スズキ初の量産型ピュアBEV「eピターラ」プロトタイプ試乗

スズキ( 本社:静岡県浜松市、代表取締役社長:鈴木俊宏 )は先の6月、千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイ( 千葉県袖ケ浦市林妙法台384-1 )へ報道陣を招き、自社初の量産型ピュアBEV「eビターラ」を日本仕様に仕立てたプロトタイプの試乗会を開いた。

また7月10日には、特設サイトを介して同車の先行情報を、日本国内市場に向けて公開した。それによると今年中に日本国内での導入・販売を予定しているという。

そんなeビターラは、かつて海外販売向けSUVのエクスードに付けられていた車名ピターラを、ピュア電動車としてリリースするべく「eビターラ」として改めて命名したもの。従って立ち位置的には、スズキとしては初の量産型ピュア電動SUVとなる。

このあたりは、2023年のジャパンモビリティショーで披露された「eVX」に始まり、2024年11月にイタリア・ミラノでeビターラとしてワールドプレミアされたこと。

更に2ヵ月後の2025年1月にインド・ニューデリーの「バーラト・モビリティ・グローバル・エキスポ2025」でも一般公開されていることから、既に承知している読者は多いだろう。

車両生産国は、前述のインドでの発表でアナウンスされた通りで、全量インド国内生産車(具体的な工場拠点については現段階では非公開)となっている。従ってeビターラは、輸入車扱いで日本市場へ投入される。

また内燃エンジンを搭載していたかつての旧ピターラもSUVモデルではあったが、刷新されたeビターラとしての車格は、EV専用のHEARTECT-e(ハーテクト・イー)プラットフォームが採用された結果、全長×全幅×全高が4275mm×1800mm×1640mm、ホイールベースが2700mm、トレッド1540mmのBセグメントSUVとなって大型化した。

最小回転半径は5.2m。最低地上高は185mm。走行モードはスロットルレスポンスが異なる「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の3種。回生ブレーキの強さはオフを含めると4段階から選べる。停止後に再発進できる斜度はFWD車で26.8°となっている。

パワーユニットベースの車両構成は、49kWhのバッテリーを搭載する標準グレード車(フロントに106kWのモーターを積むFWD)がひとつと、61kWhバッテリーを積むふたつの上級グレードの都合3タイプが用意される。

上記の上級グレードのうち、ふたつの61kWhバッテリー車には、フロントに128kWモーターを積んだFWDモデルと、フロント128kWモーターを積み、更にリヤに48kWモーターを積んだ4WD仕様がある。

いずれの車両も、バッテリーにはBYD傘下のフィン・ドリーム・バッテリー(FinDreams Battery)製のリン酸鉄リチウムイオン(LFP/49kWhが96セル、61kWhが120セル)を採用。バッテリーモジュール自体は車体構造上の剛体として活用されている。

モーターが内包されたeAxle(eアクスル)は、アイシンとデンソーが45%ずつ、トヨタが10%の出資をしたBluE Nexus(ブルーイーネクサス)製だ。

充電性能は、49kWhモデル、61kWhモデル共に普通充電では最大6kW(200V×32A)の性能を備える。気になる急速充電性能は、最大200A=400Vシステムとして出力90kW相当での充電性能であることだけが明らかにされている。

より詳細な充電時間で普通充電時(10→100%)は、16A(3kW)モードで49kWhモデルが約15時間。61kWhモデルは約22時間。32A(3kW)モードでは49kWhモデルが約8.5時間。61kWhモデルでは約10.5時間というもの。

更に急速充電(10→80%)の125A(30kW)モードでは、49kWhモデルが約55分。61kWhモデルが約55分。200A(90kW)の急速充電(10→80%)モードでも、49kWhモデルが約45時間。61kWhモデルでも同じく約45時間と同一の所要時間となっている。

これを踏まえると、どうやら総合的な充電性能では61kWhバッテリー搭載車の方が、より高性能設定であることが現段階でも判る。加えて3モデル共通で、冬期の急速充電性能を高めるべく走行中や急速充電中に、バッテリーユニット自体を温める機能が搭載されている。

いち充電あたりの走行距離は、前輪駆動の49kWhモデルが400km以上、前輪駆動の61kWhモデルは500km以上。4輪駆動の61kWhモデルは450km以上というスペック。車重はシングルモーターの前輪駆動モデルが1700kg台、前後ツインモーターの4輪駆動モデルで1800kg台となっている。

またフロントセンターコンソールの背面には1500Wの電気を取り出せるコンセントを設置した他、CHAdeMOの急速充電ポートも給電コネクターとしても機能する。

サスペンションは前がマクファーソン式、後ろが3リンク式。回生ブレーキ、キャリパー一体式電動パーキングブレーキはアドヴィックス製。

ブレーキローター自体は前後ともベンチレーテッドタイプとなっている。ホイールは、足元の軽快さに配慮したアルミホイールとしており、これに空力性能を高めるべく樹脂製フルカバーキャップを組み合わせている。

