アウディAGの技術部門を率いて3ヶ月。ピーター・メルテンス氏にアウディの未来を聞く


独・アウディAG(本社:ドイツ・バイエルン州インゴルシュタット、取締役会長兼CEO:ルパート・シュタートラー、以下アウディ)のルパート・シュタートラー氏が昨秋、ボルボ上級副社長で当時、同社の研究開発を担っていたピーター・メルテンス氏を自社の技術開発部門取締役に招くと発表。

全ては、ルパート・シュタートラー取締役会長兼CEOの発表から始まった。

その後、正式にアウディの開発拠点であるインゴルシュタットに迎えられてから、早3ヵ月が経過した。

そんな1961年生まれのメルテンス氏。同氏の自動車業界に於ける経歴は、1990年代のメルセデスベンツ在席時が皮切りとなるもの。

その後、2002年に独・オペルに移籍。さらに2010年にはジャガー・ランドローバーの重役に就任。その後の2011年からは、ボルボカーズの最新鋭技術の開発を担ってきた。

今年、アウディAGの技術部門を担う取締役に昇任したピーター・メルテンス氏

そして今年、アウディで生産テクノロジーの博士号を取得するなど、意欲的に自己のキャリアを更新し続ける同氏は、元来、クラシックカーをこよなく愛し、休日には田舎でゆったりとした時間を過ごすことを好む性格だ。

しかし実際には、新たな赴任地となったアウディで、将来に向けた数多くのプロジェクトを主導し、非常に忙しい日々を過ごしていると云う。

【Question】メルテンスさん、今回のアウディサミットでは新型Audi A8の発表を行いました。このクルマの主なセールスポイントは何ですか?

Dr. メルテンス:非常にインパクトのあるスタイルだと思いますが、いかがでしょう。

もちろんそれだけでなく、新型AudiA8にはアウディの最高峰のテクノロジーが搭載されています。誰もが欲しくなるようなクルマに仕上がっているといえます。

【Question】Audi A8はアウディのフラグシップですね。ブランドのスローガンである「Vorsprung durch Technik」(技術による先進)は、どのような形で具現化されているのでしょう?

Dr. メルテンス:ひとことで言えば、技術面では、現在可能なものすべてが投入されています。さらに、アウディの未来を垣間見せるテクノロジーも採用されています。

幾つかの例を挙げますと、パーキングパイロット機能により、新型Audi A8は、ドライバーなしに、パーキング操作を行うことができます。

これは新しく搭載したセンサーの働きにより、走行中、前方にある窪みや路面の不整を検知して、アクティブサスペンションがそれに対応して正確にダンパーの減衰力を調整、空を走っているようなスムーズな乗り心地が得られています。

直感的に扱える大型タッチパネルを使用したインテリアの操作方式も、かつてないものです。また、近いうちに、さらに革新的なテクノロジーも導入しようとしています。

【Question】それは、トラフィックジャムパイロットのことですか?

Dr. メルテンス:そのとおりです。これはアウディにとって、きわめて重要なテクノロジーのひとつです。

主要なマーケットで、高速道路における高度に自動化された運転システムが合法化された時には、新型Audi A8でトラフィックジャムパイロットを提供する予定です。

ドライバーは、このシステムを利用することで、走行中に両手をステアリングホイールから離し、インターネットの検索、閲覧など、運転以外のことに時間を使うことができるようになるでしょう。

最もドライバーは、あくまでも「覚醒した」状態でいる必要があります。

ちなみに新型Audi A8には、トラフィックジャムパイロットのための各種センサーとコントロールユニットがすでに装備されていますので、条件が整えば、いつでも稼働できる状態にあります。

【Question】将来、フォーリングスのマークをつけた「ロボットタクシー」も登場することになるのでしょうか?

Dr. メルテンス:長い目で見れば、高度な自動運転システムは、都市内において、様々な展開の可能性を持っているといえます。

しかしながら、都市内の交通は非常に複雑です。ロボットタクシーは、おそらくは10年以内には、都市公共交通機関の隙間を埋める役割を担うことになるでしょう。

我々が最初に経験するのは、おそらく、限定された短い区間を走る、ステアリングホイールとペダル類を持たないクルマであると思います。

【Question】そうした「ロボットカー」も開発していく方針ですか?

