ムーヴは、軽トールワゴンブームの草分け的存在
ダイハツ工業(本社:大阪府池田市、代表取締役社長:井上雅宏)は6月5日、東京都内に報道陣を招き、新型・軽乗用車「ムーヴ」を発表。同日に販売を開始した。
そんなムーヴは、ダイハツが1995年に初投入した軽トールワゴン。当初のブームの草分け的存在として、過去28年間に於ける累計販売台数340万台超の看板車でもある。
しかしムーヴは、2023年6月の6代目の生産終了に伴い、早々に7代目が投入される予定だったものが、先の認証不正問題の影響も手伝い、発売延期。
一旦、ダイハツの車種ラインナップから消えて2年の時を経て、ようやく新型が初登場した。
この間、ダイハツでは認証不正問題(2023年4月に海外向け車両の衝突試験での不正行為、翌5月に国内向けの不正も発覚し12月に第三者委員会から174件の不正を指摘される)に係る再発防止に努めてきた経緯から、久々に登場した新型車であり、ダイハツ復活を印象付けるモデルだと言えるだろう。
新型ムーヴの投入を期に販売台数首位を狙っていく
そもそもムーヴとしての全面改良は何と11年振りのこと。この間に於いて、軽自動車の新車販売台数でスズキの後塵を拝するダイハツ(軽自動車の新車販売で2022年度までの17年連続首位、2023年にトップを譲る)としては、新型ムーヴの投入を期に販売台数の再びの積み上げを狙っていく。
今回の新車発表では、不祥事後の新型車投入とあって認証不正問題の質問が投げ掛けられるなか、ダイハツの井上雅宏社長(トヨタ自動車から移籍)は、「もっといい車を出していくのが我々の使命。新型ムーヴ発表は再スタートの第一歩となる。これからも引き続き、愚直に正しい仕事をしていく」と述べた。
製品説明で登壇した、製品企画部チーフエンジニアの戸倉宏征氏は、堅実な頼れるスライドドアワゴンをキーワードに軽自動車としての魅力を全方位で向上させたと語り胸を張った。
そんな7代目ムーヴとしての最も大きな特徴は、車両骨格にDNGA世代のプラットフォームを用いるなかで初のリアスライドドアの採用したところにある。
走行性能面では、自然吸気の内燃エンジンを搭載した「L」「X」「G」の3タイプの車種グレードに加えて、ターボエンジン搭載モデルの「RS」を組み合わせた全4グレード展開となっている。
ボディのホイールアーチ部に独特の絞りを入れ疾走感を表現
ちなみに同社では予てより、自社独自のシリーズ式ハイブリッドシステム「e-SMART HYBRID」を軽自動車へ展開する策も考えられると謳っていたのだが、現段階のムーヴに於いてハイブリットエンジン搭載車は用意されなかった。
また初代からのラインに加えられていたカスタムモデルは廃止された。但しメーカーオプションと販社オプションを組み合わせた2種類のアナザースタイル(モデファイパーツのパッケージ版)が用意される。
ボディーサイズは、ムーヴ自体が軽自動車規格最大であるため、全長✕全幅✕全高✕軸距が3395✕1475✕1655mm✕2460mm(4WD車は全高1670mm)で、全高が従来型より若干拡大した。
エクステリアは、フロントマスクに細身のLEDヘッドランプとグリルをひと繋がりとし、Aピラーをやや寝かせた上でショルダーラインが後端部でキックアップさせた。
その上で、ボディサイトホイールアーチ部に絞りを入れて疾走感を表現。リアは初代から受け継いだタテ型のコンビネーションランプを採用して、歴代のムーヴらしさを打ち出している。
ダイハツの名車「コンパーノ」の名前が付いた塗色も
ボディカラーは、新色のグレースブラウンクリスタルマイカを含む全13色。単色のモノトーンは、クロムグレーメタリック、コンパーノレッド(なんとかつてのダイハツの名車コンパーノの名前が付いた)、グレースブラウンクリスタルマイカ、サンドベージュメタリック、レーザーブルークリスタルシャイン、シャイニングホワイトパール、スカイブルーメタリック、ブラックマイカメタリック、ブライトシルバーメタリック、ホワイトの10色。
ツートーンカラーは、スムースグレーマイカメタリック✕グレースブラウンクリスタルマイカ、ブラックマイカメタリック✕シャイニングホワイトパール、ブライトシルバーメタリック✕スカイブルーメタリックの3色となる。
インテリアでは、オーディオユニットを定位置にセット。全体も低めの水平基調としてドライビングポジションを採った際の視界の拡がりが感じられる仕様となっている。
ファブリックのシート表皮は、X/Lグレードは落ち着いたグレージュ基調。RS/Gグレードはネイビーにシルバーステッチを組み合わせた。
