今年で記念すべき45回目を迎えた東京モーターショーは、自動車、二輪、車体、部品・機械、関連サービスを包括し、世界各地から150の出展者が東京ビッグサイトに集結した。
その内容も自動運転・シェアリング・スマート物流など実に多彩だが、そうしたなか、先に新設されたばかりの東7ホールに「モロッコ投資開発庁」が政府系ブースを構えている。
北アフリカ北西部に於いて「太陽が没するところ」を語源とするマグリブ地域。
その西端に位置する「モロッコ共和国」は、国王を元首とする立憲君主制国家であることから、他のアフリカ諸国より圧倒的に政情が安定しており、日本との共通点もある。
また国際政治の相関から見ると、同国は地中海連合・アラブ連盟・アラブマグリブ連合、そしてアフリカ連合(AU)に加盟。
しかもEU圏(スペイン・アンダルシア地方)とは、ジブラルタル海峡を挟んでわずか15Km余という立地にあるため、直近の国内総生産(GDP)は1千億米ドルを超えるほど豊かだ。
国民一人当たりのGDPも3千米ドルに目前に達するなど、近隣のアフリカ諸国と比較しても飛び抜けて高い水準にあり、むしろ我々アジア圏の新興国に匹敵するレベルにある。
そんな同国はかつて、埋蔵量世界1位のリン鉱石を中心とする鉱業と、生産量世界第6位のオリーブ栽培等の農産業が経済を支えてきた。
しかし近年では、衣料品などの軽工業を出発点に多くの海外企業が参入。その影響下で航空機・鉄道など製造業が大きく発展する。
そして今日では、50以上の国・地域と自由貿易協定(FTA)を締結していることも手伝い、今回の東京モーターショーにちなむ自動車生産領域に於いても、先の2015年に50億ドルの輸出売り上げを達成。
就労人口も同じ時期に8万人に難なく到達。同国行政府が腐心して、国内第1位の輸出部門に育て上げたことで、今や同国にとって自動車産業は大きな外貨獲得手段になっている。
結果この10年間、モロッコの自動車産業は安定的な成長を続けられたことで、自動車輸出総量でも2014年には38億ユーロに。翌2015年には自動車製造台数で40万台に。これが日本にオリンピックイヤーが来る2020年には100万の大台を突破するのだと云う。
ちなみに現在、同国の自動車製造ブランドは、ルノー日産とプジョーシトロエンの製造拠点が主力で、これに加えて日本の自動車部品・関連企業が進出し、都合9万人超の雇用を創出。
同国は欧州各国との自由貿易協定(FTA)が締結されていることから、欧米諸国への輸出も急伸。この地に於いて自動車産業のエコシステムの土台が築かれつつある段階にあるのだ。
そんなモロッコでは年間3千時間の日照機会と、同地域では珍しく水に恵まれた地理的・気象条件を持っていることから、小型水力タービンによる発電に加え、バイオマスなどによって先の2020年までに、国内発電の42%が再生可能エネルギーに置き換わっていくとしている。
これらの多彩なインフラ計画について、今回の東京モーターショーに合わせて来日したムーレイ・ハフィド・エルアラミ(MOULAY HAFID ELALAMY)産業・貿易・投資・デジタル経済大臣に訊くと、「我が国は現在、年間60万台の製造能力を持つ、世界でも有数の自動車生産拠点に育ちました。
そしてこれを踏まえて、我が国が次に目指す目標は、来る2020年までにその生産規模を100万台・100億米ドルの輸出売上規模に拡大させる計画です。
我々は、その目標達成に向けて、目下着実な経済規模の積み上げを続けています」と語っていた。
実際、輸出売上高に於いて2009年〜2015年の年間平均成長率は27%。同国内に於いて海外企業としては国内最大の雇用規模を誇ると云う住友電工を筆頭に、デンソーやジェイテクトなど、日本企業でも同国内に複数拠点を設けている。
例えば、先の住友電工に於いては、2001年にイタリア企業のワイヤーハーネス事業と工場を買収したのが皮切りであると述べている。
さらに同社は2006年にドイツ企業を買収するなど事業拡大を続け、今やワイヤーハーネスの欧州への供給基地としてモロッコ国内主要都市を中心に8工場を展開。約1万8千人を超える現地人材を登用している。
特に女性の就職率が男性の4割未満と低いモロッコに於いて、同社は飛び抜けて高い女性の就職率を達成していることから、同国民が愛して止まないモハメッド6世国王陛下から勲章「Wissam-Al-Alaoui」を贈られる栄誉にも浴している。
同国は、地中海を挟んで地理的にも経済的にもヨーロッパと密接な関係があることから、先のムーレイ・ハフィド・エルアラミ
産業・貿易・投資・デジタル経済大臣を筆頭に、日本から企業誘致に積極的だ。
今日、中国資本によるアフリカ地域への経済参入が相次ぐなか、同国は政治の安定を糧に、アフリカ地域と欧州の双方を足掛かりに出来る優位性を強みに、中国・インドに継ぐ次世代経済圏として、今世紀半ば向けて大きな期待を集めている。