ボッシュが取り組む次世代を担うバッテリー開発への道
長寿命、最高の品質、最高水準の安全性など、自動車用高電圧バッテリーに求められることは幾多に及ぶ。
このため現在のリチウムイオンバッテリーは、最低走行距離15万km、また15年の製品寿命が達成できるよう設計されている。また自動車搭載用バッテリーに求められる一般的なレギュレーション上では、車両に搭載され、それだけ長期間使用を経た後でも、出荷時の80%の容量と性能を維持している必要がある。
ロバート・ボッシュGmbH(本社:シュトゥットガルト・ゲーリンゲン、代表取締役社長:Dr.rer.nat.Volkmar Denner、以下ボッシュ)のガソリンシステム事業部で、役員としてeモビリティを担当するヨアヒム・フェッツァー氏は、「コスト効率に優れ、パワフルで信頼性の高い自動車用高電圧バッテリーを開発するのは非常に難しいことです」と語る。
ボッシュは、今後5年間で現在の2倍の性能を持つ高電圧バッテリー供給を目指す予定だが、それと並行して、新しいバッテリー技術の研究も進めている。
未来を求めてGSユアサ+三菱商事と提携し新会社を設立
特にリチウムイオン技術は、今後数年で、さらなる進化の可能性がある技術だ。
ボッシュによると、現在のバッテリーのエネルギー密度は、約 115W h/kgだが、これをさらに280W h/kgにまで高められる可能性があるという。
そこで、次世代リチウムイオンバッテリーの研究をさらに推し進めるため、このほどボッシュは、株式会社GSユアサ(本社:京都市南区、代表取締役社長:依田誠、以下GSユアサ)と、三菱商事株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:小林健、以下三菱商事)の両社と提携。新たに合弁会社のリチウムエナジー アンド パワー社(Lithium Energy and Power)を、ドイツ・シュトゥットガルトに設立・設置した。
リチウムエナジー・アンド・パワー社に投じる各社の出資比率は、ボッシュが50%、GSユアサが25%、三菱商事が25%。取締役には、ボッシュからロルフ・シュパイヒャー氏、GSユアサから大原俊夫氏、三菱商事から柏木豊氏がそれぞれ就任し、従業員数はドイツと日本を合わせて約70人だ。
「この合弁会社が目指しているのは、現在の2倍の性能を持つリチウムイオン バッテリーを作り上げることです」と先のフェッツァー氏は述べている。
さらに「この目標を達成するために、各社がそれぞれの強みを結集させています。GSユアサは、セルの最適化で積み重ねた経験を、よりエネルギー密度が高く、走行距離の長いバッテリーの実現に活かし、一方でボッシュは、高い専門性を背景にバッテリーマネジメントと、システムインテグレーションの分野で貢献します」という。
近未来のポスト・リチウムイオンバッテリーの姿とは
ボッシュのコーポレートリサーチ部門は、リチウムと硫黄を組み合わせ、確実にエネルギー密度と容量を向上できる技術など、いわゆる「ポスト・リチウムイオン バッテリー」の研究に、積極的に取り組んでいる。
特にこの硫黄を使ったリチウム バッテリーは、最短で5年後には量産化の体制が整うだろうとボッシュは見込んでいるようだ。
そうしたバッテリーの基本性能を向上させるには、いくつかの方法がある。例えば、正極と負極に使用される素材は、セルの化学組成において重要な役割を果たす。
現在のほとんどの正極には、ニッケル、コバルト、マンガンの三元系(NCM)とニッケル、コバルト、酸化アルミニウムのニッケル系(NCA)、負極にはグラ ファイト、ソフトあるいはハード カーボン、またはシリコンカーボンが用いられているケースが多い。
鍵はセルの電圧とバッテリーマネジメント
これに封入される高電圧電解質は、バッテリーの性能をさらに向上させ、セル内の電圧を4.5ボルトから5ボルトに引き上げる。ただし、この技術には、性能を向上させつつ、いかに安全性と長寿命を確保する点で、幾つかの課題も残されている。
ボッシュは、高性能バッテリー開発に関連し、様々なセルをモニターならびに制御していくことに加え、システム全体のモニター制御にも力を入れている。
例えば、CANバスシステムを利用して、最大10個のマイクロコントローラーでセル内のエネルギー フローを制御するなどだ。ただし、こうした取り組みは、高電圧バッテリーの安定管理が課題だ。
その鍵は高度なバッテリーマネジメント技術にある。これに成功し、一定の方法論を見いだすことができれば、セルの化学組成を変えることなく、走行距離を最大10%伸ばすことも見えてきているという。
また電気自動車を、急速充電できる場所が増えれば増えるほど、バッテリー技術にも大きな影響を与える。つまりバッテリーをいつでもすぐに充電できるようになるとしたら、走行距離をさほど気にしなくても済むようになる。
バッテリーの進化に影響を与えるクルマの自動制御技術
今後、完全な自動制御車両が実現していくと、ドライバーの手をまったく煩わせることなく、車両自体が充電スポットを探せるようになるため、充電もより簡単になっていく。
実はこれについては既に、ボッシュ、VW、そして欧州の多くの大学が参加したV-Chargeプロジェクトでも実証済みである。
ここで、そのプロジェクトのアイデアのひとつを紹介すると、ドライバーが、駐車場でスマートフォンアプリを操作することで、電気自動車が自動で充電スポットに赴いて充電を済ませ、ドライバーが戻る際に、自動車が自動で指定のピックアップ場所に戻るというケースが考えられる。
もちろん、そのほかにも、多様な応用例を考えることもできる。ドライバーが携帯電話で、カーシェアリング用の車両をリクエストし、指定した場所に向かわせるといった操作も可能になると見られている。
高電圧バッテリーにとって自動車用はあくまで第一ステップ
他のケースでは、業務用車両において、その製品寿命がバッテリーの寿命とされている15年よりも短くなることが多い。この分野は、製品寿命を含め、バッテリーに関する需要が今日を迎えて、大きく変化しつつある領域となってきている。
また業務用車両の場合は、短期間にかなりの距離を走行するため、性能も容量も完全な状態にある新しいバッテリーを必要とする。
他方で短い距離を時折、走行する車両向けには、少し使用しただけのバッテリーで充分通用するケースもでてくるだろう。
バッテリーをそれらの要求条件に沿って使い分けることができれば、電気自動車の全体的なコスト削減につながっていく。
使用済みバッテリーの「セカンドライフ」プロジェクト
そもそも前述の通り、バッテリーは自動車の平均寿命とされる12年を過ぎても、出荷時の80%の性能と容量を維持している。つまり、バッテリーのコンポーネントは、その役目を終えた後でも、エネルギー貯蔵ユニットとして、大きな利用価値を備えているのだ。
ハンブルグでは、電気自動車の使用済みバッテリーを集めて、これらをつなげて大規模なエネルギー貯蔵システムを構築していくプロジェクトが進められている。
これが実現すれば、数秒以内にエネル ギーを供給し、電力網の安定化を図れるようになる。ボッシュ、BMWグループとバッテンフォールはこのプロジェクトで連携し、eモビリティとエネルギー貯蔵技術の推進に目下、取り組んでいる真っ最中だという。(坂上 賢治)
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