Dr. メルテンス:技術面でベースとなるのは自律運転のシステムであり、我々は最近、その分野を専門で取り組む会社としてオートノマス インテリジェント ドライビングGmbHを設立しました。

この会社は、グループ共通のプラットフォームとして、フォルクスワーゲン グループに属するすべてのブランドのための作業を行います。自動車及びIT分野から、多くの企業が参画することも期待されています。

【Question】将来についての話はこれぐらいにして、直近の話題に戻りましょう。メルテンスさんがアウディにいらっしゃって、2か月半が経ちました。どのような印象を持っていますか?

Dr. メルテンス:アウディの従業員は、非常に意欲的だし、発想の豊かさにも驚かされます。

チームとしての団結心も素晴らしいと思います。ディーゼル問題にもかかわらず、というか、おそらくそれゆえになおのこと、多くのエンジニアが「障害を乗り越えて行こう!」といった姿勢を持つようになっています。

彼らは自分たちの力を、世間の人々に証明したいと思っているし、自分たちが技術革新に対しどれだけの情熱を傾けて取り組んでいるか、また、どれほど革新的な考えを持っているか、示していきたいと考えているようです。

【Question】メルテンスさんはアジアでも、ヨーロッパの複数の国々でも、また米国でも働いたことがありますね。
まさに国際的に活躍してきた人だと思いますが、インゴルシュタットにいらっしゃってどうですか? 引きこもってしまったという印象はありませんか?

Dr. メルテンス:ここの環境も非常に国際的ですよ。開発チームは、20以上の国々から来た人々で構成されています。

加えて、フォルクスワーゲンを始め、世界中にある兄弟ブランドと、密接に連絡を取り合って仕事をしていますからね。わたし自身は、アウディの主要なマーケットである米国とカナダで長く暮らしてきました。

【Question】メルテンスさんにとって、いまもっとも差し迫った課題は何ですか?

Dr. メルテンス:現在我々は、製品ラインナップの大規模なリニューアルに取り組んでいます。

2018年の中頃までに、主要な5つのモデルシリーズをアップデートする予定であり、現在そのために全力で取り組んでいます。

新型Audi A8はそのスタートとなるモデルであり、その後すぐに新型Audi A7が続きます。

この5ドア フルサイズクーペはまさにゴージャスであり、今年の第4四半期にはデビューを飾ることになるでしょう。それから、Audi Q3の次世代モデルも2018年に導入する予定です。

【Question】そのほか、まったく新しいモデルも用意しているのですよね?

Dr. メルテンス:はい。その最初のモデルがAudi Q8です。これは、クーペとSUVの両方の性格を備えたクルマであり、やはり2018年中に発売する予定です。

翌2019年には、Audi Q4の導入も予定しています。これは、コンパクトユーティリティセグメントという、我々にとっては新しい分野に挑戦するクルマです。

この2つの新しいQモデルと並行して、ブランド初の完全な電気自動車であるAudi e-tronの導入を2018年に開始します。

【Question】アウディの電気自動車は、お客様の支持を得られると思いますか?

Dr. メルテンス:必ず得られると思います。Audi e-tronは、SUVとして完全な日常性を備えています。

500kmの航続距離を実現し、他のクルマでは決して得られないユニークなドライビング体験を提供します。匹敵するライバルはありません。

お客様は、必ずAudi e-tronを気に入っていただけると思います。2019年にはその兄弟モデルとして、着座位置を高くとったファストバックモデルのAudi e-tron Sportbackが発売されます。

さらに、コンパクトセグメントの電気自動車も開発しています。このモデルは2020年に導入予定です。

【Question】つまり、電動化を大胆に進めていくと理解していいのですね。

Dr. メルテンス:電気自動車の需要は2020年から2023年にかけて、大幅に高まると予想しています。

アウディは、e-tronモデルで、その需要に対応していきたいと考えています。2021年以降はe-tronモデルのほかに、主要なモデルシリーズのそれぞれに、1台ずつの電動バージョンを用意していきたいと考えています。

それらはいずれも、未来のクルマのエミッションをゼロにしたい、というアウディの長期目標に則っています。

その目標を達成するためには、インフラにも目を向けていかなければなりません。我々は、ヨーロッパの幹線道路沿いに、最大350kWの高速充電設備を備えた充電ステーションを配備していきたいと考えています。

そのために、フォルクスワーゲン及びポルシェとジョイントベンチャーを組んでおり、BMWやダイムラー、フォードにも参画するよう働きかけています。

また気候変動への対策としてはもうひとつ、g-tronモデルの開発にも取り組んでいます。

【Question】実際のところ、ガスで走るクルマに魅力はあるのでしょうか?

