アジア人唯一のエアレースパイロット・室屋義秀選手(Team FALKEN・43歳)が、6月4日(土)~5日(日)に幕張海浜公園(千葉市美浜区)で開催された「Red Bull Air Race Chiba 2016」に於いて遂に初優勝した。
この「Red Bull Air Race」として競われていてるエアレース競技は、空気で膨らませたパイロンの合間を、縦に横にも旋回しながら規定の機体姿勢で通過して最速タイムを競う飛行機レース。「空のF1」と称され、競技中の最高時速は370キロに達する。
日本初上陸となった昨年に続き、2回目の日本開催となった同レースだが、悲願の自国開催での初優勝に、幕張の海岸に集まった5万人の観客から大きな歓声が上がった。
「Red Bull Air Race Chiba 2016」は、世界各国から参戦した14人の選手がコンマ1秒以下を争うトーナメント戦を勝ち抜き、上位4選手で決勝を争う。世界各国を転戦するシリーズ戦であり、日本開催は今季シリーズの3戦目にあたる。
今回の千葉に於けるレースでは、1分4秒台の通過タイムが優勝を決する壁となり、各選手はこれに挑戦した。
しかし競技は、重力加速度に起因による数値制限が設けられている。これはパイロットに掛かる遠心力を、地球の地表面での重力加速度9.8m/s2を1とした「G」という単位によるもので、「0.6秒以上10G(上限12G)」を記録するとオーバーG規定に抵触して、その場で失格となる。
姿勢変化に移る際の速度が速過ぎたり、加速度が付き過ぎると、簡単に規定ルールに抵触してしまう。
加えて、今レースの舞台となった千葉・幕張は、風の強い海岸での競技となるため、特に高速で縦旋回をするバーチカルターンでは、10Gギリギリでフライトしていても、風に煽られて1Gが追加されてしまう時がある。
特に本番環境では、選手自身のパフォーマンスを試しながらの挑戦になることから、一層難しさが増し、各選手はレース開幕当初からオーバーG規定に苦しんだ。
そうしたなか室屋選手は、海上に設けた全長約5キロメートルのコースで時計を刻む様に1分14秒台を連発。
最後の決勝セッションに於いても、1分4秒992のタイムでゴールラインを潜る。これに追いすがり2位に食い込んだチェコのマルティン・ソンカ選手とは0秒105差での勝利となった。
レース後の記者会見で室屋選手は、「エアレースの操縦技術で永年、世界一を目指してきました。
しかし自身は単なる運転手(パイロット)であり、この勝利は機体の整備やセッティングを支えてくれたチームの総合力のみならず、ファンからの応援に支えられた結果、集中力を維持できたおかげ。
皆の後押しに心から感謝したい。またシリーズ戦はまだ3戦目を終えたばかり、残り5戦も応援をお願いします」と述べ、男泣した。
室屋選手は、大学でグライダーに乗り始めた頃から航空機の操縦技術への挑戦を開始。20年を超える鍛錬の後「Red Bull Air Race」への挑戦を開始して5年目を迎えていた。
なお今季は、米ラスベガスやハンガリーのブダペストなど世界各国を舞台に8戦により競われる。
以下はマスタークラス決勝パイロット達のコメント
1位:室屋義秀
とてもスペシャルな気分です。準備は整っていましたし、チームはハードワークを重ねてくれていました。
マルティン(ソンカ)とのタイムは僅差でしたが、ファンの後押しが優勝に導いてくれました。
25年のキャリアで初優勝ということで、随分長い時間がかかりましたが、最高の気分です。自分とチームにとって大きな記録になりました。ビールを飲んで祝いたいと思います!
2位:マルティン・ソンカ
千葉の前はややプレッシャーを感じていた。開幕戦と第2戦の結果に満足していなかったので、自分で自分にプレッシャーをかけていた。
その中で、チームが自分を良い状態に向けてくれたことに感謝している。今日の最速タイムを記録したのは驚きだったが、ファイナル4でもそれを再現しようとした。
だが、このレーストラックは高速なので、簡単にオーバーGになってしまう。そこに注意する必要があった。
3位:カービー・チャンブリス
素晴らしい1日だった。フリープラクティスではタイムが出せなかったので、チーム一丸となって機体を調整して、コンマ数秒でも機体を速くしようとした。
このスポーツはひとりでは戦えないので、チームとスポンサーに感謝したい。今日は気分良く戦えた。
千葉はタフなレーストラックだ。スピードを出すためには、どうしてもGフォースをかけなければならない。しかし、そうしようとすれば簡単に12Gを超えてしまう。
4位:ナイジェル・ラム
まずは、自国優勝という素晴らしい勝利を飾ったヨシ(室屋義秀)におめでとうを言いたい。彼はこれまで苦労してきたので、この先数週間は夢見心地だろう。
個人的にはファイナル4へ進出できて満足しているが、優勝を目指していたので、表彰台に上れなかったのは残念だった。
タイムにも満足していないが、スポーツとはそういうものだ。良い結果でも不満を感じる時がある。
とはいえ、今日は1日を通じて安定したフライトができていて、大きなミスもなかった。
レースウィークを通じてクリーンだがアグレッシブなフライトができていた。しかし、どこでミスをしていたのかをしっかりと振り返る必要がある。
今シーズンはどのパイロットもワールドチャンピオンを狙っている。私もまだ狙える位置にいるが、ファイナル4で結果を出すために何が必要かを見極めなければならない。
■今後の開催スケジュール
7月16日(土)/17日(日)ブタペスト(ハンガリー)
8月13日(土)/14日(日)アスコット(イギリス)
9月3日(土)/4日(日)ラウジッツ(ドイツ)
10月1日(土)/2日(日)インディアナポリス(アメリカ合衆国)
10月15日(土)/16日(日)ラスベガス(アメリカ合衆国)