トヨタ自動車株式会社(本社:愛知県豊田市、代表取締役社長:豊田 章男、以下トヨタ)は、米国で人工知能等の研究開発を行う子会社Toyota Research Institute, Inc.(以下、TRI)での自動運転技術等の進捗状況を公表した。
それによるとTRI・CEOギル・プラット(Gill A. Pratt)氏は「交通事故死を減らし、移動の自由や便利で楽しいクルマを提供するというビジョンの元、この数ヶ月で自動運転技術の研究・開発を急速に加速させてきた。
加えて、屋内での生活支援ロボットの開発に有用な機械学習等に関する研究も推進してきた」との所感を述べた。
このギル・プラット氏の所感に併せて、日本のトヨタ自動車も、自動運転に関する自社の考え方を包括的にまとめた「自動運転白書」(以下、白書)を公表している。
この白書は、トヨタの自動運転技術開発に関する指針や、現在取り組んでいる研究内容を表しているもの。
具体的には、近い将来の導入計画などをまとめたほか、各種インフラ整備や社会受容性の醸成など、自動運転を巡る今後の課題を様々なステークホルダーと共有し、社会的な議論を喚起することを目的としている。
より詳しくは、トヨタが考える自動運転技術開発におけるアプローチである、ガーディアン(高度安全運転支援)、ショーファー(自動運転)の両自動運転モードについての解説がなされている。
また人とクルマが同じ目的で見守り助け合う、気持ちが通った仲間のような関係を築くという、トヨタ独自の自動運転の考え方であるMobility Teammate Conceptも取り上げている。
トヨタの専務役員で、Chief Safety Technology Officerの伊勢清貴氏は、「自動運転には様々なメリットがあるが、トヨタが最も重要視するのは安全な交通社会の実現である。
システムだけでなく人や交通環境にも焦点を当てた研究を進めることで、モビリティ社会の究極の目標である『交通事故死傷者ゼロ』に向けて取り組んでいく」と述べている。
なお「TRI」の自動運転技術等に関する開発の進捗状況は、以下の通りである。
– 自動運転技術 –
TRIは、今年3月に自動運転実験車を公開した直後から、さらなる技術改良に取り組んできた。そこで、今回の改良版実験車の特長を以下に示す。
– より正確な認識モデル –
今回の改良版実験車では、ディープラーニングやコンピューター認識モデルにおけるTRIでの研究成果を反映。
現状の認識モデルよりも大幅に迅速・効率的で正確なシステムを用い、クルマが障害物や路面状況を検知しながら、周囲をより正確に理解し、より安全な運転ルートを予測できるようにした。
また、標識や道路上の白線などに関するデータを収集することで、自動運転に不可欠な地図情報の作成に活用できる。
– 新型LIDAR –
認識距離や映像処理能力が向上した米Luminar製の新型LIDARを搭載し、立体的な物体の位置をより正確に把握できる。また、視野を調整することができ、最も認識が必要な方向に焦点を合わせることができる。
– 助手席の運転装置 –
助手席にドライブ・バイ・ワイヤのステアリングやアクセル・ブレーキペダルを設置。複雑な運転環境において、ドライバーによる運転とシステムによる運転をどのように安全かつ効果的に切り替えるかを研究していく。また、人から運転を学んだり人に運転を教えたりする機械学習アルゴリズムの開発にも役立てていく。
– 2つの自動運転モード –
この実験車は、自動運転におけるガーディアン(高度安全運転支援)、ショーファー(自動運転)の両モードの試験を、一つのクルマで行うことができる。
上記のガーディアン(高度安全運転支援)とは、人がクルマを運転することを前提としつつ、平行して作動している自動運転システムが、衝突の可能性がある時に運転を支援して乗員を保護するという考え方。
具体例としては、ドライバーの注意が運転から逸れている場合や、居眠りの可能性がある場合をシステムが検知し、警告を表示した後、カーブを安全に曲がれるようにブレーキやハンドル操作を行うなどの状況が想定される。
ショーファー(自動運転)は人による運転を前提としない、米NPOのSAEインターナショナルが提唱するレベル4および5の自動運転に相当する。
例えば、これは管理されたコースでクルマが障害物を避けながら自律的に走行したり、隣の車線に同じ速度で走行するクルマがいる場合でも、前方の障害物を避けるためにクルマ自身が安全に車線変更したりする状況が想定される。
ガーディアン(高度安全運転支援)、ショーファー(自動運転)のどちらのモードでも、使用するセンサーやカメラ類は同じものを想定している。
なおTRIでは、実車を用いた試験に加え、技術的な仮説を正確かつ安全に検証するため、シミュレーションを積極的に活用している。
– 表示によるドライバー支援 –
このガーディアン(高度安全運転支援)並びに、ショーファー(自動運転)どちらのモードが作動しているかなど、自動運転システムの作動状況を色や音声で分かりやすく示す機能も搭載した。
また、ドライバーが周囲の危険などを認識しやすくするため、クルマがLIDARなどで認識した周辺画像をセンタークラスター上のスクリーンに表示し、有効性や使い勝手を検証していく。
– ロボティクス –
TRIは、屋内で人の生活を支援するロボットを研究する中で、ロボットが人と同じように物を器用に掴んで扱えるようにするための新技術などを開発してきた。
ロボット開発には、コンピュータービジョン技術や人工知能を活用。これにより、ロボットが人や物の存在や位置を把握。
指示を受けて物を運んできたり、物体が移動した場合でもそれを検知し、データベースに位置情報を蓄積したりすることができるようになる。さらには、人の顔を認識し、個人を識別することもできる。
しかしロボットが、現実の世界で体験しうるありとあらゆる状況を物理的に試験するのは不可能なため、TRIでは、実際の試験で得られたデータを活用しながら、シミュレーションの精度の向上を図ってきた。
そしてこうしたシミュレーションの積極的な活用を通じ、今回の進捗を達成した。
– 人工知能(AI) –
TRIでは、クルマの乗員が安全で快適に過ごせるようにするための人工知能(AI)活用を模索している。
具体的には、車載された人工知能エージェントが、ドライバーの姿勢や頭の位置、視線や感情を認識し、ドライバーのニーズや運転に支障をきたしそうになる状況を予測するシミュレーターを開発。
例えば、人工知能エージェントが、ドライバーが飲み物を手に不快そうな表情を浮かべたことを検知した際に、ドライバーが暑いと感じていると仮説を立てて、空調を調節したり、ドライバーが眠気を感じていると検知した際に、コーヒーを飲むよう提案する、もしくはコーヒーショップまで誘導したりすることができるようになっている。
– 以下はこの記事に関わる関連コンテンツ –
トヨタの自動運転への取り組み-ビジョン、戦略、開発(自動運転白書)は以下URLの通り:http://newsroom.toyota.co.jp/jp/automated/