昭和シェル石油株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長 グループCEO:亀岡 剛、以下、昭和シェル)のシェル美術賞は、1956年に創設されて以降、今年で59年目を迎えた。
そんな同美術賞では、作家の未来を応援する企画として、2012年より「シェル美術賞 アーティスト セレクション(略称SAS)」を開始。本年はその第4回として、今後の活躍が期待される作家として以下4名を選出した。
本江邦夫審査員長推薦作家
内藤 亜澄
1983年:神奈川県生まれ
2006年:東海大学教養学部芸術学科美術学課程卒業
2009年:世界絵画大賞展 本江邦夫賞
2012年:シェル美術賞 本江邦夫審査員賞
第22回ARTBOX大賞展 準グランプリ
2013年:個展「内藤亜澄 -あざやかに甦す-」ギャラリーアートポイント
2014年:個展「内藤亜澄展」ギャラリー椿・GT2
アートショウ釜山 ギャラリー椿ブース
ヤングアート台北 ギャラリー椿ブース
2015年:第10回タグボートアワード 準グランプリ
■参考作品:「君に見える景色」
■作品・製作について
私たちの世代がどのように形容されるか定かではないが、少なくとも多種多様なメディアに溢れ云々といった現代では、自分たちを取り囲む実物、二次媒体、記憶のイメージに差異、優劣が希薄で、個々の存在は非常に脆弱な関係性の基に成り立っている。
キャンバス上に描き出されたそれらの別々のイメージは、商品広告だろうが私的な写真だろうがそれは伝統絵画のように振る舞い、実物だろうが記憶の風景だろうがそれは画面上のモアレをおこす。
様々な領域を無意識的に行き来しながら差異なく保存していくイメージを、絵画という単一の方法で現していくことを目的としています。
■本江邦夫審査員長 推薦コメント
シェル美術賞2012の私の審査員賞となった内藤亜澄の、たぶん深刻な状況下、異様な、いやむしろ異形の風景のことはまだ鮮烈におぼえている。
帽子をかぶった男がひとり、プールを前にして、後ろ向きに佇んでいる。そのいかにも象徴的な背面像は、私たちと共に、あるいは逆らって、いったい何を見て、何を記憶しようとしていたのか。
私たちは顔も見せない彼に、本当に共感していたのか。整然と区分された不動の大地あるいは自然に比べて前景の人物も遠景の山や建物も、直立するすべてが、どこか妖しく揺らめく水面にも似て、自らを定め難く打ち震える、現実的にして非現実的な映像と化したかのようだった。
要するに、内藤亜澄の風景には不穏なものがあるのだ。そしてそこには狂おしい現実にさらされて、必死に自立しようとする、しかし点景物にしか見えない人物がいる。
風景=現実はまさに超自然―つまり圧倒的に壮麗だ。その前で、その中で私たちは途方に暮れつつも歩もうとしている。希望が無いわけではないのだ。
木ノ下智恵子審査員推薦作家
浦野 みお
1984年:奈良県生まれ
2009年:京都造形芸術大学大学院 芸術研究科 芸術表現専攻 修士課程修了
2006年:個展「≒ myself , ≠ myself」GALLERY SPACE ○△□/京都
2008年:個展「line in life」立体ギャラリー射手座/京都
シェル美術賞2008入選
2010年:個展「30センチ」立体ギャラリー射手座/京都
2011年:個展「おきにいり」立体ギャラリー射手座/京都
ORA展(コートギャラリー国立/東京)
2012年:創 これからを創るアーティストたち(いよてつ高島屋/愛媛)
2015年:個展「ニッカ +」喜多美術館/奈良
■参考作品:「うさぎになる前の」
■作品・製作について
身のまわりにある身近なものをモチーフにして描いています。例えばサンドイッチ、ケーキ、化粧品、晩ご飯のおかず、洗濯物。
どれも気にとめなければ見過ごしてしまうほど些細で、日常の中ではいつでも目にすることができるものです。しかし、「ありふれていること」は、実は特別なことであると私は感じています。
そこにあるのが当たり前のものがなくなってしまうことは想像することさえ難しいですが、もしも何か一つがなくなってしまったら、いつもの日常はちがったものになるはずです。ありふれていて、当たり前で、些細なものだからこそ、キャンバスに描きとめておきたいと思っています。
■木ノ下智恵子審査員 推薦コメント
“態度の美”
日常生活で見つけた身の回りのお気に入りの品々に目を向けてみる→そのモノの使途や機能や仕様も含めて、愛おしさを注ぐ対象として選びとる→とるに足りない、ささやかなモノをかけがえのない大切な画題として抽出して時間をかけて描く。
このストレートな制作態度があまりにもストレートであるためか、描画の作法が、画面一杯に構成されたモノのサイズの拡大や色のサンプリングによって記号化されたようであるためか。一見すると抽象画と見紛うほどに、あっけらかんとしている。
一連の作品群は、その明快さ故に、一言で “日常生活で出会うモノへの愛着”と片付けてしまいがちだが、改めて、モチーフが示す問いについて考えてみると、私たちの豊かな消費社会における”記号としての物の姿”が見えてくる。描かれた”物達”は、長い年月をかけて身近に在り続ける愛着の対象というよりも、”食べてなくなる物”や”ある程度の期間を経て使って無くなる物”あるいは”そのひと時にのみ形を留めている物”である。
