日産自動車株式会社(本社:神奈川県横浜市西区、社長:西川 廣人)は10月3日の18時、社長の西川廣人氏自身が会見の壇上に立ち、同社製造在庫車両に関して、完成検査の不備に伴う登録再開に加え、現在、一般公道で走行運用されている既存登録車の再点検について大規模リコールを実施すると発表した。
これは去る2017年9月29日に、国内に於ける軽自動車を除く、日産車の販売会社在庫(6万台・21車種)について、登録手続き作業を一時的に停止すると発表した事に端を発するもの。
より具体的には、先の9月18日から9月29日に掛けて、国土交通省が、日産自動車の型式指定自動車(日産ブランドの自動車)を生産している国内事業所(日産自動車追浜工場・日産自動車栃木工場・日産自動車九州工場、日産車体株式会社及び、日産車体九州株式会社の国内事業拠点)への立入検査を実施。
このなかで車両製造の最終工程となっている完成検査工程に於いて、国土交通省の指摘により不備が判明した。
この不備とは、本来は社内規程に基づき、あらかじめ認定されている検査員のみが製造車両の完成検査を行わなければならなかったのだが、一部で認定資格を持たない製造従事者が、この完成検査を実施していたことが発覚したことにある。
これを踏まえ日産自動車では、未登録車の点検を速やかに実施。登録再開についても、全国の日産販売会社のサービス工場内に於いて完成検査相当の点検を実施する。
なお対象台数は、OEM車含む約3万4,000台となる。これに伴う登録再開時期は2017年10月3日としており、再点検完了後、登録開始が行われる予定となっている。
一方、既に登録車として市中で送り出され、現在、消費者によって利用されている既存車両の対応については、再点検を実行するべく、今週中に政府・監督官庁にリコール届出を行うとしている。
この際の再点検方法は、全国個々の日産販売会社のサービス工場にて、車両完成検査に準じた点検を実施する予定だ。
その対象台数自体は、2014年10月~2017年9月製造分が含まれることから昨週末時点から大きく膨らみ、約121万台に達することが判明した。
実施時期は先に通りで、今週中にリコールを国土交通省に届出後、速やかに実施する予定としている。リコール実施のコストは、この会見の段階に於いては120億円から250億円の幅になるとの見通しを示している。
日産自動車は、「本件に関連する原因調査および再発防止策については現在、第三者を含むチームによる調査を進めております。
このたびは、お客さま及び関係者の皆さまに多大なご迷惑とご心配をお掛けしましたこと、深くお詫び申し上げます」と結んでいる。
さて、こここまでの推移は、前週の9月29日時点で日産ブランドの自動車を生産している国内の複数事業所による各地の完成検査工程に於ける不備発覚の段階から、ある程度は予見されていた。
しかも、さらにその10日前にさかのぼる9月19日、同社のグローバル生産累計が1億5,000万台を突破したことを記念して、神奈川県横須賀市の主力生産拠点のひとつである追浜工場で、グローバル累計1億5,000万台生産の記念式典を行った直後であったことが、惜しまれる。
ちなみに、こうした製造物の瑕疵原因にもつながりかねない事案は、消費者保護の観点から民法の不法行為の特則として、欠陥ある製造物を流通に置いた製造業者等に無過失責任を負わせるための施策のひとつとしての製造物責任法などがある。
この法令の内容は対象が製造物であって、その引き渡した製造物の欠陥により、他人の生命、身体または財産を侵害した時は、これによって生じた損害の賠償責任を製造者が負うというもの。なお、この製造物責任が認められる主な要件には、以下が該当する。
- 損害を発生させた物が製造物であること。
- 対象者が製造物の製造業者等であること。
- 対象者が当該製造物を引き渡したこと(有償無償を問わず、製造業者等が自らの意思により製造物の占有を移転したことを指す)。
- 製造物の引渡し時点で当該製造物に欠陥が存在したこと(当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることを指す)。
- 消費者の生命、身体または財産が侵害され、当該製造物以外のものについても損害が発生したこと(観念的・精神的な損害のみ場合は除かれる)。
- 欠陥と損害との間に因果関係があること。
しかし本来、日本のモノ造り企業に対して、これに該当する事柄は、極めて例外的な場合に限られると考えられていたし、今もそうした認識を信じていきたい気持ちはある。
ただ、そもそも国土交通省による立入検査によって発覚に至った今回、問題の起こり方自体が非常にまずかった。
また併せて、そもそもこうしたことが論じられる自体が、日本国内に於いて、永年、数多の自動車製造事業者が積み上げてきた信頼を揺るがすことになる。
今後は、その後の対応について日産自動車自身が、どのように論理的な組立を背景に対処したかが大事であり、「発生の原因と経緯を記録に残し教訓にする」、「年月の経過と共に緊張感が消失する可能性を防ぐため、該当の監督官庁に対して取り組み状況の報告を定期的に継続していく」などで緊張感を持続させていくことも、そうした改善施策の一環になるだろう。
もちろん、企業・製造者自らの行動が、論理的な指針に沿っているかをセルフチェックすることも有効だ。
一方、唯一の幸いと云えるのかも知れない要素は、その不備を意識して隠蔽していた訳では無く、現場の認識不足が生んでいた節にある。
つまるところ、このような不備に至る大元は、従業員達がどのように身体を動かして仕事を消化していくかが改善の鍵である訳で、そこには、永い間に培われた企業文化があってこそ発揮し得ることでもある。
また筆者がある意味甘いのかも知れないが、翻ってみれば、そもそも大きな事故から、小さな不具合まで、全く問題が起きない企業は、おそらくこの世界には存在しない。
今回リコールの実施に至った事自体は、現段階では幸い大きな事故を生んでいない事から、このような不備を企業自らが認めて、改善努力を重ねていく事で、最終的には、それが原動力となって日産自動車が社会から、改めて信頼を勝ち得ていく道を造ることにつながるだろう。
そもそも、これが製造物責任を背景に設けられたリコール制度の本質である。大事なことは、外からは見えない社内問題を、自身で改善していける力を持っていることを、自らが外に向かって示すことにある。
おそらく今後、日産自動車では外部の有識者を招聘し、企業活動を外部から監査する組織を設置するだろう。我々消費者は、昨日までのモノ造り現場がより良く改善され、再び消費者の信頼を勝ち取るべく邁進する姿に期待を寄せていきたい。(坂上 賢治)