独フォルクスワーゲン AG(本社:ドイツ・ニーダーザクセン州ヴォルフスブルク、グループCEO:マティアス・ミューラー、以降VW)は、米国ネバダ州ラスベガスのコンシューマ エレクトロニクス ショー(CES2016)のプレスカンファレンス会場(同地・コスモポリタンホテル)に於いて「e-ゴルフタッチ」と「BUDD-e」の2台のコンセプトモデルを発表した。
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コンセプトモデル公開に先立ち、2015年7月にフォルクスワーゲン・ブランドの社長に就任したヘルベルト・ディース氏は、スピーチの冒頭でVW製ディーゼル車の排ガス不正問題に触れて、全世界110万台を対象に迅速な対応を進めていると、謝罪からスピーチを語り始めた。
今発表会場の米国内では、約50万台が今問題の対象となり、この地でより最良となる具体的な対応策に関して、米EPA(アメリカ合衆国環境保護庁:Environmental Protection Agency)と、カリフォルニア州CARB(カリフォルニア大気資源局:California Air Resources Board)と協議を重ねていると述べた。
なお同問題については、これが影響を与えたと考えられる2015年のグループ世界販売台数で、前年比2.0%減の993万600台となったことが判明した。
このニュースが世界を駆け巡った後の1月10日、フォルクスワーゲングループのマティアス・ミュラー社長も、米デトロイト市内の記者会見で謝罪を述べ、信頼の回復を急ぐ考えを示している。
なお米当局に於いては、同記事掲載の1月11日時点、来る1月14日までに同社が提出したリコール計画(無償の回収・修理)の妥当性が判断される見込みとなっている。
対象者オーナーへの具体的な補償プログラム策に関しては、上記リコール計画の判断が待たれる。ただ、その大元となる対象車両は、当初設定していた48万2,000台の2リッター車限定から、2009~2016年式・3リッター車の「トゥアレグ(Touareg)」等へと拡大される可能性が出てきた。
プログラムの具体策については、拡大する26万人の申込者へ対して、1000ドル相当のサービス提供がひとつの選択肢として挙がっている。
一方、CES2016壇上のヘルベルト・ディース氏は、今後「クラウドを介したモバイル・デバイスとして自動車を発展させる」と宣言。
クラウド・ベースのIT並びにIoTサービスと、車両の関係性をより強化していくと語り、その具体策の一例として、まず1台目のコンセプトモデル「e-ゴルフタッチ」を紹介した。
「e-ゴルフタッチ」の登場にあたっては、CESを運営するCTA(コンシューマエレクトロニクス協会:Consumer Technology Association)のゲイリー・シャピロ会長兼CEOが同車を運転して現れた。
この「e-ゴルフタッチ」は、スマートフォンとの連携機能等を強化した「モジュラー・インフォテインメント・ツールキット(MIB)」の搭載が大きな特徴のひとつとなっている。
これについて、フォルクスワーゲンで電子・電装開発部門専務を務めるフォルクマル・タンネベルガー氏は、「排気ガスゼロのEVをベースに、スマートで、安全で、楽しめることをキーワードに、直感的なユーザー体験の提供をします。
フォルクスワーゲンにとって、未来の自動車は決して複雑なものではなく、インテリジェントでフレンドリーなものであることを目指しています。
車両へのあらゆる操作は、物理的なボタンを介さず操作することができます。また9.2インチのタッチ式ディスプレイには、新世代のインフォメーションシステムが搭載されています」と語った。
その設計テーマは、現行のゴルフをベースに、近接センサーや自然言語処理による車両操作の活用を推し進めたもので、搭載機器には直接触らずに様々な操作ができる事柄を、大幅に発展させている。
なおメーターパネルには、グループブランドのアウディと同じく、NVIDIAのチップを使ったデジタルコクピットが採用されている。
車両のデモンストレーションでは、「ハロー、フォルクスワーゲン」と呼び掛け、「自宅にナビゲートして」などの言語による指示で目的地を設定することができる。