Dr. メルテンス:率直な話として、ドライビングの楽しさという点では、g-tronモデルは他のアウディとまったく変わりありません。

また、Audi g-tronは、きわめてクリーンなクルマでもあります。我々が生産する合成燃料のAudi e-gasを利用すると、CO2の排出量を、実質80%も削減できます。

そのため、我々は、Audi g-tronのお客様に、車両購入後3年間にわたって、Audi e-gasと通常の燃料の差額を補填するサービスを提供しています。

実際に体験してみれば、Audi g-tronやAudie-tronへの乗り換えが非常に容易であることが、皆さまにご理解いただけると思っています。

 

【Question】ということは、長い目でみると、伝統的な内燃エンジンは、その役割を終えつつあるということなのでしょうか?

Dr. メルテンス:今後10年間は、内燃エンジンは必要だと考えています。我々も、市場で好評を得ているTFSIとTDIエンジンの開発を依然続けています。

2025年までは、アウディのモデルシリーズのうち最低1モデルは、マイルドハイブリッドという形で、内燃エンジンを搭載することになるでしょう。

マイルドハイブリッドのテクノロジーにより、燃料消費を、100km走行あたり最大1リッター削減することができます。

【Question】今は、誰もがデジタル化を話題にするようになっています。デジタル機器を愛好するお客様のニーズについて、どのように対応しようとしていますか?

Dr. メルテンス:アウディのお客様は、自身のモダンな生活様式を、クルマの中にも持ち込みたいと望んでいます。

我々がAudi connectを、近い将来全モデルで標準化しようとしているのは、このような理由からです。

開発のベースに置いているのは「ファンクション オン デマンド」という思想です。それにより、お客様に完全な自由を提供しようとしています。

【Question】そのことについて、もう少し詳しく説明してください。

Dr. メルテンス:これは、ハードウェア、ソフトウェアに関わらず、お客様が機能を使用した場合のみ、対価を求めるいう考え方です。

LEDヘッドライトのマトリクス機能を例に挙げましょう。これはもともとクルマに搭載してはおきますが、最初から稼働するわけではありません。

しかし、長距離の夜間ドライブを行う場合など、ドライバーが必要と判断した場合には、デジタルシステムを通じて、機能を有効にすることができます。

我々はこうした仕組みを「ファンクション オン デマンド」と呼んでいます。お客様にとってこれは、より柔軟で個々人のニーズに即した対応を意味します。自身で所有するアウディが、次々と新たな驚きを提供してくれるようになるのです。

【Question】メルテンスさんは、仕事では技術の未来を考えて毎日を過ごしているわけですが、オフの時間には、どのようにして気分転換していますか?

Dr. メルテンス:逆に、過去に目を向けるようにしています(笑)。長男と私で、クラシックカーをいじっています。最高の気分転換であり、家族と過ごす楽しいひとときにもなっています。

【Question】クラシックカーは何台ぐらいお持ちですか? 古いアウディもお持ちでしょうか?

Dr. メルテンス:所有しているのはほんの数台です。メルセデスSL、オペルGT、ボルボP1800 ESといったクルマのほか、DKW 175などのバイクを所有しています。

【Question】アウディに関係するモデルも所有したいと思っていますか?

Dr. メルテンス:個人的には、NSU TTSのような、エレガントな外観とクレバーなテクノロジーの両方を備えたクルマを好んでいます。

NSU TTSは、本当に素敵なクルマで、機会があれば購入したいと考えています。しかし今現在は、クラシックカーと戯れる時間を作れそうにありません。

わたしは基本的には、クラシックカーは、自ら整備を行って、運転などをして楽しむものだと思っています。

【Question】インタビューの最後の質問です。メルテンスさんはアウディに何を期待していますか?

Dr. メルテンス:なにより大切なことは、我々ひとりひとりが、よりユーザー視点でモノを考える習慣を身に着けていくことだと思います。

その結果、場合によっては、自分がいまやりたいことを、いったん脇に置くことになるかもしれません。

しかし、そうした中から新しい発想が生まれ、新しい何かが花開いていきます。アウディのクルマ、我々が提供する製品は、さらに一層、人々の心を打つものになるでしょう。

アウディの本質とは、革新的なスピリットと、驚くほどの走る楽しさです。これまでもそうであったし、現在もそうであるし、将来もそうあり続けるでしょう。