米国のインテルコーポレーション(Intel Corporation、本社:カリフォルニア州・サンタクララ、CEO:ブライアン・クルザニッチ)は、イスラエルの車載画像認識ソフトウェア&IC開発のモービルアイ社(Mobileye N.V.、本社登記:オランダ・アムステルフェーン、研究開発拠点:イスラエル・エルサレム、CEO:ジブ・アビラム)を買収することで合意に達したと発表した。
このモービルアイ社(2014年8月1日にNYSE上場。調達額は約900億円、2016年秋時点の時価総額は1兆7千億円超だった)は、単眼カメラでの衝突事故防止・軽減実現に関して、エルサレムのヘブライ大学コンピューター科学教授アムノン・シャシュア氏(Amnon Shashua・共同創設者・会長)が世界で先鞭を付けた後、機械学習・データ解析・マッピング技術・自律走行支援などのノウハウを積み上げ、自動運転車の支援システム (ADAS) の発展に大きく貢献している著名なテクノロジーカンパニーである。
元々イスラエルという国は、国家の周辺環境や、政治情勢の影響もあって、航空機から地表の偵察を行う等の軍事利用が先行し、画像解析技術では早くも1990年代から世界をリードしてきた。
一般的にカメラを利用した外部環境の認識では、人間の目と同じく、本来はふたつの目(カメラ)を使って物事の対象までの距離を測る。しかし同社は「単眼のカメラ」でこれを実現させたのが大きな「売り」であった。
具体的には同社のシステムは、前方車両の輪郭による形状・大きさなどの認識だけでなく、タイヤと地面の接地ポイントや、左右テールライトなどの特徴を捉えて、これらの映像のコントラストから、素早く外界の世界を演算・解析していく能力に長けている。
モービルアイ社はこの独自の技術的強みを優位点に据え、米国テスラ車への運転支援システム搭載などを契機に、自動運転技術に欠かせない存在として脚光を浴び続け、昨年2016年12月末には、デジタル3次元地図情報サービスの「ヒア」(HERE、本社:ドイツ・ベルリン市、CEO:エザード・オーバーベック)との戦略提携を発表。
さらに明けて、翌年2017年1月のCESでは、インテル社・独BMWグループとの3社連携で、自動運転環境のさらなる開発を進めていくことを共同発表する等、各国を代表する企業との連携を次々と発表してきた。
そして今回、遂にインテル社がモービルアイ社の発行済普通株式を、ひと株当たり63.54米ドルの現金で買い取る。その買収総額は希薄化後の株式を含むと153億米ドル(約1兆7560億円)に達する。買収手続きは9ヶ月程度で完了する見込みだ。
ちなみにこれはインテル社にとっては、去る2015年の米アルテラ社買収の167億米ドルに次ぐ大型買収になる。なお研究開発体制は、モービルアイ社のアムノン・シャシュア氏(Amnon Shashua・共同創設者・会長兼CTO)がインテルの自動運転事業部の責任者となり、イスラエルを開発の拠点とする。また、これを直轄管理するのがインテル社の上級副社長となる予定だ。
今回の両社が発表したリリースによると、インテルのCEOブライアン・クルザニッチ氏(Brian Krzanich)は、「今買収に伴い、両社の組み合わせ技術は、コンピュータビジョン・データセンター・センサーを介したデータ融合・ローカリゼーション・マッピング・機械学習・人工知能といった複合領域で飛躍的な進歩を遂げ、自動車の自立走行に関わる課題を、これまでにない低コストで解決していくだろう」と述べている。
一方、モービルアイの共同設立者兼CEOのジブ・アビラム氏(Ziv Aviram)は、「この両社の技術融合を契機に、自動運転車の成長が大きく進展することに期待を寄せている。
今後は、これまで以上に安全で、より柔軟で、低コストな交通手段を消費者層に提供し、自動車を取り巻く環境に於いて、多様なビジネスモデルの提供を行っていけることだろう」と語っている。
ちなみにインテル社によると、自動運転車の市場拡大に伴うビッグデータの処理量は、来る2020年には単一自動車1日あたり4,000GBの規模となる。そしてこれは、インテルの強みである高性能コンピューティングとネットワーク接続領域で、莫大な事業機会を創造する。
また同市場は、さらに拡大を続け、2030年には700億米ドルの経済規模に到達するだろうと云う。ちなみに自動車メーカー27社がモービルアイと結んでいる技術提携等関係は、今後インテルが手中に握る。従って今買収は、拡大し続ける成長市場への先行投資(結果、競業するクアルコム社や、NVIDIA社を退けることに繫がるということなのだろう)であると結んでいる。