いすゞ自動車株式会社(本社:東京都品川区、社長:片山正則、以下いすゞ)と、日野自動車株式会社(本社:東京都日野市、社長:市橋保彦、以下日野)は5月27日、安心・安全な交通社会の実現に向けた高度運転支援に関わるITS技術を共同開発することについて正式に合意した。
いすゞと日野は、これまでにもそれぞれの商品であるトラックとバスに、運転支援技術を積極的に搭載するなど、個社で安全技術の普及に努めてきたが、今般の合意に基づき、自動運転システムの実用化に向けてのベース技術となるITS(路車間・車車間通信)システムや高度運転支援(自動操舵・隊列走行)技術について、両社で共同開発を実施します。これらについて共同で取り組むことにより、開発の効率化を図る。
いすゞと日野はこれまでにも、環境技術では2008年から後処理装置で協業してきた。2004年からはバス事業で協業しており、両社が出資した「ジェイバス」が、いすゞと日野のバスを生産・供給している。
いすゞと日野では、「共同開発したITS技術・高度運転支援技術を、将来はそれぞれのトラックやバスといった製品に搭載し、普及に努めることで、安心・安全な交通社会の実現に貢献してまいります」との共同見解を述べている。
ちなみに自動走行・高度運転支援のなかでも、特に日本に於けるトラックの自動制御による隊列走行については、JARI(日本自動車研究所)等の官民一体で、自動運転制御技術や隊列走行制御技術の研究開発を旧くから行ってきている。
その基礎研究は2000年より遙か以前に遡るが、具体的成果では、2008~2012年度までの5年間、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から受託した運輸部門の省エネルギー化を目的とした「エネルギーITS推進事業(自動運転・隊列走行技術の研究開発)」を実施し、JARIが産学公15機関の共同研究先の取りまとめ役となって、時速80km、車間距離4mでの、トラック4台の自動運転・隊列走行技術の開発に既に成功している。
先の2013年2月には、その成果を公開するため「Energy ITS 自動運転隊列走行 Demo.2013 in つくば」を、独立行政法人産業技術総合研究所・つくば北サイトのテストコースにて行った。
こうした技術を、一般道路を含めた自動運転あるいは次世代の高度運転支援システムとして活かすためには、特に下記の技術の高度化が鍵だ。
走行環境認識技術
これまでのITS研究では、カメラやレーダーを用い、走行車線の認識技術や道路上の障害物を認識して回避する技術を開発してきた訳だが、まだ実現できていない走行環境認識技術として、積雪路など悪天候でも認識できる全天候型の車線認識技術や、レーンチェンジを行う際に後側方から接近する車両を認識する技術などがある。
また、一般道路での自動運転を実現するためには、信号や道路標識の認識技術、歩行者や自転車の認識技術、さらには賢いドライバのごとく、過去の経験(データベース)と照らし合わせて道路上に潜む危険を察知する危険予知技術等が必要になる。
ドライバ状態認識技術
これは昨年のスキーバスの転落事故に見られる対策が筆頭に挙げられるが、欧米だけでなく日本国内に於いてもこの種の技術開発は、実際の車両搭載目前にまで迫っている。
ただ運転をシステムに完全に任せてしまう完全自動運転は、事故時の責任問題とも関わるため、まずはドライバが急に運転できなくなった状況や、居眠りをしてしまって事故を起こす危険性が高まったような状況、すなわちシステムに任せた方がリスクが低いという状況下で、部分的に実用化すべきだと言う議論が一般的になっている。
またこの時点の道義的な責任の所在。バスの様に乗客が運転者の危険性をどう判断し、どう対処するのかといった法解釈についても、一定の方向性が固まりつつある。
一方、技術的には、ここで必要となるものにドライバの状態認識技術が出てくる。居眠り運転の検知技術などの技術開発は、各種開発されており、さらに広くドライバーの負荷状況と健康状態を総合的に認識する技術の開発が急がれている。
高信頼性技術
先の自動運転・隊列走行実験では、実用化を念頭におき、既に高い安全性・信頼性が確保されている。
具体的には、基本的なサブシステムを冗長化・多重系にし、片系が故障したら別の系が補完する機能を持たせるとともに、ECU(電子制御装置)は万が一故障した場合でも、必ず安全な方向に処理するフェイルセーフ機構を備えている。
自動運転を目指して運転支援システムが、今後さらに高度化することに伴い、システムも複雑化することから、高信頼性技術はさらに高いレベルが要求される。
今後は、自動車の電子機能安全規格(ISO26262)や、FTA(故障の木解析)、FMEA(故障モード影響解析)などの知見や手法を活かしていく必要が出てくるだろう。
ひとまず当初は、縦方向(前後方向)の制御技術のみを切り出すことにより早期に実用化につなげてきたが、国内大型トラックメーカー4社を含めた国内官民は、通信を用いた協調型の車間距離制御システム(Cooperative Adaptive Cruise Control)技術を開発している。
CACCはACCと比較して安全面、燃費改善面、交通流円滑化面で効果が大きく、実用化が期待される。
また、横方向(左右方向)の制御技術のみを切り出すことにより、高速道路の保全車両などの運転支援を行うことが可能であるため、現在高速道路会社と共同で、トンネル内の照明清掃車両に操舵支援装置を導入し、高速化を図る研究開発も大詰めを迎えている。