プロトタイプ車車両が履いていたタイヤは、225/55R18 98Vのオールシーズンタイプ(グッドイヤー・エフィシェントグリップ2 SUV)。そのトレッドパターンは舗装路での転がり性能の高さを想像させるタイプだ。

ボディカラーは、ルーフがブラックの2トーンが仕様の「Land Breeze Green Pearl Metallic(ランドブリーズグリーンパールメタリック)」「Splendid Silver Pearl Metallic(スプレンディッドシルバーパールメタリック)」「Arctic White Pearl(アークティックホワイトパール)」「Opulent Red Pearl Metallic(オピュレントレッドパールメタリック)」の4タイプ。車体全体がモノトーンカラーの「Bluish Black Pearl(ブルーイッシュブラックパール)」1タイプの5色展開になる見込みだ。

スタイリングは、Bセグメントのプラットフォームを備え全幅が1800mmとトヨタ・ヤリスやホンダ・フィットに比べると大きく、高さ方向もボリューム感のある佇まい。歴代のスズキ製SUVとしては大柄な印象を与えるが、一旦、乗り込んでしまえば、扱いに扱い易さが認識できる筈だ。

内装は、ファブリックと人工皮革のコンビネーションタイプ。プロトタイプのドライバーズシートは、電動調整式でポジション調整も素早く決められるため乗員を包み込むホールド感が感じられる。パドルシフトは非搭載だ。

インテリアデザインは、エアコン吹き出し口のグロス処理、フローティングセンターコンソールのブラック記帳などがいつものスズキ流の仕上がりとなっていて、コンサバティブな印象。

加えて着座位置が高めのため前方視界が広く開けており、角張ったボンネット形状により見切りも良い。またルーフにサンルーフを備えているため、その分、上方向のスペースは狭められていると思われるものの、身長175cmの筆者の印象ではヘッドクリアランスも充分にある。

車体底にブレードバッテリーが敷き詰められていることから、床面の高さを心配して、ついでにリヤシートにも乗り込んでみた。しかし乗り込みに難渋するほどのことはなく、微調整可能なリクライニング機能と前後方向に160mmスライドする機能を組み合わることで窮屈感を感じさせ難い配慮を施している。

さてeビターラはBEVなので試乗では、スタートボタンをオンにするだけ。センターコンソール上のダイヤル式のシフトセレクターでドライブモードを選択することで、0〜100km/h・7.4秒(80〜120km/h・6.0秒)のポテンシャルを活かして力強く立ち上がる。

今回は、袖ヶ浦フォレストレースウェイでの試乗であるため、一定の速度制限を課せられていたものの、ある程度、思い切った走りも試すことができるので、中速域を保ったままコーナリングに入る。

この際の車体姿勢は、車体底部にバッテリーユニットを搭載していること。ピュアBEVのため、鼻先に重い動力源を搭載していないことから回答性もスムーズで、高いスピードを保ったまま、スムーズに回り込んでいく。

操舵スピードに対する姿勢変化はリニアかつ穏やかで、緊張感を感じることなく、アペックスが変化する複合コーナーも難なくクリアしていける。

また4WD車の場合、前後モーターが30〜70%の範囲で自動制御されること。ブレーキも左右間でのスリップ補正に対応していることから、カープを縫うように、あえて急激な切り返し操舵を行っても、簡単に破綻することはない様子。この際、eビターラに係るドライビングポイントは、ブレーキ操作による姿勢変化を上手く利用すること。

この際の印象を逆に捉えると、元々eビターラは、ゆったりした操舵感を得られ易いことから自身の運転が上手くなったように感じられ、図らずも想定以上のスピードを乗せてしまうことに留意した方が良いと思えるほどの安定感が得られる点が美点だ。

対して2WDモデルでは、リヤモーターの駆動制御が得られないことから、4WDと比べるとタイヤからのジャダー現象の発生が早い傾向。但し通常の内燃エンジン車とは異なり、極めて重心位置が低いことから、緊張感を低く保ったままコーナーを駆け抜けることができている点は同じだ。

それゆえタイヤに掛かるストレスは、速度に乗じて高まっていくことを踏まえると2WD車は、むしろ腕に覚えのあるドライバー向きと思われる。

一方で4WD車は、先の通りで通常走行時のトルク配分がフロント54:46。これが加速時に50:50、減速時に70:30などに素早く変化する。また巡航時にはフロントモーターのみで走って電気の消費を節約することもできる。

そうした意味で、4WD車は降雪地域向け車両というよりも、純粋に安心してキビキビした走りを愉しみたいユーザー向けと言えるだろう。

最後に価格面だが、既に英国で流布されている500万円台超という車両価格を日本市場へ持ち込むとなると、純粋な輸入車などの競合車がひしめくマーケットで勝負することになりそうだが、これらの是非については、日本国内に於ける実際の車両価格が決まってからとしたい。

新型「e ビターラ」専用サイト
https://www.suzuki.co.jp/car/evitara/