半永久的に失われず、しかも既存の塗料より遙かに軽い「メタマテリアル・カラー」を創り出す
理化学研究所(所在地:埼玉県和光市、理事長:松本紘、以下、理研)の田中メタマテリアル研究室・田中拓男主任研究員(光量子工学研究領域フォトン操作機能研究チーム チームリーダー)、レニルクマール・ムダチャディ国際特別研究員らの該当研究チームは、アルミニウム薄膜で作った「メタマテリアル」で、可視光全域をカバーする「色」を作り出すことに成功した。
今日、ヒトが肉眼で見る自然界は無限の色に溢れている。そんなヒトの目で見える可視光(波長400~800nm)の色は、波長の短い方から順に紫・藍・青・緑・黄・橙・赤というように虹色のように分かれている。
太陽光には、これら全ての色が含まれており、白色光と呼ばれる。白色光が物質に当たると、その物質に特有の波長の光が吸収され、吸収されずに反射・透過された波長の光の色が私たちの目には見えることになる。
つまり、ヒトが多様な色を見ることができるのは、吸収される光の波長が異なるさまざまな物質が身の回りにあるからだ。
これを踏まえ、我々人間が物体に色をつけるために絵の具・インク・ペンキなどを使う。しかし、これらの塗装材料は強い光・高温・酸化などの影響を受けて、徐々に退色してしまう。
では、この色を半永久的に保つ方法はないのか?、その解決策の一つが今記事に挙げた「メタマテリアル」という物質である。
メタには「超越する」という意味があるが、その名の通り、メタマテリアルは自然界の常識を超えて光を自由自在に操ることができる人工物質であり、光の波長よりも小さなナノメートルサイズの構造(ナノ構造)を大量に集積することで造られている。
そして、このナノ構造の大きさや形を変えることで、吸収される光の波長を制御することができ、一つの物質からさまざまな色を作り出すことができる。
実はこれまでも、同様のメタマテリアルの研究はあったが、いくつかの理由で任意の色を自在に作るところまでは至っていなかった。
今回、先の理研の研究チームはスピンコーティング法、電子ビームリソグラフィー法、真空蒸着法などを駆使して、シリコン基板上の薄いレジスト材料の上に厚さ45nmのアルミニウム薄膜を塗布し、座布団形状のナノ構造を大量に作製する微細加工技術を確立した。
その結果、(1)青と緑の理研のロゴマークの再現(図参照)、(2)四角形の1辺の長さと四角形同士の間隔の組み合わせを変えることで、可視光全域の色をカバーするカラーチャートの作製、(3)異なる色を出すナノ構造を混在させることで黒色の発色に成功した。
この「メタマテリアル・カラー」の表面はアルミニウム薄膜だけでできている。アルミニウムの表面は空気中ですぐに酸化され、厚さ数nmの酸化アルミニウムの被膜ができるため、アルミニウムはそれ以上腐食されない。
従って半永久的に退色せず、化学的もしくは物理的に破壊されない限りメタマテリアルが呈する色は失われない。
加えてインクよりもはるかに軽く、ナノ構造の一つの大きさは光の波長より小さく、インクを使った印刷物のドットよりもはるかに小さいサイズであること。
さらにこの極微細な光の色の点は、アルミニウム薄膜上であればどこにでも作製できるため、高解像度ディスプレイとしての利用、光の散乱を避けたい光学機器(例えば大型望遠鏡)の内壁の黒色塗装、カメラのカラーフィルターなどに応用できると期待されている。
加えて、メタマテリアルの厚みが200nm程度と非常に薄いこともこの技術の特徴で、例えばペンキを1m角の広さに塗ったとすると重さは約130gになるが、メタマテリアルを同じ広さに作製すると約0.29gとなり、ペンキと比べて約500分の1の重さに軽減できる。
そのため、極薄・超軽量で半永久的に色褪せない彩色が可能になる。
なお同研究の一部は、防衛装備庁「安全保障技術研究推進制度」の支援を受けて実施された。また研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(4月26日付け:日本時間4月26日)に掲載される。