またスマートフォンをワイヤレス充電できる機能や、外部接続機器を接続するためのUSB Type-Cコネクタを備えた。もちろんアップルのCarPlayや、GoogleのAndroid Auto、MirrorLink対応。スマートウォッチ連携のアプリケーション開発環境も用意されている。
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続いて壇上に上ったBUDD-eは、1950年に同社世界初のバンとして、タイプ1(ビートル)をベースに誕生したトランスポルター1(Transporterea1)ことT1の流れを汲むもの。
キャディ、トゥーラン、シャラン、カラベルに続くクルマとして育ててきたコンセプトBulli(ブリー・ドイツ語でブルドックの意)を昇華させたものとなっている。
ボディパッケージとしては、新開発のモジュラー・エレクトリック・ドライブキット(MEB)を採用。4WDの駆動方式を持つ。
MEBはプラットフォーム環境としての汎用性が高く、EVパワートレインのモジュラー化を目指したこの動力環境と車台の組み合わせは、今後のフォルクスワーゲンブランドに於いて、EV車シリーズ拡張の基礎として重要な役割を担う。
ボディサイズは、全長4597mm、全幅1938mm、全高1834mm、ホイールベース3152mm。同社の現行ラインナップ上での比較では、SUVセグメントの「Tiguan(ティグアン)」ティグアンよりは全体イメージで大きく、「T5 MULTIVAN(マルチバン)」よりは小さい位置づけとなる。
https://www.youtube.com/watch?v=w7F0tdPWfsA
4WDのため前後にひとつずつ搭載されたモーターの最高出力は、235kw(317ps)、最高速150km/h、最大巡航距離230マイル(533km・NEDCモード・新欧州ドライビングサイクル)(※)が可能、30分間の急速充電にも対応する。
構造的には、車体前部に12ボルト仕様の高電圧パルスインバーター、DC/DCコンバーターをコンパクトにまとめ、蓄電容量101kWhのバッテリーはフロア下に収納するなど「クルマはホイール上の第2の家」と位置づけて、最大限の居住スペース確保に腐心した。
また単に居住空間の確保だけでなく、フロア下に収納したバッテリーは、車体底面に板状に低く搭載したことにより、重心を多く低くしたことから、高い路面追従性も可能となっている。
外観上の特徴では、車体外装面にドアハンドルを持たず、手をかざす等のジェスチャーや、ボイスコントロールでドアが開く。
加えてタブレット端末の情報を、次世代インフォテイメントシステム「In-Vehicle Infotainmen(IVI)」へ反映させ、さらに韓国の大手家電メーカーLGとの協業により、家電を筆頭とする住宅機器とのつながりなど、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)環境の充実も視野に入れている。
これについては、LGエレクトロニクスでクラウド事業部門を担うリチャード・チョイ氏が登場し、「クルマが家と、そして掃除機のような家電までつながるオープンなエコシステムを構築します」と語っている。
具体的には、自宅のドアフォンとBUDD-eが接続され、外出時に於いても、自宅への訪問者を車両のモニター画面に映し出す機能。
さらに自宅の鍵のロックやアンロックを遠隔操作し、訪問者を家に招き入れることも可能とした。
併せて既にボルボやアウディで試用・実用段階に入っている使い捨てで1度だけ利用する電子キーを、宅配業者と共有することで、BUDD-e後部の専用スペースを宅配ボックスのように使用することもできると述べている。
https://www.youtube.com/watch?v=BJd89yQ001Y
(※)NEDCモードとは、日本の10・15モードと同じく市街地や郊外を再現した走行パターンを組み合わせて燃費を測定する方式。
欧州の走行環境に合わせ、市街地を想定した低速の走行パターンを4回、郊外を想定した高速の走行パターンを1回おこなう。
平均速度は33.6km/h、最高速度は120km/h。市街地燃費、郊外燃費、総合燃費、CO2 排出量が測定結果として公表される。市街地モードでの停止回数が多く、また測定はエンジンが冷えた状態からおこなう。