トヨタ自動車(本社:愛知県豊田市、代表取締役社長:豊田 章男)は米国時間の1月6日、米国ネバダ州ラスベガスで開催するCES 2020(開催期間、1月7日~10日)に先駆け、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」のプロジェクト概要を発表した。(坂上 賢治)
このプロジェクトでは、2020年末に閉鎖予定のトヨタ自動車東日本株式会社 東富士工場(静岡県裾野市)の跡地を利用。将来的には175エーカー(約70.8万m2)で街づくりを進めるべく、2021年初頭から着工する。
今後は、先に住宅事業で連携を打ち出しているパナソニックなど、様々なパートナー企業や研究者と連携しながら、新たな街を作り上げていくという。
具体的には、人々の日常の生活環境のなかで、自動運転、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる実証都市を造り上げるというもの。
実施の狙いは、人々の暮らしを支えるあらゆるモノ、サービスが情報でつながっていく時代を見据え、この新たな街で技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回すことで、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることにある。
トヨタの豊田章男社長は、プレスカンファレンス実施会場の壇上から「網の目のように道が織り込まれ合う街の姿から、この街をWoven City(ウーブン・シティ)と名付け、初期はトヨタの従業員やプロジェクトの関係者をはじめ、2000名程度の住民が暮らすことを想定しています」と話す。
なお今プロジェクトでは、デンマーク出身の著名な建築家でビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)でCEOを務めるビャルケ・インゲルス氏が都市設計などを担当。
BIGは、ニューヨークの新たな第2ワールドトレードセンターやGoogleの新しい本社屋など、これまで数多くの著名なプロジェクトを手掛けている。
BIGの創業者でクリエイティブ・ディレクターでもあるインゲルス氏は「様々なテクノロジーにより、私たちが住む街のあり方は大きく変わり始めています。コネクティッド、自動運転、シェアリングのモビリティサービスは、現代の新しい暮らしの可能性を拡げるでしょう。
Woven Cityは、トヨタのエコシステムによって幅広いテクノロジーや業界と協業することができ、その他の街も後に続くような新しい都市のあり方を模索するユニークな機会だと考えています」と語っている。
Woven Cityの主な構想は、街を通る道を速度や利用者、利用デバイス毎に3つに分類し、それらの道が網の目のように織り込まれた街を作る。
街の建物は主にカーボンニュートラルな木材で作り、屋根には太陽光発電パネルを設置するなど、環境との調和やサステイナビリティを前提とした街作りを行い、暮らしを支える燃料電池発電も含めて、この街のインフラはすべて地下に設置する。
住民は、室内用ロボットなどの新技術を検証するほか、センサーのデータを活用するAIにより、健康状態をチェックしたり、日々の暮らしに役立てたりするなど、生活の質を向上させることができる。
また街の中心や各ブロックには、人々の集いの場として様々な公園・広場を作り、住民同士もつながり合うことでコミュニティが形成されることも目指しているという。
プレスカンファレンスでの豊田章男氏のスピーチ概要は以下の通り
皆さま、こんにちは。本日はお越しいただき、ありがとうございます。
CESに来ると皆さまも感じられることと思いますが、どんな業界も、今、それぞれ未来を予測しようとしています。
もし未来を見通せる水晶玉があるとしたら、今それを一番欲しているのは、我々、自動車産業だと思います。
真の自動運転車が出てくるのはいつなのか?
クルマはいつ空を飛ぶことができるようになるのか?
人の想いを理解するクルマはいつできるのか?
そして…クルマが巨大なロボットにトランスフォームできるようになるのはいつなのか?
私たちトヨタは、「トヨタ・トランスフォーマー」には取り組んでいないかもしれません。
しかし、コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化、すなわちCASEと呼ばれる技術やサービスによる未来づくりに取り組んでいます。
それらに加えて、人工知能、ヒューマン・モビリティ、ロボット、材料技術、そして持続可能なエネルギーの未来を追求しています。
現在、私たちはトヨタ・リサーチ・インスティテュートやトヨタ・コネクティッドをはじめとする、世界中にある様々な研究所で、これらの技術の研究開発に取り組んでいます。
ある時、私は、ふと思いついたことがありました。
これらすべての研究開発を、ひとつの場所で、かつシミュレーションの世界ではなく、リアルな場所で行うことができたらどうなるだろう、と。
日本のとある工場を閉鎖しないといけなくなった時のことでした。
富士山のふもとにある工場の跡地で何をすべきだろうと考え、このことが頭に浮かんできました。
ミシガン州にあるM-Cityのような、自動運転のための試験場を作ることも検討しました。
でもその時、(米国の有名なテレビ司会者である)オプラ・ウィンフリー氏が言うところの「アハ体験」がやってきて、ひらめいたのです。
そこにリアルな街を作ってみたら良いんじゃないのか?
