NTN、中国FSAT社とインホイールモーター技術のライセンス契約締結


FSAT社、乗用車タイプで世界初のインホイールモーター搭載EVにNTNが保有する技術を採用

NTN株式会社(本社:大阪府大阪市西区、代表取締役社長:大久保 博司)は、同社が保有する空冷式インホイールモーター駆動システム(以下、IWM駆動システム)と車両運動制御技術(i2-Drive System)を、中国の自動車設計・製造メーカ「長春富晟汽車創新技術有限公司」(以下、FSAT社)とライセンス契約を締結した。

今後はNTNが技術支援し、対してFSAT社はIWM駆動システムを搭載した軽量化新エネルギー車(新エネ車)の量産を目指していく。

FSAT社は、中国の電気自動車の新興企業であり、長春フォーズンオートテックと呼ばれている。FSAT社は、2017年10月に国営の中国の自動車メーカーであるFAW Groupによって設立された。

ちなみにこのFSAT社が量産する新エネ車には、CFRP製ボディとアルミ鋳造製シャーシを採用する等、FSAT社が持つ軽量化技術をベースに、NTNが開発したIWM駆動システムと車両運動制御技術を搭載する。

マクファーソン・ストラットとIWM駆動システム
マクファーソン・ストラットとIWM駆動システム

昨今、急速に電動化が進む国内外の自動車業界に於いて、電気自動車(以下、EV)の主な駆動方式は既存の内燃機関搭載の自動車と同じく、エンジン搭載部位に大型電動モータを搭載した1モータ駆動方式が主流だ。

これと対極を成すインホイールモーター車については、複数の自動車量産メーカーがインホイールモーターの関連特許を持つ他、この分野では、世界でも先駆的な役割を果たしてきた株式会社イーグルの清水浩社長(慶應義塾大学名誉教授)が送りだした試作車が多数存在するものの、現段階では未だ量産EVは誕生していない。

減速機付IWM駆動システム
減速機付IWM駆動システム

そうしたなかNTNは、2003年から次世代EV用にIWM駆動システムの研究開発に着手し、実証実験などを経て軽量化・小型化に向けた改良を重ねてきた。

今回、NTNが開発し、FSAT社の新エネ車に搭載されるIWM駆動システムは、前輪駆動車に多く採用される「マクファーソン・ストラット」レイアウトにインホイールモーターを組み込みことが可能な構造だ。そのホイール内に組み込まれたスタイルはNTN独自のものであるため、既存の内燃エンジン搭載車のサスペンション部品等との兼用が可能であるところが大きな特徴だ。

システム構成
システム構成

従ってNTNでは、新規設計を必要としない優れた適用性を有していると述べている。またIWM駆動システムは、減速機の採用によりコンパクト化と軽量化を実現し、併せて空冷式を採用することで構造の簡素化も図ったとしている。

1モータ駆動方式とIWM駆動方式の比較
1モータ駆動方式とIWM駆動方式の比較

さらにこのIWM駆動システム採用の結果、駆動輪毎の直接制御が可能となっていることから、NTNではヨーモーメントを制御する独自の車両運動制御技術「i2-Drive System」も開発・搭載を進めた。

この「i2-Drive System」は、各駆動輪のトルクを直接コントロールし、左右輪に駆動力差を生じさせ、発生したヨーモーメント(車両が旋回しようとする力)を高精度に制御する構造となっている。

具体的には、ドライバーのハンドル操作に合わせ、付与するヨーモーメント自体が車両の旋回性能を向上させる機能を備えている。

また各種センサで車両挙動を検知し、車両姿勢が不安定になった場合にも姿勢制御をアシストし、安定性を維持する。さらに各輪独立の駆動力コントロールによるトラクション制御や回生ブレーキを利用したABS制御も実現できるとしている。

こうした独自技術についてNTNは、「IWM駆動システムの量産化と、車両運動制御技術『i2-Drive System』の新エネ車への搭載を支援いたします。

新エネ車は2019年に量産開始し、2023年には年間30万台の量産が予定されています。NTNとFSAT社は、新エネ車を中国市場及びグローバルに展開し、低炭素社会の実現に貢献してまいります」と結んでいる。

ちなみに中国当地は、目下、世界に於いて最大規模を誇る電気自動車市場であり、2016年に於いて中国本国では世界市場の半分以上を占める24万台の電気自動車が販売されている(富士経済調べ)。このためNTNでは、中国からの年間のライセンス利益が来る2023年に、約6億5100万ドル(70億円)規模に膨らことに期待を寄せているようだ。

なおNTNは4月25日から開催される「北京モーターショー2018」(Auto China)にFSAT社と共同で出展し、IWM駆動システム、ならびに本IWM駆動システムが搭載された新エネ車の展示を行っていく。(中国国際展覧中心(旧館)1A号館280ブース)

軽量化・新エネ車の仕様について
主要諸元
– 全長×全幅×全高(mm) :4600×1800×1500
– ホイールベース(mm) :2630
– トレッド(mm) :1556/1506
– 車体形式 :5ドア5座席3ボックス乗用車
– 整備重量(kg) :1300
– 駆動モータ :インホイールモータ(2基、前輪駆動)
– インホイールモータ最高出力(kW) :35×2
– インホイールモータ最大トルク(N.m) :704×2
– 駆動用バッテリー :三元リチウム電池
– 電池エネルギー(kWh) :50
– 電池エネルギー密度(Wh/kg) :160
– 0~100km加速(s) :10
– 最高車速(km/h) :150
– 消費電力(kWh/100km) :11
– 航続距離(km) :450
– 懸架 :マクファーソン式/トーションビーム式
– ステアリング :EPS(電動アシスト転舵)
– 制動 :EPB(坂道補助、自動パーキング)
– タイヤ :205/55 R17
– アクティブセーフティ :ESC、DYC
– パッシブセーフティ :6安全エアバッグ/プリクラッシュシートベルト

FSAT社について
社名 :長春富晟汽車創新技術有限公司
(Changchun Fawsn Auto Tech Co.,Ltd) FSAT社ロゴ
所在地 :中国・長春汽車経済技術開発区錦程大街69号
代表者 :劉蕴博総経理
設立 :2017年10月16日
事業内容 :軽量化新エネ車(乗用車、商用車、特殊車)と重要アセンブリー(システム)のイノベーション技術の研究と製品研究開発及び製造技術サポート。