SUBARU、新社長に米国販売会社を牽引してきた中村氏を擁立へ


株式会社SUBARU(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:吉永泰之)は、3月2日に実施した取締役会に於いて、現・専務執行役員の中村知美氏を新社長に据える人事案を内定。同日の午後、都内千代田区のホテルに報道機関を募って人事発表を行った。

これにあたって同社・広報では、「自動車業界を取り巻く変革期を乗り切り、SUBARUを更に魅力的なブランドへ成長させ、当社がより質の高い会社として、持続的に成長するための盤石な体制を築くため、経営陣の若返りと体制の一新をはかるものです」と述べている。

この人事案件は、来る6月に開催される第87期定時株主総会及び株主総会終了後の取締役会を経て、正式に決定される予定となっている。

社長人事に関わる内容は以下の通り。現社長の吉永氏より5歳若いものの、これまで4年間に亘って、米国の販売会社スバル・オブ・アメリカ(SOA)の会長兼CEOとしてSUBARUの成長を支えてきた現・専務執行役員の中村知美氏(なかむら ともみ・58歳)が、代表取締役社長、最高執行責任者(COO)に就任する。

なお、この人事により、永らく技術者が経営の中核を引き継いできたSUBARUにとって、営業畑の社長が二代に亘って続くという過去の例から見ると希に見る「新生SUBARU」を象徴するかのような流れとなった。

これを受けて現・代表取締役社長、最高経営責任者(CEO)の吉永泰之(よしなが やすゆき)氏は、代表権を持つ会長となり、最高経営責任者(CEO)の役割を引き継ぐ。

さらにそれに併せ、役員体制も刷新を図る。具体的には、これまで吉永泰之氏と共に富士重工業からSUBARUへと社名を変えていく期間、同社を懸命に支え続けてきた現・取締役会長の近藤 潤(こんどう じゅん)氏、現・代表取締役専務執行役員の日月丈志(たちもり たけし)氏、現・取締役専務執行役員の笠井雅博(かさい まさひろ)氏の3人は揃って退任する。

これに代わって、現・専務執行役員の大河原正喜(おおわだ まさき)氏と、現・常務執行役員、野飼康伸(のがい やすのぶ)氏が取締役専務執行役員に昇格するという内容だ。

ちなみに、この社長を含む経営陣の人事自体は、先の完成検査問題に伴う引責ということではない。

昨年6月に代表取締役社長就任7年目を迎えた吉永氏を含め、先の4人取締役達が、予てより相談しあっていた規定路線に沿ったものである。

会見の席でも吉永氏は、そうした不正問題が発覚する前年9月頃から先の近藤氏、日月氏、笠井氏の間で取締役の若返りを図ることを相談していた。また後任の社長に中村氏を据えることについても3人の意見が一致していたと述べている。

ただ、先の完成検査車問題も少なからず人事案に影響はしており、そのひとつが吉永氏が代表権のあるCEO職に留まったことにある。

その経緯は昨年、吉永氏を含む取締役達が経営陣の若返りを進めようと計画していた矢先の10月。完成検査の不正が発覚したことに端を発する。

その事件以前から吉永氏は、SUBARUが想定意以上に大きく経営規模を伸ばすという異例の好環境のなかで、経営上の「とある危機」に気付いていた。

それは右肩上がりに拡大し続ける同社の自動車事業のなかで、SUBARUの原点と云える技術者達、そしてそうした「現場」を支える生真面目な社員達の足並みが乱れてしまうこと。それにより同社の屋台骨が揺らいでしまう危惧にあった。

そこで同社の核心と云えるものづくりの現場である製造工場に。そして車両が販売好調で推移するなか、増え続ける顧客に対して真摯に応えてきた販売店にも心を寄せるなど、SUBARUの屋台骨であるいわば「現場」とのコミュニケーション連携、「現場」で働く社員達の環境改善に心血を注いできた。

しかし結果は、マーケットから求められるに乗じて、事業が急速に拡大していくという流れのなかで、吉永氏がもっとも大事にしたいと考えていた筈の「現場」に、経営規模拡大のしわ寄せが及んでしまったと、同氏も当日の会見で語っていた。

また吉永氏は、自らがCEO職を引き継ぐことに対して、「今日の役員会議でも話しましたが、ツートップのようになるつもりはありません。中村さんに権限をどんどん渡して、邪魔にならないようにしたいと思います」と語っており、また先の完成検査問題については、「企業体質を改善していく問題からも逃げずに、身近らで責任を持ちたいと思います」と述べている。

つまり吉永氏は、いずれSUBARUが完成検査などの「現場」に於ける様々な課題を克復し、現在の事業規模に対して、経営そのものが身の丈に合う様に成長していく方向性を見届けるまでの間、当面、側面から中村新社長を支え続ける考えのようだ。

さらにSUBARUには、もうひとつの課題がある。その鍵となるものはトヨタとの協業体制である。

現在、SUBARUとトヨタのアライアンスは、技術面で、目に見える協業を成果を獲得するまでには至っておらず、100年に一度の大変革期に直面している自動車業界のうねりのなか、SUBARUがトヨタとのアライアンスのなかで、どのように先導的な役割を演じていけるかが未だ不透明なのである。

しかし、その方向性の一端は、おそらく今夏発表されるであろう新中期経営計画で明らかになる。

かつてはエンジニアの発言権が強く、営業部門は蚊帳の外。独自技術を背景に尖ったクルマを作り続けてきたSUBARUを、利益を産むことのできるマーケット路線に乗せることに成功した吉永体制。

そんなSUBARUが、中村新社長体制に移行していくなか、同社の秘めたる可能性を、どのように伸ばしていくことが出来るのか。

今日、新たな船出を迎え、吉永氏のサポートが実を結び、SUBARUが自動車事業を含めた上で「真のグローバル企業」になっていけるかの分水点に立っていると言えそうだ。(坂上 賢治)