そこに、本当に人が住んで、あらゆる技術を安全に実証してみるのはどうだろうか?
私たちはそう考えるに至りました。
そして、本日は、これを発表するためにここにやってまいりました。
私たちは、日本の東富士にある175エーカーの土地に、未来の実証都市を作ります。
人々が実際に住んで、働いて、遊んで、そんな生活を送りながら実証に参加する街です。
様々なことをコントロールできる実証環境が今まであったでしょうか。
研究者、エンジニア、科学者たちは、自動運転やモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、ロボット、スマートホームコネクティッド技術、人工知能などのテクノロジーを自由に試すことができます。
それもリアルな実証環境においてです。
これは、ゼロから「コミュニティ」、つまり「街」を作る非常にユニークな取り組みです。
様々なものがつながり合い、デジタルで、そしてトヨタの燃料電池技術を原動力にした持続可能な未来のインフラを作り上げることができます。
他の業界のパートナーとも仲間として一緒に取り組む機会となるでしょう。
世界中の科学者や研究者にも参画いただいて、2-3か月の間や好きな期間で、それぞれのプロジェクトに取り組んでもらうこともできます。
今回、このビジョンを実現する手助けを得るため、著名なデンマークの建築家であるビャルケ・インゲルス氏にプロジェクトへの参画をお願いしました。その時に、私たちはこのように考えていました。
ビャルケと彼のチーム、「ビャルケ・インゲルス・グループ」、通称「BIG」は、世界中に、素晴らしく画期的な建築物を生み出してきました。
彼らが手掛けるプロジェクトには、バンクーバーやニューヨークの高層ビル、ニューヨークの新たな第2ワールドトレードセンター、グーグルの新本社、レゴなどの企業のミュージアム、将来の水上コミュニティ、そして火星における未来のコミュニティさえあります。
私たちはすぐに意気投合しました。
そして、少しなまった英語を話す者同士、何か通じるものがあり、その絆はさらに深まっていきました
8か月に及び、私たちはともに調査を行い、検討を重ねてきました。
こちらが、私たちのビジョンです。
皆さま、それでは「Toyota Woven City」(トヨタ・ウーブン・シティ)について、ビャルケ・インゲルスさんからもう少し説明させていただきます。
ビャルケ・インゲルス氏
アキオ、ありがとう。
ちなみに、私はあなたの話す英語は最も美しいと思いますよ。
それでは、私たちがアキオと彼のチームと検討を重ねてきた構想をご紹介します。
今日の道路は、様々なものが混在していたり、何もなかったりと、ごちゃごちゃとしています。
そこで、まず、典型的な道を3つの異なるモビリティの種類で分けることから始めました。
一つ目は、スピードが速いモビリティ用の道です。すべての車両が自動運転で、ゼロエミッション車両です。道に植えられた木々により、人々と車両のエリアが区分けされます。
二つ目は、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードです。
三つ目は、歩道がある縦長の公園のような道です。
街のあるところから違うところまで、公園の中だけを通って歩いて行けるのです。
これら3種類の道路は、3×3の街のブロックとなり、それぞれで公園や中庭が形作られます。
このように道を分けることは、より静かな住環境を作り上げるだけでなく、トヨタによる自動運転とスマートシティのインフラの実証を加速させるべく、人間、動物、車両、ロボットなど様々なユーザーが行き交う幅広い種類の交差点を生み出すことにもつながります。
こちらは、街の代表的なブロックです。
屋根には、太陽エネルギーを収集するため、太陽光発電用のパネルが敷き詰められています。
建物は主にカーボンニュートラルな木で作られ、日本の伝統的な木の建具とロボットによる新しい生産方法を組み合わせて作られます。新しい技術を通じて伝統を維持・進化させるのです。
各ブロックでは、生活や仕事のエリアが共存しています。
地下には、水素燃料発電や雨水ろ過システムをはじめとする街のインフラがすべてあります。
モノの自動配達のネットワークも地下に作られます。地上の建物をひとつのネットワークにつなげるのです。
Woven Cityの住宅では、日々の生活を支援する家庭内ロボットなどの新技術の実証を行います。
これらのスマートホームは、センサーベースの人工知能技術を使って、冷蔵庫を自動で補充したり、ゴミを捨てたり、あるいは健康状態を自動でチェックしたりと、つながる技術を最大限活用します。
そしてもちろん、最大の目玉は、富士山の素晴らしい眺めが楽しめることです。
Woven Cityの地上で重要な役割を果たすのが、シェアリングや移動店舗に使用される自動運転車の「e-Palette」です。セントラルプラザの上にあるR&Dラボに荷物を届けたりもします。
また、e-Paletteはセントラルプラザにおいて様々な方法で活用され、市場、町の広場、イベント会場の賑わいを作り出すことができます。
テクノロジーや、ソーシャルメディア、オンラインショップによって、人々が集う場所や機会が減ってきている時代において、Woven Cityでは人々の交流を促す様々な方法を模索していきます。
結局のところ、人々のつながりは、充実感・幸福感や生産性、イノベーションにつながっていくののだと考えています。
以上、富士山のふもとに作られるToyota Woven Cityのご紹介でした。
ありがとうございました。
豊田章男
ビャルケ、ここにいる皆さまは「いつ入居できるんだろう」と考えていると思いますよ。
ビャルケ・インゲルス氏
はい、それは、きっと、あなた次第だと思いますよ、ボス!
