニュージーランド/オーストラリア)、ポルシェ、129ポイント
(2).ロッテラー/トレルイエ/ファスラー(ドイツ/フランス/スイス)、アウディ、128ポイント
(3).デュマ/ジャニ/リーブ(フランス/スイス/ドイツ)、ポルシェ、95.5ポイント
(4).ディ・グラッシ/デュバル/ジャービス(ブラジル/フランス/イギリス)、アウディ、79ポイント
(5).タンディ(イギリス)、ポルシェ&オレカ、66ポイント
(6).デビッドソン/ブエミ(イギリス/スイス)、59ポイント
(7).バンバー/ヒュルケンベルグ(ニュージーランド/ドイツ)、ポルシェ、58ポイント
(8).中嶋(日本)、55ポイント
マニュファクチュアラーポイントスタンディングス:
(1).ポルシェ 264ポイント
(2).アウディ 211ポイント
(3).トヨタ 119ポイント
次回世界耐久選手権(WEC)第7戦は、11月1日、中国の上海インターナショナル・サーキットで開催される。