McLaren-Hondaは、グリッド後方に甘んじてきましたが、そのトンネルの出口は見えつつあります
F1世界選手権は前半戦を終え、目下、約1カ月の夏休みに入っている。本田技研工業株式会社(本社:東京都港区、社長:八郷隆弘、以下、ホンダ)では、その直前にF1プロジェクト総責任者である新井康久氏(株式会社本田技術研究所 専務執行役員 F1プロジェクト総責任者)の談話を発表している。
2015年の前半戦を振り返っていかがでしょうか?
新井康久氏:「本当にタフな戦いが続きました。ウィンターテストから序盤の数戦まで多くの問題を抱えていましたが、幸いそのほとんどは解決したので、いよいよ前に進み始めることができています。後半戦は、いい戦いができる感触を得ています」
具体的には、どの領域で苦労しましたか?
新井康久氏:「我々のパワーユニット(以下、PU)はコンパクトなレイアウトで、それが高い競争力につながると考えていますが、そのパッケージゆえに熱の問題に悩まされました。
問題となる箇所は特定できたので、後半戦ではその解決に向けて新たなパーツを投入して出力をアップし、競争力を強化していきます」
「F1への挑戦」というハードルの高さをどのように想定していましたか?
新井康久氏:「McLaren-Hondaの過去の功績により、ファンの皆さんはすぐに好成績が残せると期待されていたと思います。
しかし、McLaren-Hondaが常勝だった頃からF1の世界は大きく変化しており、そう簡単に勝てるものではありません。現代のF1は、当時よりはるかに進化しており、速いマシンを作り上げるのは難しくなっています。我々も簡単ではないと予測していましたが、これほどにも難しいとは思っていませんでした。
我々が直面している技術的なチャレンジは想像を超えていましたが、自分たちのPUの方向性には確固たる自信があります。トップチームに勝つためには、全く新しいことをしなければ実現しませんから、それを成し遂げることが我々の目標です」
技術的に想定外だったのはどんなことですか?
新井康久氏:「PUのパッケージに関する現行の規定はとても複雑で、一つのコンポーネントが起こす小さな不具合が、ドミノ倒しのように連鎖して他の部分にも影響を及ぼすことが分かりました。
例えば、MGU-Hからエネルギーを取り出すときです。ターボに大きな負荷がかかることで、より多くの空気を取り入れて出力を上げるというターボの本来の仕事ができなくなり、出力が減少するという事態に陥ります。
このように、一つのコンポーネントが他の部分に影響を与え、その仕事を阻害するといったケースが出てしまいます。
こうしたマシンをストップさせるような連鎖反応が、事前の想定や計算を超えて発生しました。難しいのは、トラック上で実際にマシンを走らせずに、正確な計算をしなければならないことです」
後半戦での目標は?
新井康久氏:「まず、ハンガリーは技術的に見てひとつのきっかけになりました。エンジニアたちは、ハンガリーに持ち込んだPUを、各ドライバーのドライビング特性や路面状況に合わせて最高のパフォーマンスが発揮できるようセッティングしてくれました。
ハンガロリンクはPUにとって慌しいコースで、コーナー毎に微妙な出力調整が求められます。これは言葉で表わせるほど簡単なものではありません。後半戦に向けては、我々の進化の再確認の場となるでしょう。
また、信頼性の問題はすでに解決済みですので、これからは出力アップに全精力を注ぎます。夏休み明けには残り7つのトークンのうちいくつかを使い、新しいスペックのエンジンを投入します」
トークンはどの部分に使う予定ですか?
新井康久氏:「燃焼が最も重要なポイントです。現行ルールでは高効率な燃焼が必要なので、燃焼室を変更し、給排気システムのレイアウトを変えることで、燃焼特性を向上させます。
また、フリクションの低減も図るため、燃焼系の改善とともにギアトレインの変更も行っていきます。
すべてのアップグレードをスパ(ベルギー)で投入するのではなく、いくつか段階的に入れていきます。後半戦はレースごとに向上していく計画です」
2016年に向けた準備はいつから始動するのでしょう?
新井康久氏:「16年シーズンを見据えてはいますが、まず2015年の後半戦について集中しています。
16年もレギュレーションは変わりませんので、16年に向けたアイデアも、可能であれば今年中に投入していきます。
残念ながら今後もペナルティーを受けてしまうとは思いますが、車体、PU双方が大幅なパフォーマンス向上を果たします。スパ以降は、レースを重ねるごとに改善していき、表彰台を争える位置を目指し、レースに挑みます」
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