今のところ、2021年初頭から段階的に着工する計画です。
豊田章男
今からたった1年後ってことだよね?
ビャルケ・インゲルス氏
はい。
豊田章男
分かりました。では、進めてください!
皆さま、ビャルケ・インゲルスさんでした。
Woven Cityの住人としては、トヨタの従業員と家族、退職したご夫婦、小売店舗、プロジェクトに参画する科学者、各業界のパートナー企業などを想定しています。
そしてもちろん、ここにいる皆さまもです!
まずは約2000名から始め、段階的に増やしてまいります。
このプロジェクトは、もしかしたら、私の「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年に公開された米国映画)かもしれません。
(映画の有名なフレーズにあるとおり)「それを作れば、彼らが来る」[If you build it, they will come]のです。
ゼロから街全体を作りあげる機会というのは、例えこのように非常に小さな規模であったとしても、多くの点で千載一遇のチャンスなのです。
私たちはまずバーチャル世界で街を作ります。
建設に入る前に私たちのアイディアを検証するために、デジタル上に対となる街を作るのです。
これは、私たちの新しい街で使う「独自のデジタル・オペレーティング・システム」を作ることにもつながります。おそらく他の人も使用できるようになるでしょう。
人や建物やクルマがデータやセンサーですべてつながり、互いにコミュニケーションを取ることで、バーチャルとリアルの両方の世界で人工知能技術を検証し、そのポテンシャルを最大化することができると考えています。
私たちは「人工知能」[Artificial Intelligence]を、(人間の能力を高めるものという意味合いの)「知能増幅」[Intelligence Amplified]に転換していきたいのです。
人工知能のネガティブな側面が増しているように感じる時代において、このプロジェクトは、誠実で信頼できる形で人工知能を取り入れていく機会となるでしょう。
また、世界中にいる、私たちと同じ志を持つ会社や個人と仲間になっていく機会とも捉えています。
実際、私たちと一緒にこのプロジェクトに参画することに関心がある方、また将来の暮らしを改善したいと思われている方はどなたでも歓迎する予定です。
ここまで聞いて、皆さま「この人、正気じゃなくなったのか?」「日本版ウィリー・ウォンカ(映画「チャーリーとチョコレート工場」の登場人物)なのか?」と思っていませんか?
そうかもしれません!
でもこれは、トヨタだけではなく、すべての人に嬉しさをもたらすプロジェクトだと私は信じています。
ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、トヨタは、最初、織機メーカーでした。クルマづくりから始めたわけではなく、布を織ることから始めました。
そして今、私たちの技術を使って、新しい種類の街を、そして人生を楽しむ新しい方法を織りなそうとしています。
「Mobility for All」(すべての人に移動の自由を)に取り組んでいる会社として、またグローバル企業市民として、特にトヨタのような会社は、世の中をより良くしていくために役割を果たさなければいけないと考えています。
これは、決して軽くはない責任と約束です。
そしてこのWoven Cityは、その約束を果たすうえで、小さな…、でもきっと重要な一歩となります。
ご清聴ありがとうございました。
トヨタ、コネクティッド・シティプロジェクトのブリーフィング動画(現段階・後々リンク切れの可能性あり) https://t.co/ikDGwY7FUk
— kenji sakaue (@CarGuyTimes) January 6, 2020