三菱ふそうトラック・バス(MFTBC/本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長・CEO:カール・デッペン)は5月21日、岩谷産業(本社:大阪・東京、社長:間島寬)と液化水素を利用した水素燃料商用車向けの水素充填技術の研究開発で基本合意書を締結した。
両社は、新たな液化水素の充填方法であるサブクール液化水素(subcooled liquid hydrogen:sLH2)充填技術に関する研究開発を共同で行う。
sLH2充填は、圧縮水素ガスと比較して、水素燃料のより高い貯蔵密度、より長い航続距離、充填時間の短縮化、より低い運用コスト、より高いエネルギー効率といった面で優位性を持つ。
岩谷産業と MFTBC は、sLH2充填に関する技術、規制及び商用化に関する共同研究を行い、sLH2充填技術の日本での確立に向けて取り組みを進めていくという。
三菱ふそうによるとsLH2充填は、長距離輸送を中心に重量物運搬を行う商用車のカーボンニュートラル化を実現する上で、水素燃料は重要な手段であると見られており、水素は従来、圧縮ガスとして車内に貯蔵する形で用いられる。
なお、三菱ふそうを含むダイムラートラックは、独本国を包括する欧州に於いてリンデエンジニアリングと組んで(後述)、サブクール液体水素を扱うための新しいプロセスであるsLH2を共同で開発している。
80kgの液体水素を積んだ40トンの大型トラックの場合、燃料補給は約10~15分で、1,000キロメートル以上の航続距離が実現できる。同時に、新しいsLH2技術を使えば水素燃料補給ステーションに必要な投資は2~3分の1に。運用コストは5~6分の1に削減されると謳っている。
ダイムラーグループでは日本国内に於いても、こうした独自技術に係る知見を活かしていきたい方策であろうと考えられる。
<協業内容>
▷液化水素充填に関する技術開発及び技術提携
▷液化水素に関する規制および認証に関する調査
▷充填インフラに関するビジネス関連事項の調査
▷充填インフラや水素燃料車両の普及に関するマーケティング活動
先にも説明したがsLH2 充填とは、液化水素をポンプで加圧しながら車両に搭載された液化水素タンクに充填する方式。
これにより液化水素タンク内のボイルオフガス(蒸発した水素ガス)が再液化され、ボイルオフガスを排出する必要がなく、急速に充填が行える液化水素の新しい充填技術を指す。
sLH2 充填技術の利用により、水素ステーションで圧縮水素ガスを利用する工程で通常必要となる設備の多くを省略できるため、水素ステーションの投資コストを削減できる。
また、水素を利用する際に加圧する圧力がとても低いため、水素の圧縮工程で消費されるエネルギーも大幅に削減できるメリットがあり、水素ステーションの運用コストも削減できる。
sLH2 充填技術は、ダイムラートラックとドイツのリンデ・エンジニアリング(Linde Engineering)によって共同開発され、この技術は ISO 規格化に向けて、関係者間で議論されている。
またダイムラートラックでは、水素駆動の車両開発では液化水素が適していると見ており、液化水素を使用するメルセデスベンツ・ブランドの大型燃料電池トラックのプロトタイプ「GenH2 Truck」を開発し、お客様先での実証も 2024 年より開始した。
更にボルボグループとの合弁会社セルセントリック(cellcentric)とも大型トラック向けの燃料電池システムの開発・生産を進めている。
これを受けてMFTBC は持続可能な未来の実現に向けて、研究開発を通じて先進技術の先駆者となることを目指している。
同社では持続可能な未来の実現に不可欠な要素となる「製品」「顧客」「インフラ」の 3 つを柱に掲げ、相互に関連する 3 つの柱による研究開発を行っている。岩谷産業との協業でMFTBCは「インフラ」の柱を中心に、液化水素に関わる研究開発を進めていく構えだ。