東京大学とNIMS、液体中の原子運動を可視化。高性能電池の開発に貢献


東京大学と物質・材料研究機構(NIMS)らの研究グループは、重元素を優先的に捉える「環状暗視野法」というイメージング手法を活用。液体中の金イオン1つひとつを明瞭に可視化することに成功した。

より具体的には、東京大学の生産技術研究所の溝口照康准教授と宮田智衆大学院生。そして物質・材料研究機構の上杉文彦主幹エンジニアらの共同研究グループが、電子顕微鏡により、液体の中にある原子1つひとつを可視化し、さらにそれらの原子が液体内部で不均一に運動している様子を、明らかにすることを世界で初めて成功した。

昨今の産業活動や生命活動に於いて、輸送担体や反応溶媒、潤滑剤などの用途で液体の利用は広範囲に広がっている。

こうした液体は、巨視的には均質に見えるが、原子・分子のスケールでは「個々の原子・分子毎に」、または「同じ原子・分子でも時間毎」に取り巻く環境次第で大きく異なってくる。

従ってこれらの液体の特性を個々に正確に理解していくためには、これらの原子・分子1つひとつの挙動を正確に捉えること。空間的・時間的な不均一性を十二分に把握しておく必要がある。

しかし液体中の原子は、往々にして長距離に亘って秩序構造を取ることはなく、さらに液体ゆえに運動性自体が高いことから、原子レベルでの解析が困難であり、このことが微視的な理解を遅らせてきた。

しかし今回の研究グループは、液体でありながら真空下でも揮発しない「イオン液体」という特殊な液体構造に注目。高い空間分解能を持つ電子顕微鏡を用いて、これの原子の動きを観察した。

この観察のなかで、これまでに彼らが独自に開発してきた試料作製法を生かしつつ、イオン液体に金イオンを分散させ、重元素を優先的に可視化できる「環状暗視野法」というイメージング手法を利用。液体中の金イオン1つひとつを、明瞭に可視化することに成功した。

また、さらなる連続撮影にも成功し、これによって金イオンが液体内部で移動 (拡散) する様子をつぶさに観察できた。

この結果、金イオンが動く軌跡から、ある時間では大きく移動し、ある時間では小さな領域に滞在するという不均一な運動をしていることを証明。

図3 は研究成果を基にした模式図。今回観察した液体は5角形の分子と金イオン (黄球) で主に構成されている。金イオンは5角形の分子に囲まれた領域 (ケージ) に滞在したり、ケージからジャンプしたりする。今回その様子を観察することに成功した。

同研究で明らかとなった金イオンの動きを模式的に「図3」の様に示唆した。そしてその移動量から金イオンの拡散係数と、その活性化エネルギーを見積もることにも成功した。

こうした液体は様々な製品に幅広く使用されている。特に今回用いたイオン液体は、不揮発性・不燃性・電気伝導性という特性から、安全な電池の電解質などとしての利用が期待されている。

今研究は、そんな液体中の原子1つひとつの運動を可視化した世界初の研究成果となった。また今後も同研究を発展させることで、液体内部で生じる様々な現象の理解が深まり、高性能な電池や溶媒の開発に大きく役立つと期待されている。

ちなみに同研究成果は、平成29年12月15日午前9時 (米国東部時間) に、アメリカ科学振興協会AAASが発行する「Science Advances」 (オンライン版) に掲載されている。