よって、ここで見いだすべきは”形式の美”ではなく、消えて失せる”物達”への愛着、つまり、物を記号として消費する社会構造を容認し続ける”私たち”から、それ自体で存在する”物達”への返礼、あるいは救霊を表した”態度の美”なのではないか。
保坂健二朗審査員推薦作家
伏見 恵理子
1987年:埼玉県生まれ
2014年:武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻油絵コース修了
2013年:ワンダーシード2013 入選
トーキョーワンダーウォール公募2013 入選
シェル美術賞展2013 入選
2014年:トーキョーワンダーウォール公募2014 入選
「富士山アーティスト・イン・レジデンス作品展」富士芸術村(静岡)
個展「文字の風景」数寄和(東京)
2015年:New Creators Competition 2015 入賞展覧会企画「かつてとの遭遇」静岡市CCC(静岡)
「第5回新鋭作家展二次審査作品公開」川口市立アートギャラリー・アトリア(埼玉)
■参考作品
「文字の風景」
■作品・製作について
物として決まったサイズを持たない文字をモチーフとするような感覚で、形の内部にある何か広い風景を見つけたくて描いている。
机に水平に置いた紙に描いたときに筆跡となったにじみやかすれを、浸透性が異なる素材である画布にサイズを拡大して描いていく。紙の上のにじみやかすれといったテクスチャーを見直し、うつしとろうとするときに、紙と画布のしみこみの差は2つの絵の質にずれを生じさせる。
あらかじめ絵にあった形象の意味は解体され、離れたものがくっついたりして、やがて新たなイメージを想起させる形が生まれてくる。
それは自らの内部に外部を含む感覚であり、異なるものの間の移行において2つが似ながらもずれていくことによって、既知の風景から未知の風景が生まれることを望んでいる。
■保坂健二朗審査員 推薦コメント
伏見の絵画の魅力は、心地のよい得体の知れなさにある。たとえば、キャンバスに描かれているのだけれども、筆触はどこか水彩の紙作品を思わせる点がそうだ。
風景が描かれているようなのに幾何学的な構造体も描かれている点もそう。しかもその構造体は樹木のようにも見えるし色彩も筆触も他となじんでいるから、大きな違和感は生じない。
また、風景に見えるこの作品を前にしては自ずと奥行きを感じたくなるが、どこかモノプリント的なにじみのある色面があるので平面性も感じる点も、得体の知れなさを感じる理由となるだろう。
しかもその平面性は強烈ではなく、こう言って良ければ、透明感のある(逆説的に「極薄の厚み」を感じる)平面性である。そして、モノプリント的な印象は、「この作品は紙作品である=普通の紙くらいで大きくはない」という予測を引き出すが、実際のサイズは結構大きい。
こうした得体の知れなさが生み出す揺れ動きをあえて淡さの中でまとめようというところに、作者の強い意志を感じるのである。
昭和シェル石油推薦作家
牛嶋 直子
1979年:群馬県前橋市生まれ
2009年:女子美術大学大学院美術研究科日本画研究領域修了
2009年:女子美制作・研究奨励賞
2011年:前橋市収蔵美術展「コレクション+風景の裏側」出品
2012年:第五回 東山魁夷記念日経日本画大賞 入選
シェル美術賞2012 入選
2013年:アーツ前橋開館記念展「カゼイロノハナ」出品
2014年:個展「遠い声、小さな祝祭」画廊翠巒
2015年:牛嶋直子展 ガレリア・グラフィカ
■参考作品
「耳をすます」
■作品・製作について
今は主に夜の風景を描いています。それはどこか既存の風景ということではなく、どこにでもあり又どこにもない匿名の空間です。
記憶の中でフォーカスされ、純化された世界。それは過去からも未来からも切り離された、近くて遠い風景とも言えます。私の作品に人物や動物は登場しませんが、静かな闇の世界に灯る光に生命の息づかいを宿すような気持ちで制作しています。
無機と有機、硬さと柔らかさ、聖と俗、それらの均衡を保つことが、画面を作る上で大切な鍵となっています。
社会に対する強い主張は絵の中にはありませんが、この疾風怒濤の現代の中で、何からも自由で押し付けがましくなく、ふわりとただそこに存在していたい、そしてできることなら何らかの感情を喚起するものでありたいと思っています。
■昭和シェル石油 推薦コメント
牛島直子の作品は、いつかどこかで見かけたことのあるような、遠くの町中やにぎやかな競技場の明かりをぼんやりと優しく映し出している。
しかし、現実とはやはり一線を画していて、作家本人自身の想像やイメージが織り交ぜられた独特な世界観を創り出している。
懐かしさや郷愁を感じるその絵の世界を見つめると、さらにその絵を見る人の記憶と合わさり、様々な思いや感情、物語が生み出されていくだろう。
【シェル美術賞について】
昭和シェルは、「関係各位のご理解とご協力を得ながら、そして何よりも美術をこよなく愛する多くの若手作家の熱意に支えられながら「画壇の登竜門」との評判を頂くまでに成長して参りました。
今後もシェル美術賞を更に進化させ、現代美術の発展に寄与し続けるべく、次の半世紀へ向けて歩みを進めて参ります」と述べている。
シェル美術賞 アーティスト セレクション(SAS)2015 作家紹介ページ
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