IBMの次世代量子コンピューターが日本で稼働開始
IBMと理化学研究所(理研)は6月24日、報道陣を招いて米国外およびIBM Quantumデータセンター以外に初めて展開されるIBM Quantum System Twoを披露した。
このシステムが稼働開始になったことは、地球上で最も高性能なスーパーコンピューターのひとつである日本の「富岳」と同一建屋に設置された最初の量子コンピューターとしても画期的な事例となる。
今回のIBM Quantum System Twoの設置は、経済産業省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が委託する「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の「量子・スパコンの統合利用技術の開発」プロジェクトの一環として実施された。
理研に設置されたIBM Quantum System Twoは、IBM史上最も高性能な量子プロセッサーである156量子ビットのIBM Quantum Heronプロセッサーを搭載している。
100 量子ビットの階層化回路に於ける2量子ビットのエラー率で測定したIBM Quantum Heronの品質は3×10-3(一番良い2量子ビットのエラーは1×10-3)で、これは前世代の127量子ビットのIBM Quantum Eagleプロセッサーの10倍となる。
IBM Quantum Heronの速度は250,000 CLOPS(1秒当たりの回路層操作数)で、これはIBM Quantum Eagleよりも過去1年間で10倍以上向上したことを反映している。
このような品質および速度の指標から、156量子ビット規模に於いて、IBM Quantum Heronは世界で最も高性能な量子プロセッサーといえる。
「富岳」との接続により量子計算の能力と精度を加速
IBM Quantum Heron は、古典コンピューターによる総当たりシミュレーションを遙かに超える量子回路を動作させることが可能であり、「富岳」との接続により、理研の研究チームは量子を中心としたスーパーコンピューティング・アプローチを用いて、基礎化学問題などの高度なアルゴリズムの研究を推進できるようになる。
IBM Quantum System Twoは、日本有数のハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)センターである理研計算科学研究センター(R-CCS)内の、「富岳」が設置されている同じ建物内に設置されている。
これらのコンピューターは、基礎的な命令レベルで高速ネットワークを介して接続され、「量子を中心としたスーパーコンピューティング」の実証場を形成する。
この基礎レベルでの統合により、理研とIBMの研究者は、並列化されたワークロード、低遅延な古典・量子通信プロトコル、高度なコンパイルパスとライブラリーを開発できるようになる。
量子システムと古典システムは、最終的に異なる計算の強みを提供するため、これにより、各パラダイムが、それぞれに最適なアルゴリズムの各パートをシームレスに実行できるようになるという。
IBM Quantum System Twoは、IBMのグローバルな量子コンピューター群を拡大するものであり同日、日本の神戸で開催された記念式典にて正式に発表された。
記念式典には、理研の五神 真理事長、IBM Quantumバイス・プレジデントのジェイ・ガンベッタ氏(Jay Gambetta)、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏の他、地元国会議員、兵庫県知事、神戸市長、経済産業省、NEDO、文部科学省の代表者も参加した。
その能力は100年間の時間を要する計算を1分で処理する
IBM Quantum バイス・プレジデントのジェイ・ガンベッタ氏は、「コンピューティングの未来は量子を中心としたものであり、理研と共にこのビジョンを実現するための大きな一歩を踏み出しています。
世界中の業界リーダーや研究機関と共に、世界最大の量子システム群で可能性を拡大し続けています。
最新のIBM Quantum Heron を搭載し、富岳と接続されたIBM Quantum System Twoにより、科学者やエンジニアは可能性をさらに追及できるようになります」と述べた。
また理化学研究所 計算科学研究センター 量子HPC連携プラットフォーム部門 部門長の佐藤三久博士は、「理研は、富岳とIBM Quantum System Twoを連携させることで、日本をハイパフォーマンス・コンピューティングの新時代へと導くことを目指しています。
私たちの使命は、科学界と産業界の両方で探求できる実用的な量子HPCハイブリッド・ワークフローを開発・実証することです。
これらの2つのシステムを接続することで、このビジョンの実現に向けて重要な一歩を踏み出すことができます」とその意義を説明した。
理研にIBM Quantum System Twoを設置することで、理研とIBMの研究者は、量子コンピューターが既知の古典的方法よりも速く、安価に、より正確に問題を解決できる、という量子優位性を発揮するアルゴリズムの発見を目指してきたこれまでの成果を拡大させていく。
これまでの成果には、最近、科学雑誌「Science Advances」に論文として掲載された、自然界や有機系に広く存在する化合物である硫化鉄の電子構造を正確にモデル化するためのサンプルベースの量子対角化(SQD、sample-based quantum diagonalization)技術に基づく研究が含まれる。
このような複雑なシステムを現実的にモデル化する能力は、化学の多くの問題に不可欠であり、歴史的にはフォールト・トレラントな量子コンピューターが必要であると考えられていた。
SQDワークフローは、今日の量子コンピューターが強力な古典的インフラストラクチャーと統合することで科学的な価値を提供できることを最初に示した事例のひとつとなる。