従来世界記録1ペタビット毎秒の約2倍である2.15ペタビット毎秒を達成
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 坂内 正夫)は、住友電気工業株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:松本正義、以下、住友電気工業)、RAM Photonics, LLC(RAM、CEO: John R. Marciante)と共同で、従来世界記録であった光ファイバ1本あたりの伝送容量を2倍以上に更新し、2.15ペタビット*1毎秒の光信号の送受信実験に成功した。
品質が均一で長距離伝送に好適な同種コア型のシングルモード22コアファイバを採用
光ファイバ1本当たりの伝送容量を拡大する次世代技術として、新型光ファイバ*2が世界的に研究されている中、今回、品質が均一で長距離伝送に好適な同種コア型のシングルモード22コアファイバと波長多重光を一括で生成可能な高精度光コム*3光源を用いて、30km伝送の実証を行った。
将来の大規模デジタルコヒーレント光ネットワークに向け、高精度光コム光源を採用
光伝送システムでの利用が期待されている高精度光コム光源を採用した今回の実験により、将来の大規模デジタルコヒーレント*4光ネットワーク実現の可能性が拓く。なお、本論文は、第41回欧州光通信国際会議(ECOC2015)にて高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文として採択されている。
【背景】
増大し続ける通信トラフィックに対応するために、従来の光ファイバの限界を超える新型光ファイバと、それを用いた大規模光伝送の研究が世界中で盛んに行われている。
しかし長距離伝送に耐え得るには、伝送能力を左右するレーザ光源の性能を高める必要があり、一括で数百の光搬送波を生成する高精度光コム光源の利用が期待されていた。
【今回の成果】
今回NICTは、長距離伝送への適応性を考慮し、シングルモード22コアファイバと、高品質なレーザ光源群よりも優れた性能を持つ光を、通信波長帯において一括生成する高精度光コム光源による光伝送システムを構成し、従来記録の2倍以上となる2.15ペタビット毎秒の光信号の送受信実験に成功した。
同実験で、住友電工が「シングルモード22コアファイバ」を設計・製造した。また、「高精度光コム光源」は、住友電工が独自開発した専用の高非線形ファイバを使用し、RAM社が設計・製造した。
本実験結果により、マルチコアファイバの潜在能力を押し上げると共に、高精度光コム光源の大容量伝送への適用を実証したことで、将来の大規模コヒーレント光ネットワークの可能性を拓いた。
なお、本実験の結果は、スペイン、バレンシアで開催されている光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第41回欧州光通信国際会議(ECOC2015、9月27日(日)~10月1日(木))で高い評価を得てポストデッドライン論文(最優秀ホットトピック論文)として採択され、現地時間10月1日(木)14:00に発表した。
用語解説
*1 ペタビット
1ペタ(P)ビットは1000兆ビット、1テラ(T)ビットは1兆ビット、1ギガ(G)ビットは10億ビット、1メガ(M)ビットは100万ビット。
通常の家庭用光ファイバサービス(FTTH)は、最大でも毎秒2ギガビットほどの速度であり、1ペタビットはその50万倍に当たる。
*2 新型光ファイバ 主な特徴
◎異種コア
(物理特性が違うコアを配置)
マルチコアファイバ コア間クロストークの低減が容易で、コア数を増やすことも可能である。
コア毎の光の進行速度が異なるため、空間符号化や自己ホモダイン伝送には不適。
シングルモードタイプ、マルチモードタイプが存在する。
これまでは、36コアファイバが最高コア数である。
◎同種コア
(全コア物理特性が同じ)
マルチコアファイバ 各コアの光が同じ速度で進行するので、空間符号化や自己ホモダイン伝送など高度な伝送方式に対応可能。
コア間クロストーク低減に高度な技術が必要で、コア数を増やすことが難しい。
シングルモードタイプ、マルチモードタイプ及び混在タイプが存在する。
これまでは、19コアファイバが最高コア数であった。
*3 光コム
周波数コムとは、電気信号が周波数スペクトル上で見ると、同じ強度の等間隔の成分が櫛の歯(comb)のように並んでいることから付いた名称であり、工業的に様々な応用形態が提案されている。
光コムとは、同様に光周波数領域で櫛の歯状のスペクトルを持つ光源を指し、分光計測などに用いられるほか、波長多重光通信の光源としても有望視されている。分光用と通信用では光コムのスペクトル幅に大きな違いがあり、後者ではCバンド(波長1530~1565nm)やLバンド(波長1565~1625nm)などが対象となる。
光コムの生成には種々の方法があるが、評価すべき品質は、スペクトルの平坦性、出力強度、周波数間隔設定の自由度、線幅、光信号の雑音比(OSNR: Optical Signal to Noise Ratio) などが挙げられる。
*4 デジタルコヒーレント
光の位相を用いて周波数利用効率を向上するコヒーレント伝送方式を実現するため、デジタル信号処理を活用した通信手法。
現在は光信号の位相と強度を制御して信号点をマッピングする直交振幅変調(QAM: Quadrature Amplitude Modulation) 方式が中心的に研究されており、信号点の数をとって16QAM、64QAMなどと呼称される。
信号スロットあたり1ビットを収容する旧来の方式に比べて、例えば16QAMでは4ビット、64QAMでは6ビットの収容が可能となる。