TRI、ボストン・ダイナミクスとロボット研究で提携


トヨタ・リサーチ・インスティテュート( TRI / Toyota Research Institute, Inc. / カリフォルニア州パロ・アルト )は10月16日( 米国東部標準時 )、ボストン・ダイナミクス( Boston Dynamics / 米マサチューセッツ州ミドルセックス郡 )と、人工知能とロボット工学の分野で協力することを明らかにした。( 坂上 賢治 )

上記ボストン・ダイナミクスは、高度で機動力を併せ持つ最先端ロボットの研究開発に取り組む米国企業。かつては国防高等研究計画局( DARPA )の支援の下、四足歩行ロボットのビッグドッグなどの開発実績を持つ。その姿勢は、製造施設、発電所、建設現場、倉庫&配送センターなど雑多な空間や移動が困難な空間での稼働を社是としている。なお現在は、現代自動車グループ傘下企業となっている。

今回の研究・開発に重きを置いた提携は、TRIのLBM( Large Behavior Models = AI駆動型大規模行動モデル / 会話系AIの大規模言語モデルことLLMと同じく複雑なコードを記述せずにロボットが自己学習して動作系スキルを学ぶ手法 )を用いて、ボストン・ダイナミクスのAtlas( アトラス )ロボット技術に立脚した高度な汎用ヒューマノイドロボットの開発を加速させることあるという。

このAtlasロボットは、極限環境下で機動性をどのように発揮できるかに始まり、人類が獲得した細やかな両手の使い方を学び取るに至るまで、綿々とヒューマノイドの進歩を支え続けてきたボストン・ダイナミクスのトライアンドエラーの積み重ねの成果だ。

実際、最新世代のAtlasは、各部位の精度を高めて多様な動作を作り出すことができるハードウェアと、その機能を自在に活かせるソフトウェアを組み合わせることで有能なヒューマノイドに仕立て上げたものになっている。つまり最新のAtlasロボットは、AIベースの自己学習を介して、スキルの自己習得を可能にできる理想的なプラットフォームである訳だ。

対してTRIは人間の能力を高める行動研究からスタート。人間との対話型自動運転の研究を深めていくことを経て、今やロボット工学のAI駆動型大規模行動モデル ( LBM ) の世界的リーダーとして米国内でも広く知られている。事実TRIは、オープンソースのロボットAIモデルとデータセットの開発で常に主導的な役割を果たしてきた。

そんなTRIは目下、電子計算機が画像や動画内のオブジェクトや人物を識別し理解できるようにするコンピューター・ビジョン( Computer Vision )と、大規模学習モデルを組み合わせた自己学習トレーニングを介して、ロボットによる精緻なマルチタスク動作を実現させることを最終目標としている。

この両社による共同研究についてボストン・ダイナミクスでCEOを務めるロバート・プレイター氏は、「ロボット産業にとって、今ほどエキサイティングな時期はありません。我々はTRIと連携して、汎用ヒューマノイドの開発を加速させていきたいと考えています。この提携は、強力な研究開発基盤を持つ2つの企業が協力して、多くの複雑な課題に取り組み、現実世界の問題を解決する有用なロボットを開発することにあります」と述べた。

これを受けてトヨタ自動車の主任科学者でTRIのCEOでもあるギル・プラット氏(博士)は、「AIと機械学習の最近の進歩は、身体知能を進化させるスキルを育む過程で大きな可能性を秘めています。今回、ボストン・ダイナミクスのハードウェアにTRIの最先端AI技術を実装する機会を得られれば、人々の能力を支えて生活の質を向上させるために日夜、取り組んでいる私たちグループ下のあらゆる組織にとっても、想像以上の成果を生み出せる原動力になるのではないかと考えています」と語っている。

なお今回の研究では、ボストン・ダイナミクスでロボット研究担当シニアディレクターを務めるスコット・クインデルスマ氏と、トヨタ・リサーチ・インスティテュートでロボット研究担当副社長を務めるラス・テドレイク氏が、ボストンを拠点にパートナーシップ体制を採って共同研究を主導していく。

両社では、「同プロジェクトは、双方の強みと専門知識を平等に活用するように設計されました。具体的にはAtlasロボットの物理的機能とプログラムを介した遠隔指示を組み合わせることで様々なタスクを与え、発揮するパフォーマンスデータを収集。こうして取得したデータは高度なLBMトレーニングに使用。全身センシングを活用できるヒューマノイドロボットによる自己学習を介して、人間との相互連携の効果や、安全性を検証する研究もおこなっていきます」と結んでいる。