なおドアアームレストにも同一素材を用いることで車内空間を統一させている。またRS/Gグレードはシルバー加飾やメッキ加飾で上質感を高めた。
振動感が少ない乗り心地、キビキビとした操縦性に腐心
走行性能面では、先の通りで車両の基本骨格がDNGA世代の軽量高剛性プラットフォームとした上で、サスペンションのスプリングレートやショックアブソーバーの特性を、よりシッカリ感を強めるよう調整。
振動感の少ない乗り心地や、キビキビとした操縦性の確保に腐心したという。
また最上級グレードのRSには、15インチサイズのタイヤ(他は14インチ)と専用のショックアブソーバーを装備。ターボエンジンのパワーに見合う操縦安定性を確保したとしている。
パワートレーンは、658ccの直列3気筒の「KF型」内燃エンジンが基本。これにRSグレードのみターボユニットを組み合わせた。
最高出力は38kW(52PS)/6900rpm、最大トルク60N・m(6.1kgf・m)/3600rpm。トランスミッションは全車CVT。RSには遊星歯車機構を組み合わせたステップシフト機能付きの「D-CVT」を採用した。
燃費は、WLTCモードで22.6km/L(4WDは20.6km/L)。ターボエンジン搭載車は最高出力47kW(64PS)/6400rpm、最大トルク100N・m(10.2kgf・m)/3600rpm、燃費は21.5km/L(4WDは19.9km/L)。
駆動方式は、2WDと4WDが選択できる。なお他車と比較でムーヴの場合、スロットル特性の作り込みに腐心し軽快な走りを目指したという。
車種グレード毎に訴求機能や搭載装備は異なる
機能・装備はグレードによって異なる。例えば新設されたパワースライドドアは、GとXでは5万5000円のオプションとなり、最廉価のLではパワースライドドア非設定。
上位3グレードでは、クルマに近づくだけでスライドドアが自動で開く「ウェルカムオープン機能」や、スライドドアが閉まると自動で施錠される「タッチ&ゴーロック機能」も搭載される(RSでは両側に、GとXは左側に採用)。
パーキングブレーキもグレードによって異なり、G/RSにはホールド機能付きの電動パーキングブレーキを採用。LEDヘッドランプのオートレベリング機能やアダプティブドライビングビーム(自動配光制御)も上位2グレードの専用装備となる。
先進運転支援システムでは、ステレオカメラ方式の「スマートアシスト」に加え、衝突警報機能や衝突回避支援ブレーキ機能は夜間の歩行者や二輪車にも対応。
全車速対応型のアダプティブクルーズコントロールと車線維持支援機能についてはRSは標準搭載。Gはオプション設定。
150万円を切る価格設定として買い得感を訴求
室内装備では、G/RSには電源用のUSBポートが標準搭載。販社オプションでは、自車の後側方を警戒する「ブラインドスポットモニター」。
ペダルの踏み違いなどによる急加速を抑制する「プラスサポート(急アクセル時加速抑制システム)」、グレードに応じてスマホ連携機能付きのディスプレイオーディオ、ナビゲーションシステム、携帯端末のワイヤレス充電器、HDMIソケットなども用意される。なおステアリング調整機構のテレスコピック機能は非搭載。
価格はRSが(FF)189万7500円~(4WD)202万4000円。Gが(FF)171万6000円~(4WD)184万2500円。Xが(FF)149万500円~(4WD)161万7000円。Lが(FF)135万8500円~(4WD)148万5000円。総じて最廉価グレードで135万円台という設定。
量販グレードのXで150万円を切る価格設定として買い得感を訴求した。月間販売目標は6000台、生産はダイハツ九州の 大分(中津)第2工場。
ダイハツは拘りを以て商品を選ぶ「メリハリ堅実層」を狙う
最後に誰向けに販売するかのメインターゲット層は、ダイハツ自身では、多くの消費カルチャーを経験した上で合理性と拘りを以て商品を選ぶ「メリハリ堅実層」としている。
おそらく子離れを済ませた1950年代~1960年代生まれの新人類世代が主力対象のようだ。
このためCMでは、山下達郎氏の書き下ろし楽曲を採用。大瀧詠一氏の「A LONG VACATION」を手掛けた永井博氏のイラスト上をムーヴが駆けるという1980年代のバブル時を思わせる設定。
これらは近年流行のシティポップを連想させる要素でもあるため、ダイハツのの思惑通りのユーザー層が首尾良く獲得できるか。もしくは意外なユーザー層からの支持を集めるかは、これからの推移を注目したい。