ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹氏、2016年の展望を語る


株式会社ナカニシ自動車産業リサーチ(本社:東京都千代田区、代表:中西孝樹)は先の12月・東京都千代田区に於いて「我が国自動車産業の2016年の展望~VW問題の先にある課題」と題したプレス・ブリーフィングを実施した。

nakanishi-nakanishi-ko-jus-automotive-industry-research-talk-about-the-prospects-for-2016-0104-5壇上でスピーカーとして立った同社代表兼アナリストの中西孝樹氏は、「2015年の国内自動車産業の現状と課題を踏まえると、2016年は経済に於いても、その他の面に於いても楽観的な環境が望める公算が高い。

但し、そこに慢心することは危険だ。その先に伺える外部環境の悪化、企業間競争の激化などを見据え、地に足のついた構造改革の手綱を緩めてはならない。

またVWの不正問題は、世界規模で規制強化に伴う技術革新を加速させる公算がある。『VWショック』は日本勢に追い風とはならず、欧米自動車メーカーは、IT化とパワートレインの電動化の流れを一層加速化させる戦略を選択してくるだろう」と述べた。

この独VW問題に関して中西氏は、「日本の国内報道では、ドイツ経済の失速で『日本の自動車産業への追い風』を指摘する声が聞かれるが、そうした楽観論で物事を捉えない方が良い。

確かにVW内では、『国外に於けるブランド価値とグローバル販売台数の低下』、『信用悪化に伴う資金調達コストの上昇』、『巨額の裁判費用』等が当面の経営上の課題として生まれている。

しかし、過去の深刻な課題を前にトヨタやGMが復活できたように、VWの再生も可能だろう。

日本では異例のVW車販売低迷が進んでいる一方で、そもそも独国内マーケットを中心に、欧州や中国に於ける自動車販売実数に於いて自動車ユーザーが、VW外や欧州車外の車両へ乗り換えるまでの消費行動に至っていない。

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かつて米国で持ち上がったトヨタ車のリコール問題発生時に於いても、ユーザーがトヨタ車外に乗り換えるブランド・チェンジは多くは無かった。

同一メーカーで、ガソリン車からハイブリッド車への車両乗り換えや、同一国内メーカー間での車種乗り換えは、起きうる事態だが、個々車両販売店のセールス努力もあって、個々の消費者にブランドチェンジを決断させる事は、想定以上にハードルが高い。

加えて、世界規模から見た今回のVW車のリコール影響地域は、台数こそ1100万台と巨大だが、実際に影響を受ける地域は意外に狭く限定されている。

具体的には、5万台以上のリコール規模がある地域は、VWグループ全体の販売台数の30パーセント内に留まる。

むしろVW問題は、日本も含む自動車業界全体に大きな構造的な変化をもたらすだろう。その筆頭に挙げられる課題は、さらなる規制強化が進むことにある。

これにより技術革新を超える規制強化が進み、業界の収益環境が悪化する可能性さえある」と云う。

さらに中西は、「大気汚染(NOx、PM、HC等)規制では、RDE(Real Driving Emission)と呼ばれる新たな試験方法の導入がより加速化される。

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2015年末、日本国内で開始されたRDE(Real Driving Emission)試験風景(写真は、独立行政法人交通安全環境研究所の実験車両)

結果、ディーゼル燃料やガソリン燃料という使用する燃料種別の枠を超え、化石燃料を使う自動車、特に小型車は排ガス規制への適応問題に直面する。

なぜなら排出ガス対策で小型車は、大型の浄化装置を装着するスペースも、また装置そのものを搭載するコスト面に於いても、実搭載が難しいからだ。

今後の自動車産業は、規制対応へのコスト上昇、商品力の低下、収益性の悪化に悩まされるリスクが高まるだろう。

昨今、自動車の搭載機構は、メカトロニクスから電子制御に大きく置き換わる歴史を辿っているが、これからは、さらにその加速が進み、エンジンがモーターに置き換わるだけでなく、構成部品のほとんどが電子部品化・ソフトウエア化される。結果、自動車産業は、家電産業と同じ道を歩むようになる。

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VWグループはディーゼル問題発生以降、車両のエレクトロニクス化を加速させている。近く開催されるCES2016ではVW本体から、新型コンセプトカーが発表される見込みだ。

https://www.youtube.com/watch?v=l6MYED6nCSY

こうしたソフトウェア主導の工業製品開発というジャンルでは、むしろ欧州メーカーが先行しているから、VW問題は、同社の競争力を大きく削ぐ以前に、電動化やIT化へのシフトにより、日本の自動車メーカーにとって、さらなる脅威となっていくと見ている。

トヨタに代表される国内の自動車産業は、自動車メーカーとサプライヤーの垂直統合体制で成り立っている。一方、ドイツでは水平分業によりメガ・サプライヤーを育成し、自動車のIT化を一気に加速させる構えだ。

むしろ自動車のエレクトロニクス化に関する主導権をVWが筆頭とする欧州車勢が握った場合、今回の躓きが、結果として欧州勢からの脅威を拡大させる可能性もある。

VW問題に対して、日本国内の自動車産業が油断をしてしまい、未来に向けて、本来必要な改革を怠ることになれば、それこそ近未来に憂慮すべき事態に陥ることになるだろう」と語った。