国立研究開発法人・科学技術振興機構(所在地:埼玉県川口市、理事長:濱口道成)は去る6月1日、神奈川県横浜市緑区の株式会社小野測器(本社:神奈川県横浜市港北区、代表取締役社長:安井哲夫)テクニカルセンター内の慶應義塾大学SIPエンジンラボラトリーに於いて、超希薄燃焼に挑む「スーパーリーンバーンエンジン」の燃焼デモ実験を行った。
近年、深刻さを増す地球温暖化や、いずれはやってくるとされる石油系エネルギーの枯渇を背景に、低炭素社会の実現につながる基礎研究が各業界で盛んに進められている。
特に自動車業界に於いては、世界の自動車保有台数が遂に12億台を超えるに至り、石油エネルギーの約4割が、ガソリン車やディーゼル車のエンジンの燃料として使われている。
そこで今日、同業界では次世代エネルギーユニットとして、電気や水素を用いたパワーユニットが研究され、既に実用段階に入っている。
しかし、それでも今後、大きな成長のうねりを迎える開発途上国を筆頭に、「今後30年間は、石油エネルギーの50%以上を自動車用エンジンが消費する(SIPプログラムディレクター杉山雅則氏談・トヨタ自動車パワートレーンカンパニー、パワートレーン先行技術領域長)」ものと予測されている。
これを踏まえ、「SIP革新的燃焼技術」を旗頭に「ガソリン燃焼チーム」を率いる慶應義塾大学大学院理工学研究科の飯田訓正特任教授は、現在40%に留まっているエンジンの熱効率を50%以上(最終目標52%)に高め、二酸化炭素の排出量を2011年比で、30%もの削減を目指す。
また「ディーゼル燃焼チーム」を率いる京都大学大学院エネルギー科学研究科の石山拓二教授は、同じくディーゼルエンジンの熱効率を50%にまで高める研究開発に取り組む。
ここでのディーゼル燃焼チームの技術テーマは、高速・低冷損・静音化技術の組み合わせにより、冷却損失と排気損失という2つのエネルギーロス低減に取り組むことにある。
さらに東京大学大学院工学系研究科の金子成彦教授は、「制御チーム」を率い、熱効率50%に貢献するモデリングと制御に取り組み、最先端の計測技術開発と3次元PM生成試行計算手法を開発。未来のエンジン設計に資する提供環境を実現しつつある。
そして最後に、早稲田大学理工学術院の大聖泰弘教授は、「損失低減チーム」を率いて、排気エネルギーの有効活用と、機械摩擦損失低減に取り組み、エンジンピストン表面の低摩擦化で残している大きな足跡を足掛かりに、さらなる超低摩擦化に取り組んでいる。
この以上の「エンジン燃焼」「ディーゼル燃焼」「制御」「損失低減」4つのチームによる、いずれも劣らぬ革新的プロジェクトは、国内の自動車メーカー9社と2団体並びに自動車関連企業60社からなる自動車用内燃機関技術研究組合(以降、AICE)、そして全国の80大学とで、強力な産学官連携の研究開発体制のスクラムを組み、未だかつて実現しえなかった遙かな目標に挑んでいる。
このなかでも、ひとつの代表例と言えるのが、スーパーリーンバーンと呼ばれる超希薄燃焼技術である。
例えば、ガソリンエンジンを例に挙げると、通常は、ガソリン1に対して空気量14.7が、最も燃料の燃焼に無理のない混合比(理論的空燃比)と云われている。
しかしエンジンの熱効率という見地から見ると、実のところこれが最適な燃焼とは云えず、よりガソリン量を減らして、より薄く燃やすリーンバーンエンジンの方が環境に優しい。
ただ、これまでに実用化されているリーンバーンエンジンの場合、空気量が先の理論的空燃比に対して1.5倍以下であった。そこで今プロジェクトでは、その2倍の空気を送り込む超希薄燃焼(スーパーリーンバーン)を目指している。
しかし、事はそう簡単ではない。よりリーンバーンを進めて空気の比率を高めると、燃焼が低温になり、燃焼速度が大きく減速する。このため熱効率が伸びないばかりか、シリンダー内で異常燃焼を引き起こす。
従って、それを克復し、より飛躍的に燃焼速度を上げていく必要があるのだが、そのためには強い渦流をエンジン内部に発生させる必要が出てくる。
けれども実は、こうした燃焼反応は、現代社会に於いても科学的に充分な解明がなされていない部分が多く、完全な解明を目指すには、時間も手間も天文学的に掛かってくる。
そこでこうした地道な活動では、資本投下の大小を問わずに取り組める大学の基礎研究が欠かせないのである。
先の「ガソリン燃焼チーム」の飯田特任教授は、熱損失を少なくする手掛かりとして、シリンダーの運動方向に対して、縦方向の混合気の流れを造るタンブル流が、燃焼着火がスムーズにすることを発見。この発想を糧に目下、超希薄燃焼の実現を急いでいる。
飯田特任教授は、「着火の向上、燃焼の促進、熱損失や排出ガスの低減など、全国26の大学と研究機関が6班に分かれて要素技術の開発を進めています。
熱効率50%の達成には、様々な要素技術の体系化、学際的な知見の融合が必要です。
従来の研究では、燃料成分に差があり、大学や企業間でのデータ比較が困難だったのですが、ガソリン燃焼チームでは、全ての大学・研究機関が使用する燃料成分を完全に統一し、一丸となって取り組んでいます」と語る。
実際、テクニカルセンター内の慶應義塾大学SIPエンジンラボラトリーでは、来る2020年に熱効率50%のエンジン燃焼技術達成を目指し、日夜研究と実験が重ねられており、一部にはその研究成果が出始めている(公開実験時点で45%を達成)と云う。
2014年のAICE発足以来、わずか2年。上記で紹介した4つのプロジェクトチームが果たしつつあるその著しい研究成果は、来る6月20日に開催される公開シンポジウム(東京都千代田区・一橋大学一橋講堂:於、午前10〜)でも公表される予定である。
SIP第2回「革新的燃焼技術」公開シンポジウム
http://www.jst.go.jp/sip/event/k01/20160620/index.html